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絵の中の少女は

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 フィオナはそう言ったアマリアの顔を見つめ、向こうは表情を崩した。

 泣き笑いのような形だったけれど、確かに笑ってくれる。

「勿論よ。きっとアマリアが思っているよりたくさん」

 その優しい笑顔につられたように、アマリアも笑みが出てきた。

 まだ作ったものだったけれど、確かに『笑みを浮かべたい』という気持ちからの表情だ。

「それなら、……嬉しいです」

「ええ。もっと自信を持って」

 フィオナは立ち上がり、アマリアに身を寄せてきた。

 そして腕を伸ばし、アマリアを軽く抱きしめてくれたのだ。

 百合のような甘い香りが漂う。

 きっとフィオナのつけている香水だろう。

 とても優しい香りで、まるで……。

 アマリアの頭にあることがよぎった。

 ……お母さまにしていただいているようだわ。

 その気持ちはアマリアの胸に、痛みと幸せの両方を呼び起こした。

 まだ物事つかぬうちに早逝してしまった母の記憶はほとんどない。

 だからあまり寂しいと思ったこともない。

 優しい父や親戚、乳母にも近いハンナ。

 それらのひとたちがいてくれたから。

 でもやはり母を恋しく思う気持ちはあったのだろう。

 だってこうして優しい腕に抱かれていると、とても安心する。
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