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結婚式前夜

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「ええ。たまに使うことはございましても、ここまで念入りなのは初めてですものね」

 ハンナはこのあとの支度があるのだろう。

 洗い場であちこち動きながら答えてくれた。

「ついに明日、お嫁入りですのね」

 そのとき、しみじみと言われたこと。

 ある意味、ハンナのほうがこの結婚を、重大で素晴らしいものだと思っているような発言だった。

 だって、ハンナはこの結婚が契約であるとは知らないのだから。

 隠しているようで心は痛むけれど、仮にも年頃の娘が、本当の意味でない結婚をするのだと知れば、悲しむかもしれないではないか。

 だから今のところは伏せておくことにしたのだ。

「ええ。でもあまり緊張する必要はないわ」

 アマリアは浴槽のふちに腕を置き、そこへあごを乗せてリラックスしながらそう答えた。

 ハンナの少し呆れたような声が返ってくる。

「まぁ、わたくしではなく、お嬢様自身をご心配くださいませ」

「確かにそうね」

 確かにそうだった、と思い、アマリアはくすっと笑ってしまった。
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