32 / 138
良くないにおい
⑤
しおりを挟む
「だってほんとうだよ。ねぇ、」
言い募るコリン。
しかしノアとしては、そうかそうするよ、などとは素直に受け取れないではないか。だってなんの裏付けもない。
「根拠もないのにそういうことを言うやつは嫌いだ」
ノアが言った『嫌い』という単語に反応してか、ぴくりとしたコリンの耳。
それはすぐにしょげたように垂れてしまう。
「ほんとなのに……」
心から思っている、という様子だったが、ノアの理性が勝った。
「じゃあなにか理由でもあるのか。無いならそんな失礼なことを言うな。もう帰れ」
「ノア」
コリンはノアを見上げた。まるで懇願するような眼だった。
こんな眼で見られたことはない。
心配してくれているのはわかるけれど、大体コリンにだって気を許してなどいないのだ。そんな存在に言われたところで。
「もういいか。オレはそろそろ家のことを片付けないといけない。じゃあ、な」
「ノア!」
くるりときびすを返してノアは家の中へ入ってしまう。ぱたんとドアを閉めた。
鍵はかけなかったのでコリンがそのつもりなら、ドアを叩くなり勝手に入るなりすることはできただろう。
けれどそうはしないと踏んでいた。
そういうやつだ。妙に律儀だというか。
居室へ入ってノアは、ふぅっとため息をついた。
今日は妙に疲れた。その原因はジェームスであることが明らかであるが。
どうにも。
悪いやつではないだろうが、とまで思って、ノアは自分もそう思いきれていないことに気付いてしまう。
不快感を感じたことも、信用しきれない気持ちになったことも、怪しむ気持ちも確かにあるのだ。
おまけにジェームスの来訪の前に来ていた老婆のお客にも同じように言われた。
『あまり優しいと付け入る輩がいるかもしれないよ』。
それは忠告だろう。
本当になにかよからぬことを考えているやつなのだろうか。
いや、自分でコリンに言ったじゃないか。
根拠もないのにひとを嫌うなんて、疑うなんていけないことだ。
ノアは自分に言い聞かせた。
大体、付け入るってなにがあるんだ。
金でも盗られるとかいうのか。
盗られて困るのは秘蔵の薬物レシピくらいであるが。
……今日は戸締りをしっかりしておこう。
そのくらいに思ってノアは出しっぱなしだった食器を流しで片付けはじめた。
その思考や判断はどうにも甘すぎたのだったが。
言い募るコリン。
しかしノアとしては、そうかそうするよ、などとは素直に受け取れないではないか。だってなんの裏付けもない。
「根拠もないのにそういうことを言うやつは嫌いだ」
ノアが言った『嫌い』という単語に反応してか、ぴくりとしたコリンの耳。
それはすぐにしょげたように垂れてしまう。
「ほんとなのに……」
心から思っている、という様子だったが、ノアの理性が勝った。
「じゃあなにか理由でもあるのか。無いならそんな失礼なことを言うな。もう帰れ」
「ノア」
コリンはノアを見上げた。まるで懇願するような眼だった。
こんな眼で見られたことはない。
心配してくれているのはわかるけれど、大体コリンにだって気を許してなどいないのだ。そんな存在に言われたところで。
「もういいか。オレはそろそろ家のことを片付けないといけない。じゃあ、な」
「ノア!」
くるりときびすを返してノアは家の中へ入ってしまう。ぱたんとドアを閉めた。
鍵はかけなかったのでコリンがそのつもりなら、ドアを叩くなり勝手に入るなりすることはできただろう。
けれどそうはしないと踏んでいた。
そういうやつだ。妙に律儀だというか。
居室へ入ってノアは、ふぅっとため息をついた。
今日は妙に疲れた。その原因はジェームスであることが明らかであるが。
どうにも。
悪いやつではないだろうが、とまで思って、ノアは自分もそう思いきれていないことに気付いてしまう。
不快感を感じたことも、信用しきれない気持ちになったことも、怪しむ気持ちも確かにあるのだ。
おまけにジェームスの来訪の前に来ていた老婆のお客にも同じように言われた。
『あまり優しいと付け入る輩がいるかもしれないよ』。
それは忠告だろう。
本当になにかよからぬことを考えているやつなのだろうか。
いや、自分でコリンに言ったじゃないか。
根拠もないのにひとを嫌うなんて、疑うなんていけないことだ。
ノアは自分に言い聞かせた。
大体、付け入るってなにがあるんだ。
金でも盗られるとかいうのか。
盗られて困るのは秘蔵の薬物レシピくらいであるが。
……今日は戸締りをしっかりしておこう。
そのくらいに思ってノアは出しっぱなしだった食器を流しで片付けはじめた。
その思考や判断はどうにも甘すぎたのだったが。
0
お気に入りに追加
50
あなたにおすすめの小説
【完結】凄腕冒険者様と支援役[サポーター]の僕
みやこ嬢
BL
2023/01/27 完結!全117話
【強面の凄腕冒険者×心に傷を抱えた支援役】
孤児院出身のライルは田舎町オクトの冒険者ギルドで下働きをしている20歳の青年。過去に冒険者から騙されたり酷い目に遭わされた経験があり、本来の仕事である支援役[サポーター]業から遠退いていた。
しかし、とある理由から支援を必要とする冒険者を紹介され、久々にパーティーを組むことに。
その冒険者ゼルドは顔に目立つ傷があり、大柄で無口なため周りから恐れられていた。ライルも最初のうちは怯えていたが、強面の外見に似合わず優しくて礼儀正しい彼に次第に打ち解けていった。
組んで何度目かのダンジョン探索中、身を呈してライルを守った際にゼルドの鎧が破損。代わりに発見した鎧を装備したら脱げなくなってしまう。責任を感じたライルは、彼が少しでも快適に過ごせるよう今まで以上に世話を焼くように。
失敗続きにも関わらず対等な仲間として扱われていくうちに、ライルの心の傷が癒やされていく。
鎧を外すためのアイテムを探しながら、少しずつ距離を縮めていく冒険者二人の物語。
★・★・★・★・★・★・★・★
無自覚&両片想い状態でイチャイチャしている様子をお楽しみください。
感想ありましたら是非お寄せください。作者が喜びます♡
異世界転移してΩになった俺(アラフォーリーマン)、庇護欲高めα騎士に身も心も溶かされる
ヨドミ
BL
もし生まれ変わったら、俺は思う存分甘やかされたい――。
アラフォーリーマン(社畜)である福沢裕介は、通勤途中、事故により異世界へ転移してしまう。
異世界ローリア王国皇太子の花嫁として召喚されたが、転移して早々、【災厄のΩ】と告げられ殺されそうになる。
【災厄のΩ】、それは複数のαを番にすることができるΩのことだった――。
αがハーレムを築くのが常識とされる異世界では、【災厄のΩ】は忌むべき存在。
負の烙印を押された裕介は、間一髪、銀髪のα騎士ジェイドに助けられ、彼の庇護のもと、騎士団施設で居候することに。
「αがΩを守るのは当然だ」とジェイドは裕介の世話を焼くようになって――。
庇護欲高め騎士(α)と甘やかされたいけどプライドが邪魔をして素直になれない中年リーマン(Ω)のすれ違いラブファンタジー。
※Rシーンには♡マークをつけます。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
月が導く異世界道中extra
あずみ 圭
ファンタジー
月読尊とある女神の手によって癖のある異世界に送られた高校生、深澄真。
真は商売をしながら少しずつ世界を見聞していく。
彼の他に召喚された二人の勇者、竜や亜人、そしてヒューマンと魔族の戦争、次々に真は事件に関わっていく。
これはそんな真と、彼を慕う(基本人外の)者達の異世界道中物語。
こちらは月が導く異世界道中番外編になります。
異世界居酒屋さわこさん細腕繁盛記
鬼ノ城ミヤ(天邪鬼ミヤ)
ファンタジー
陸奥さわこ 3*才独身
父が経営していた居酒屋「酒話(さけばなし)」を父の他界とともに引き継いで5年
折からの不況の煽りによってこの度閉店することに……
家賃の安い郊外へ引っ越したさわこだったが不動産屋の手違いで入居予定だったアパートはすでに入居済
途方にくれてバス停でたたずんでいたさわこは、そこで
「薬草を採りにきていた」
という不思議な女子に出会う。
意気投合したその女性の自宅へお邪魔することになったさわこだが……
このお話は
ひょんなことから世界を行き来する能力をもつ酒好きな魔法使いバテアの家に居候することになったさわこが、バテアの魔法道具のお店の裏で居酒屋さわこさんを開店し、異世界でがんばるお話です
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる