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良くないにおい

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「だってほんとうだよ。ねぇ、」
 言い募るコリン。
 しかしノアとしては、そうかそうするよ、などとは素直に受け取れないではないか。だってなんの裏付けもない。
「根拠もないのにそういうことを言うやつは嫌いだ」
 ノアが言った『嫌い』という単語に反応してか、ぴくりとしたコリンの耳。
 それはすぐにしょげたように垂れてしまう。
「ほんとなのに……」
 心から思っている、という様子だったが、ノアの理性が勝った。
「じゃあなにか理由でもあるのか。無いならそんな失礼なことを言うな。もう帰れ」
「ノア」
 コリンはノアを見上げた。まるで懇願するような眼だった。
 こんな眼で見られたことはない。
 心配してくれているのはわかるけれど、大体コリンにだって気を許してなどいないのだ。そんな存在に言われたところで。
「もういいか。オレはそろそろ家のことを片付けないといけない。じゃあ、な」
「ノア!」
 くるりときびすを返してノアは家の中へ入ってしまう。ぱたんとドアを閉めた。
 鍵はかけなかったのでコリンがそのつもりなら、ドアを叩くなり勝手に入るなりすることはできただろう。
 けれどそうはしないと踏んでいた。
 そういうやつだ。妙に律儀だというか。
 居室へ入ってノアは、ふぅっとため息をついた。
 今日は妙に疲れた。その原因はジェームスであることが明らかであるが。
 どうにも。
 悪いやつではないだろうが、とまで思って、ノアは自分もそう思いきれていないことに気付いてしまう。
 不快感を感じたことも、信用しきれない気持ちになったことも、怪しむ気持ちも確かにあるのだ。
 おまけにジェームスの来訪の前に来ていた老婆のお客にも同じように言われた。
 『あまり優しいと付け入る輩がいるかもしれないよ』。
 それは忠告だろう。
 本当になにかよからぬことを考えているやつなのだろうか。
 いや、自分でコリンに言ったじゃないか。
 根拠もないのにひとを嫌うなんて、疑うなんていけないことだ。
 ノアは自分に言い聞かせた。
 大体、付け入るってなにがあるんだ。
 金でも盗られるとかいうのか。
 盗られて困るのは秘蔵の薬物レシピくらいであるが。
 ……今日は戸締りをしっかりしておこう。
 そのくらいに思ってノアは出しっぱなしだった食器を流しで片付けはじめた。
 その思考や判断はどうにも甘すぎたのだったが。
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