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良くないにおい

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「悪いな、メシまで」
 意外に話は続いてジェームスは夕食まで食べていった。
 話が色々と続いたのは、結局自分の仕事については話してくれなかったが、住んでいたり訪ねたことのある街について話してくれたのだ。
 一番近くの街以外のところに行ったことはほとんどないノアにとっては、新鮮な話で興味深かった。
 ついつい色々質問もしてしまってジェームスもそれに答えてくれた。
 もっとも何度かはぐらかされるようなことも言われたが。
 まぁそれも別に普通だろう、とノアは思った。
 自分にも軽々しくひとに話すことのできない話題もあるし。
 たとえば父親についてとか。これは本当に知らないというだけだが、哀れまれたりするのは本意ではない。
「お口に合ったなら良かった」
 昨日から寝かせておいたシチューだったが気に入ってくれたらしい。
 「そろそろ帰る」と言ったジェームスを玄関へ送っていったノア。
「またきてもいいか」
 ジェームスはそう言った。
 煙草の件や、自分に対して妙な物言いや視線をしてくることは確かにノアには気になった。
 が、新しい話は楽しいし断る理由もほかにはない。一応客ではあるのだし。
 そのくらいに思ってノアは「ああ。また用事があったら来るといい」と言った。
「そうか。ありがとな。じゃ」
 ひょいっと手をあげてジェームスは街への道を歩いていった。
 ノアはふぅっと詰めていた息を吐き出す。やはり知らないうちに緊張していたようだ。
 ジェームスはどう考えても変わり者だ。街のひとたちとは違う。
 よそ者である所以なのだろうか。
 それとも彼個人の気質なのだろうか。
 それはわからない。
「ノア」
 そこへ違う声がかかって、不意打ちだったためにノアは、びくっとしてしまった。
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