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金色キャンディ

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「そ、そうか」
 言ったが声はうわずった。何故だかわからなかったが。
 よく観察したあとコリンはそれを口に入れた。もごもごと口を動かして溶かして味を確かめているようだ。
 このオオカミ少年に作った食べ物を食べられることなんてこれまでにもあったというのに、なんだかこう見ていると気恥ずかしい。
 そして気付く。お菓子や料理を与えても、彼がそれを口にするところを見るのは初めてだったということに。
 なんだか新鮮さを感じてしまったが、やはりそれどころではないと自分に言い聞かせることになった。
「ん、あまい、けど、なんだろこれ。変わった味」
 キャンディが十分に溶けたのだろう。やはりもごもごとしながらではあったがコリンは感想を言ってくれた。
 まぁそうだろう。甘かろうが、一応喉飴だ。
「……大根だよ」
「え、あの白い野菜だろ。アメになんてなるの」
 ノアの『答え』にコリンは目を丸くした。その反応は純粋でなにも含みなど無いのは明らかだった。
「なったからここにあるんだが」
「そうだけど。へー……ノアはすごいなぁ」
 勝手に名前を呼ばれて、あまつさえ呼び捨てにされるのももう慣れた。
 最初こそ「馴れ馴れしい」と苦言を呈したものの聞きやしなかったのだ。
 しかしなんだか今日はこれがくすぐったい。褒められたからか、名前を呼ばれたか、あるいは自分の前で自作のキャンディなんて食べてくれたかなのかはわからないが。
「で、なんの用だ」
 妙な気持ちを心の横へ押しやってノアはやっと本題を尋ねた。
 「こんにちは」とやってきたのだ。なにか用があるかと思った。
 毎回お菓子をたかりにきているのだ、それも一応『用事』であろう。
「え、近くを通ったから。会いに来たよ」
 にこっと笑って言うコリンだったが、ノアは顔をしかめてしまう。
 それはなにも用がない、ということではないか。
「冷やかしか」
 敢えて突き放すようなことを言う。
 人間の客相手にこんな物言いをすることはないのだが。ただ遊びに来ただけで薬を買わなくたって、こんなことは言わない。
「酷いなぁ。お薬買わないといけないの」
「そうじゃないが……」
 コリンの返事にノアは困ってしまう。
「だったらいいでしょう」
 にこっと笑われた。その笑顔はまったくただのヒトの子供のようだった。
 もう大人に近いのだ、顔立ちは精悍になりつつあるようだが表情が子供でしかない。こんなふうに一メートルもないくらいの距離で笑われればただのヒトの少年にしか思えない。
 しかしそんな平和なことを思えていたのはそこまでだった。
 コリンが不意に空を見上げて言った。
 今日は晴天。空はからりと晴れて太陽がさんさんと輝いていた。その太陽を見て。
「おっと、そろそろ時間かな。太陽がてっぺんの時間に待ち合わせしてんだ」
「待ち合わせ?」
 あ、オレから聞いてしまった。
 こんなことを聞くのはやはり初めてだった。
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