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窓からの来訪者

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 今日と同じように窓から「こんにちは」と来られたのだ。
 ただし一応礼儀はあるということなのか、今するように勝手に覗くのではなく窓を叩いてからだったが。
 ひっと叫んで、部屋の端まで逃げたノアを少し不思議に思ったらしい。
「お邪魔かな」
 首を傾げて、そこからは敵意も野蛮も感じられなかったがノアにとってはあまり意味をなさなかった。
「クッキーの焼けるいい香りがしたんだ。良かったらオレにも分けてくれない?」
 言ってもノアは壁に張り付いてぶんぶんと首を振るしかなかった。その様子にコリンはますます不思議そうな顔をしたものだ。
「ヒトを襲ったりしないよ」
 狼男はヒトを襲うものではないと知っていたが、そういう理屈ではないのだ。ノアはもう一度ぶんぶんと首を振る。
「なんでそんなに怖がるの」
 言われて、こんな存在に言うのは癪であったが言わないわけにはいかない。
「犬は嫌いなんだっ」
 ノアの『理由』にコリンは、きょとんとした。
「オレ、犬じゃないよ。狼男」
「同じだ!」
 ノアにとってはなにも違いなどなかった。
「違うよー。動物じゃないもん」
「同じだ!」
 考える余裕もなく同じ言葉を叫んだノア。コリンは不満げだったがそのときはそれで引いてくれた。
「……そう。そんなら仕方ないね」
 「オレはコリン。また来るね」と軽やかに窓から飛び降りて去っていって、そのあとは前述のとおり。
 その籠城事件からすると現状すらまだ進展したほうだといえよう。コリンは不満なようだが。
 オオカミ少年とはいえ、コリンがノアに対して乱暴な振る舞いをしたり傷つけたりする行動をしたことは一度もなかった。
 それどころか人懐っこいコリンは優しい性質もたっぷり持っていたといえよう。
 が、ノアにとってはオオカミであるというだけで受け入れがたい存在であったのだ。
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