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白鳥の湖

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 お客さまのナポリターナになりきっていた莉瀬の胸は、激しく痛んだ。

 このあと天で結ばれるとはいえ、悲劇に終わってしまう恋。

 気づけば、ぽろりと涙が出ていた。


 でも泣いている場合ではない。

 すべてが終わって。

 出演した全員で舞台に出て、もう一度おじぎをする。

「見てくれてありがとう」の気持ちで。


 おじぎをしたことで、莉瀬の気持ちはゆっくり『莉瀬』に戻ってきた。

 舞台の袖に引っこんだときには、もう完全に役から戻ってきていた。

 はぁ、と息をつく。

 とりあえず、ひとつは乗り越えた。

「やったね!」「うまくいったよ!」と、ナポリターナや、ほかのお客さまの役をしていた同じクラスの子たちがまわりで喜びあっていた。


「やったね!」

 莉瀬もその中へ入って、喜びあった。

 このあとのことは、いったん置いておいた。


 ナポリターナをやりきったこと。

 今はそれをたくさん喜んでかみしめたかったから。
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