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夏休みと陸上大会

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「また決まったら連絡……あ」

 学校の友だちに言うように、連絡、なんて言ってしまって、また、はっとした。

 連絡先なんて知らない。

 いや、乙津先生の息子さんなのだから、当たり前のように乙津先生と同じ家に住んでいるだろう。

 乙津先生の家の番号なら知っているから、そこへ電話すればいいのだけど。

 それはだいぶ恥ずかしい。

 乙津先生に知られてしまうということも、なんだか恥ずかしさがある。


「ああ、そうだな。白鳥さんがよければケータイ番号とかラインとか交換しないか」

 言われて今度こそ莉瀬の心は、嬉しさに跳ね上がった。

 乙津くんは、あっさりとポケットからスマホを取り出す。

 莉瀬の心臓が、どきんどきんと高鳴っているというのに。

「い、いいけど、私、ラインは家でしか見れなくて」

「そうなのか。じゃ、電話でいいかな」

「うん!」

 そんないきさつで、なんと電話番号の交換をしてしまったのである。

 おまけに名前を登録するときに言われた。

「乙津くん、だとなんか乙津先生って呼ばれてる母さんみたいだから、名前でいいよ」

 莉瀬が『乙津くん』という名前で入力したのを見て言ったのだろう。


 名前でいいなんて。


 莉瀬の心臓が、またどきんと跳ね上がった。

 自分の中でもっともっと、特別な男の子になってしまった気がした。

「えっと、じゃ、私のことも名前でいいよ」

 少しだけためらったけど思い切って言った。

 名前で言っていい、なんて言われてしまったのだから。

 このチャンスを逃してしまったら、ずっと「白鳥さん」のままかもしれない。
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