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なにかご用事?

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「先生? 乙津先生ですか?」

「はい」

 先生になんの用事だろう。

 思ったけれど、それなら別におかしなことじゃない。

 それどころか、乙津先生がここの責任者なのだから、自然ともいえることだ。

「わかりました。先生、多分もういらっしゃると思うから、呼んできますね」

「すみません。ありがとうございます」

 きまり悪げな様子のままの彼に、にこっと笑ってみせて莉瀬は、たたっと、階段を駆け上がった。

 バレエ教室は二階なので、エレベーターを使うまでもないのだ。

 すぐに教室の前へたどりつき、ドアを開けた。

「こんにちはぁ」

 あいさつをすると、いつものようにフロアにいた子たちが「こんにちはー」と返してくれる。

 莉瀬はちょっと中を見回して……すぐに乙津先生を見つけた。

「先生!」

 莉瀬ははいていたスニーカーを脱いでくつ箱に入れて、中へ上がる。

 乙津先生のもとへまっすぐに行った。

「あの、お客さんみたいです」

「あら、お客さん?」

 乙津先生は当たり前のように、不思議そうな顔をした。

 それはそうだろう。

 お客さんなら普通に入ってくればいいのだから。

「建物の前にいらして……えっと、私と同じくらいの男の子で」

 そこまで言って乙津先生は思い当たってくれたらしい。

 ああ、と小さく言った。

「また……普通に入ってくればいいのにね」

 ひとりごとのように言って、莉瀬に、にこっと笑ってくれる。

「ありがとう。わかったわ、行くわね」
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