トウシューズにはキャラメルひとつぶ

トウシューズは宝物

1

「こんにちはぁ」

　スタジオに入って莉瀬はあいさつをした。
　同じクラスの子たちもちらほら集まりつつある。

　フロアに出てストレッチをしていたりおしゃべりをしたりしていた子がふり向いて「こんにちはー」と言ってくる。

　それを通りこして、莉瀬は更衣室に向かった。

　更衣室はクラスにいる全員は入れないけれど、そこそこの広さがある。

　集まる時間は今日のようにちらほらなのでいっぱいになってしまうことはない。

　けれどレッスンの終わりは当たり前だが同じ時間なので、みんないっせいには着がえられない。

　そういうときはどうなっているかというと、クラスの半分の子がそうじ当番になって更衣室が空くまで軽くスタジオそうじをすることになっていた。

　鏡や床を拭いたり、用具の片付けも含まれる。

　その当番は交代交代である。

　更衣室にあるのはロッカーと長いす、それから鏡台。

　ロッカーはもちろん自分だけのものではないが、決まっているところになんとなく入れる。

　カギはない。

　なくても困らないのだ。

　泥棒なんてしたらこの教室にいられなくなるのだから当たり前。

　そんなバカなことをする子は一人もいなかった。