人気作家は売り専男子を抱き枕として独占したい

一作の小説

1

　期末試験も無事に終わった。

　あとは答案と成績を待つばかり。

　それが終われば楽しい夏休みだが、だいぶソワソワする時期である。

　あの夜、秋木が急に俺を呼び出した夜だが、夜も翌朝も平和だった。

　秋木は部屋着に着替えた俺を抱くなり寝落ちたし、俺のほうは心配でなかなか寝付けなかったけれど、ぐっすり眠ったようだった。

　翌朝はきちんと目覚めて、俺まで起こしてきたのだから。

「悪かったな」

　朝、九時過ぎ。

　俺はそのあと三限から授業があったので、少し急ぐことになった。

　それを伝えたのは遅ればせながらすぎる、目が覚めてから。

　バタバタしてお暇するとき、秋木は殊勝に言った。

　やはりぼさぼさの髪とヨレた服であったけれど、クマだけはだいぶ取れていて、俺はほっとしたものだ。

「いや、いいすよ。お得意さんなんでサービスです」

　茶化して笑ってみせて、秋木もつられたように、笑みのようなものを頬に浮かべた。

「おにぎり、美味かった」

　最後に言ってくれたのは、それ。

　俺はちょっと驚いた。

　梅干しなんて仕込んで、怒鳴られたのに、お礼を言われようとは。

　でもきっと、おにぎりだか中身の梅干しだかはわからないけれど、きっと効いてくれたのだろう。

　これまた、栄養か、お腹が膨れたことか、それとも疲労回復したことか……。

　俺にはわかりやしないが、少なくともプラスの意味で働いてくれたのだ。

「どういたしまして」

　俺は今度心から笑ってしまい、それで秋木のマンションを出て駅に向かった。

　まずは家に帰って教科書やらを取ってこなければ。

　太陽はだいぶ眩しかった。

　今日も暑くなりそうだ、なんて平和に思ったのだった。