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懐かしい顔の飲み会①

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「お、ここじゃん?」
「そうみたいだな。入るか」
 週末の夜、游太と弘樹は連れ立って飲み屋街へ来ていた。ごみごみとした間をぬって約束していた店を探すのは少し困難であったが、看板がわかりやすかったので助かった。
 ほかのメンバーは駅で集合して連れ立って店まで行くのだと誘われたが、時間が間に合わなかったのだ。
 週末だ。店はかき入れ時だ。昼間から店を閉めてしまうのは勿体ない。
 よって時短営業ということにして、十七時で店を閉めた。それから飲み会へ赴いたというわけ。
 飲み会は十八時から。店の閉めをして、着替えたりなんだと支度をして、電車に乗って街中へ出て……としていれば、とっくにオーバーしてしまうことは最初からわかっていたので、あとから合流させてもらうことにしていた。
 時間は十九時前。遅刻参加にしては、なかなか早く着けたほうだ。
「すみません、今日予約して先に入っている杉井のツレですが……」
 店は寒い季節にちょうどいい、鍋物メインの和食屋。からりと引き戸を開ければ、ふわっとあたたかな空気が冷えた体を包んだ。
 らっしゃい、と近寄ってきた店員に弘樹が告げる。レジで予約確認をした店員が「……はい! ご案内します」と一室へ連れていってくれた。
 店はわいわいとしているが、極度にうるさくはない。学生時代はいわゆる『学生向け飲み屋』やチェーン店がメインだったのでもっとうるさい店が多かったが、卒業して以来たまに集まるときはこういう多少落ちついた店を選ぶことが多くなっていた。懐具合が良くなったことも手伝って。
 店員、そして弘樹のあとから歩きながら游太はちょっとそわそわしていた。それはメッセージがスマホに届いたときから気になっていた、メンバーについてである。
 99%いるとは思っていた。けれど実際目にするのは別問題であって。友人らに会えるのはいいが、それだけがひとつ、億劫であった。
「ちわーっす!」
 弘樹が明るい声を出して一室へ入った。游太も、ごくりと唾を飲んで続いて入る。十人ほどが集まるのだ、そこそこ広い、和室の部屋。
「おー! 相沢! 瀬戸内! 久しぶり!」
 こちらを見たのは懐かしい顔。三年のゼミで同じだったメンツだ、二年間ほぼ毎日顔を突き合わせていたのだからとても懐かしい。
「相沢、また背が伸びたか?」
「伸びてねぇよ! 伸びてたら怖いって」
 からかうような言葉を入り口近くに座っていた男が言ってきた。背が高めの弘樹はたまにこうしてネタにされていたものだ。
「まぁ座れよ。ナマでいいか」
「ああ、さんきゅ。ユウは?」
 入り口に一番近い席がふたつ空いていた。そこをすすめられるので、言われるがままに座った。弘樹が訊いてくれるのに単純に肯定する。
「ナマでいいよ」
「ん。ナマふたつ!」
「あいよ! ナマにちょー!」
 案内してくれた店員に伝え、威勢のいい声が返ってきた。
 ビールは提供が早い。数分も経たずに持ってこられた。
「よーし! じゃ、乾杯しなおすかー!」
 半分ほどになってはいたが、それもビールのグラスを持って立ち上がったのは幹事の杉井だ。
「久しぶりの再会に……かんぱーい!」
 かんぱい、かんぱい! と声があがってグラスがぶつけられる。
 あっちこっちとグラスをぶつけあったあと、最後に弘樹と「オツカレ」とかちりと合わせた。
 乾杯も済んで、游太は口をつけて、ぐーっと中身を煽る。仕事のあとの体に気持ち良く染み入っていった。
「うっめ!」
 つい声が出て、弘樹がくすくすと笑う。
「働いたあとのビールは美味いな」
「お、そうだったよな。今日も店、開けてたの」
 弘樹が『働いたあと』と言ったのに反応して、近くに座っていた面々が集まってきた。
 游太と弘樹が一緒にカフェを経営していることは勿論知られている。
 同性婚をしていることは話していないが。
 交際自体、昔からゼミの元仲間には公にしていなかった。弓道部の一部や、大学外の共通の友人など、仲のいいひとたちにしか話していないことである。
 同性婚が認められたとしても、世間の風当たりはまだまだ強いから信頼できるひとだけに話したいし、理解してもらえればいい、というスタンスを二人で決めていた。だからここでは単純に『仲のいい親友』としてしか振舞っていないのである。今も、昔も。
「儲かってんの?」
「や、客をたくさん入れる店じゃないから……まぁ、そこそこ?」
「なんだよー、もっとがっぽがっぽ稼げばいいのに。自営だとボーナスもないだろー」
 毎回されるようなやりとり。弘樹はそちらへ行ってしまったし、游太も別の友人に捕まった。
「オツカレ! なんか髪、伸びたか?」
「ああ……ちょっと伸ばしてみてる」
 大学時代から髪は長めだったが、気分によって切ったり伸ばしたりしていた。なので短い時代も長い時代も見られている。今日は仕事中きっちり結んでいたのをほどいて、そのまま流していたので長さがよくわかったのだろう。
「瀬戸内くん、相変わらず髪キレーだよねー」
「そりゃどうも。最近流行りのボタニカルってやつを試してみてさ……」
 そこへ女子が何人か入ってきた。中性的な見た目の游太は女子の友人も多い。すぐに大学時代のものと同じような会話がはじまったが、ちょっと先を見て、游太の目が、すっと細くなった。部屋に入ったときから存在は目に留めていたし、こうくるとはわかっていたけれど。
予想通りになったことが腹立たしい。
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