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秋のディトはすぺしゃるな①
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「ディトに行こう」
しかしながら、その『一歩』もかわいらしいものであった。
ある日誘われて、金香は目をぱちくりとさせた。
連れ立って買い物などに行ったことはあったのだが、『ディト』などと言われたのは初めてであった。
今までのものは違ったのだろうか、と思ってちょっと不安になってしまったのだ。
が、麓乎の意図は違ったらしい。
「洋式の『ディト』を実行してみようと思ってね」
ああ、なるほど。
金香はその言葉で納得した。
今までは日常の延長だったのだ。
つまり、特別も特別、『すぺしゃる』な、おでかけというわけだろう。その思考を麓乎が裏付けた。
「洋式なのだから、洋装で行かねばだろう。用意してみたよ」
「え、洋服をですか」
言われて驚いた。洋装をしたことがないとは言わないが完全な『全身の洋装』というのはしたことがなかったのだ。
女性の洋装は上はぶらうす。下はすかーとというものだということは知っている。
しかし高価なものであるし町中でも扱っている店は限られていた。
「ああ。珠子さんに選んで貰ったからね。間違いはないだろう」
「珠子さんが」
あのお洒落でハイカラな珠子が。
それは間違いなどあるはずがない。
むしろどれほど素敵なものなのか楽しみになってしまった。
珠子の家に頼めば洋装などすぐに手に入るということについても納得した。お高いものだろうからお金の面は少し気になったのだけど。
「少し待っておくれ」
言って麓乎は箪笥へ向かった。
出てきたものを見て金香は驚いた。包みが既にとてもうつくしいものであったので。
桃色の薄紙に包まれて、なにやら外国の文字が入った紅いりぼんがかけられている。
「まだ贈り物をしたことがなかったね。初めての贈り物だ」
「あ、ありがとうございます!」
もう『勿体ない』などとは言わなかった。
以前と同じように、確かに『自分には勿体ない』と思いはするのだが言葉にはしない。そのほうがきっと良いものだと思うようになったから。
人の褒め言葉や好意は素直に受け取って、よろこびを表現したほうが良い。
それは金香にとっては大きな変化であった。
勿論、良いほうへの。
「開けてみておくれ」
「はい!」
渡されて金香はちょっと迷った。
どう開けたら良いのだろう。
まずはりぼんをほどいたら良いだろう。
そろっと引っ張る。りぼんは簡単にするりと解けた。
次に紙に手をかける。
留めているところをそうっと剥がそうとしたが、ぺりっと薄紙が破れてしまった。乱暴だったかと焦ったが麓乎は笑った。
「テープというもので留められているから、どうしても破れてしまうのだというよ。仕方がない」
ゆっくりと開けた包みから最初に見えたのは桃色だった。
なんという名前なのかはわからないが、ふんわりした、冬に似合いそうなあたたかそうな素材でできているようだ。
そっと持ち上げて広げてみる。
随分大きかった。持ち上げて全貌を確かめる。
おそらくこれは、すかーと。着れば多分、膝の下までくるだろう。それどころか足首の近くまで来るかもしれない。
ほっとした。
すかーとは随分短いものもあるのだという。脚を出すのは抵抗があった。そういうものも考慮して麓乎と珠子は選んでくれたのかもしれない。
桃色のすかーとのほかに入っていたのは、白いぶらうすと濃い緑色の上着らしきものであった。
もう随分寒いのだ。これがあればあたたかそうだ、と金香は思った。
「気に入ってくれたかな」
「はい! とてもかわいらしいです」
「それは良かった」
金香が心から喜んだのはわかってくれたのだろう、そう言った麓乎は満足げであった。
「靴もあるのだけどそれは玄関でね」と麓乎は言ったので、靴を見るのはもう少しあとになった。
これを着て、麓乎とディト。
想像するだけで、胸が熱く高鳴って仕方がなかった。
しかしながら、その『一歩』もかわいらしいものであった。
ある日誘われて、金香は目をぱちくりとさせた。
連れ立って買い物などに行ったことはあったのだが、『ディト』などと言われたのは初めてであった。
今までのものは違ったのだろうか、と思ってちょっと不安になってしまったのだ。
が、麓乎の意図は違ったらしい。
「洋式の『ディト』を実行してみようと思ってね」
ああ、なるほど。
金香はその言葉で納得した。
今までは日常の延長だったのだ。
つまり、特別も特別、『すぺしゃる』な、おでかけというわけだろう。その思考を麓乎が裏付けた。
「洋式なのだから、洋装で行かねばだろう。用意してみたよ」
「え、洋服をですか」
言われて驚いた。洋装をしたことがないとは言わないが完全な『全身の洋装』というのはしたことがなかったのだ。
女性の洋装は上はぶらうす。下はすかーとというものだということは知っている。
しかし高価なものであるし町中でも扱っている店は限られていた。
「ああ。珠子さんに選んで貰ったからね。間違いはないだろう」
「珠子さんが」
あのお洒落でハイカラな珠子が。
それは間違いなどあるはずがない。
むしろどれほど素敵なものなのか楽しみになってしまった。
珠子の家に頼めば洋装などすぐに手に入るということについても納得した。お高いものだろうからお金の面は少し気になったのだけど。
「少し待っておくれ」
言って麓乎は箪笥へ向かった。
出てきたものを見て金香は驚いた。包みが既にとてもうつくしいものであったので。
桃色の薄紙に包まれて、なにやら外国の文字が入った紅いりぼんがかけられている。
「まだ贈り物をしたことがなかったね。初めての贈り物だ」
「あ、ありがとうございます!」
もう『勿体ない』などとは言わなかった。
以前と同じように、確かに『自分には勿体ない』と思いはするのだが言葉にはしない。そのほうがきっと良いものだと思うようになったから。
人の褒め言葉や好意は素直に受け取って、よろこびを表現したほうが良い。
それは金香にとっては大きな変化であった。
勿論、良いほうへの。
「開けてみておくれ」
「はい!」
渡されて金香はちょっと迷った。
どう開けたら良いのだろう。
まずはりぼんをほどいたら良いだろう。
そろっと引っ張る。りぼんは簡単にするりと解けた。
次に紙に手をかける。
留めているところをそうっと剥がそうとしたが、ぺりっと薄紙が破れてしまった。乱暴だったかと焦ったが麓乎は笑った。
「テープというもので留められているから、どうしても破れてしまうのだというよ。仕方がない」
ゆっくりと開けた包みから最初に見えたのは桃色だった。
なんという名前なのかはわからないが、ふんわりした、冬に似合いそうなあたたかそうな素材でできているようだ。
そっと持ち上げて広げてみる。
随分大きかった。持ち上げて全貌を確かめる。
おそらくこれは、すかーと。着れば多分、膝の下までくるだろう。それどころか足首の近くまで来るかもしれない。
ほっとした。
すかーとは随分短いものもあるのだという。脚を出すのは抵抗があった。そういうものも考慮して麓乎と珠子は選んでくれたのかもしれない。
桃色のすかーとのほかに入っていたのは、白いぶらうすと濃い緑色の上着らしきものであった。
もう随分寒いのだ。これがあればあたたかそうだ、と金香は思った。
「気に入ってくれたかな」
「はい! とてもかわいらしいです」
「それは良かった」
金香が心から喜んだのはわかってくれたのだろう、そう言った麓乎は満足げであった。
「靴もあるのだけどそれは玄関でね」と麓乎は言ったので、靴を見るのはもう少しあとになった。
これを着て、麓乎とディト。
想像するだけで、胸が熱く高鳴って仕方がなかった。
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