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先生のご自宅へ⑧
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「しかし、上の学校だけがすべてではないからね」
ひと段落した様子でペンを置き、源清先生は不意に金香のほうを見た。
視線が合って、金香はまたどきりとしてしまう。それはもう寺子屋の教室ではじめて視線が合ったときよりも強く。
なにしろ距離が近い。そのうえ先生は優しい中にも真剣な眼をしていたので。
「これを新人賞に出してみる気はないかい? 折よく七月が締切の募集があるのだよ」
新人賞。
なにを言われたのかわからず一瞬金香は胸の高鳴りも忘れた。
それは勿論小説のだろう。この状況なのだから。
しかしそんなものに縁があるとはやはり思えなかった。
「えっ、そ、そんな! そのような素晴らしい場に出せるほどのものでは」
はっとして金香は慌てて手を振っていた。失礼かもしれないということも思いつかない。
金香の反応は半ば予想されていたのだろう。源清先生はやんわりとそれを否定する。
「雑誌などへの掲載は、流石に無理かもしれないけれど。この出来ならば、選評くらいはつくのではないのかな」
賞を取ったら雑誌や同人誌に掲載されることもありうるだろう。しかし自分のものがそのような立派な場にふさわしいなどとはやはり思えず、評価が過ぎると思ってしまった。
「あの二枚の半紙から、ここまで仕上げてきた巴さんだ。もう少し時間と添削を重ねれば、そのくらいになると思うよ」
更に言い募られる。むしろ先生のほうが乗り気な様子であった。
そこまで評価されるのは嬉しいのだけど、自分には荷が過ぎると思ってしまう。
しかし、せっかくの先生のお言葉だ、お断りするのも失礼になる。
「ええと……その……」
金香はそこで言い淀んでしまったのだがその次に言われたことは、さらに衝撃的だった。
「そこで提案なのだけど、添削のたびにこの遠くまできてもらうのは少々大変だと思う」
確かにここまでくるのが大変でなかったとは言えない。いくら徒歩に慣れていて体力的にも問題のない身であるとしても、一時間近く歩いたのであるし、迷ったせいもあって少しは疲れていた。
「かといって、私が寺子屋へちょくちょく行けるほどの時間もあまり取れなくてね」
それもそうだろう。しばらく源清先生がいらっしゃらなかったのもそういうことのはず。
ふたつの点を挙げられたのだが。そこから導き出された次の言葉は意外が過ぎた。
「どうだろう、内弟子としてこちらへ住まうのは」
内弟子とは。
金香の思考はしばらく停止した。
内弟子。つまり門下生となり、この家に同居するという意味だ。
思い至った瞬間、頭の中が、かっと熱くなった。
同じ家に!?
『内弟子』という立場に取ってもらえることよりも金香にとっては重大事項であった。
そのあとやっと内弟子、つまり門下生に誘っていただけたことに胸が熱くなる。嬉しいという単純な感情が胸に沸き上がる。
しかしすぐに「はい」などとは言えなかった。
『門下生』というのは男性がなる立場であろう。女性の自分がそのように扱っていただけるなど。
ひと段落した様子でペンを置き、源清先生は不意に金香のほうを見た。
視線が合って、金香はまたどきりとしてしまう。それはもう寺子屋の教室ではじめて視線が合ったときよりも強く。
なにしろ距離が近い。そのうえ先生は優しい中にも真剣な眼をしていたので。
「これを新人賞に出してみる気はないかい? 折よく七月が締切の募集があるのだよ」
新人賞。
なにを言われたのかわからず一瞬金香は胸の高鳴りも忘れた。
それは勿論小説のだろう。この状況なのだから。
しかしそんなものに縁があるとはやはり思えなかった。
「えっ、そ、そんな! そのような素晴らしい場に出せるほどのものでは」
はっとして金香は慌てて手を振っていた。失礼かもしれないということも思いつかない。
金香の反応は半ば予想されていたのだろう。源清先生はやんわりとそれを否定する。
「雑誌などへの掲載は、流石に無理かもしれないけれど。この出来ならば、選評くらいはつくのではないのかな」
賞を取ったら雑誌や同人誌に掲載されることもありうるだろう。しかし自分のものがそのような立派な場にふさわしいなどとはやはり思えず、評価が過ぎると思ってしまった。
「あの二枚の半紙から、ここまで仕上げてきた巴さんだ。もう少し時間と添削を重ねれば、そのくらいになると思うよ」
更に言い募られる。むしろ先生のほうが乗り気な様子であった。
そこまで評価されるのは嬉しいのだけど、自分には荷が過ぎると思ってしまう。
しかし、せっかくの先生のお言葉だ、お断りするのも失礼になる。
「ええと……その……」
金香はそこで言い淀んでしまったのだがその次に言われたことは、さらに衝撃的だった。
「そこで提案なのだけど、添削のたびにこの遠くまできてもらうのは少々大変だと思う」
確かにここまでくるのが大変でなかったとは言えない。いくら徒歩に慣れていて体力的にも問題のない身であるとしても、一時間近く歩いたのであるし、迷ったせいもあって少しは疲れていた。
「かといって、私が寺子屋へちょくちょく行けるほどの時間もあまり取れなくてね」
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「どうだろう、内弟子としてこちらへ住まうのは」
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そのあとやっと内弟子、つまり門下生に誘っていただけたことに胸が熱くなる。嬉しいという単純な感情が胸に沸き上がる。
しかしすぐに「はい」などとは言えなかった。
『門下生』というのは男性がなる立場であろう。女性の自分がそのように扱っていただけるなど。
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