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独りの家で③

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 食事と湯あみを終える頃には、あたりはとっぷりと暮れていた。
 明日も寺子屋での仕事が入っている。早く寝なければいけないのだが、今夜はやりたいことがあった。
 それは例の教材を作る作業である。源清先生の出張教師の日から、三日ほどが経っていた。
 つまり「書いたら見せてほしい」と言われてからそれだけが経っているのだ。
 源清先生は特に「いついつに来よう」とはおっしゃらなかった。なので締め切りがあるというわけではなかったのだが、訪ねてくださったときに「まだ出来ていません」などとはいえない。
 そもそもこちらにきてくださるのかという時点でよくわからなかった。出張教師ということになったのは校長か寺子屋の偉い人となにか繋がりがあるのだろうけど。
 金香のような教師見習い、教師とは一線引かれている女性である存在としては、あずかり知らぬ領域である。
 いついらっしゃるのか、もしくはいらしてくれる機会があるのか。
 校長に聞けば教えてくれるのかもしれないがなんとなく躊躇われた。
 源清先生から校長に『金香の文を見てくださる』という約束……約束、といっていいだろうか、と金香は少々不安になったが、とりあえずそのことは伝わっているかわからないのだ。
 だから図々しいと咎められるかもしれないし、それよりもなんだか気まずい。
 その正体はわかっていなかったけれど。
 なんとなく、源清先生と個人的に会話をしたことを進んで話したいとは思えなかった。
 そのようなことを他人に言うのははしたないのではないだろうか。源清先生から言ってくださるのならともかく女性の身から言うというのは。
 そのくらいに思っていた。
 そのように感じる気持ちは『男性への引け目』だと思っていた。
 今の金香はそれが『気になる男性との会話を他人に話す気まずさ』だとは微塵も思っていなかったのである。
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