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【1】ハグレモノ案件
1-12 少年剣士
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幸いにもトンネルは緩やかな上り坂で、セ・レナーデ氏でも何とか登れる傾斜だった。程なく外の光が見えてくる。出口までもう少しだ。
ここまでで障害となったのは"親衛隊"一匹のみ。おかしい。どうなってる? あのおびただしい数の"掃除屋"はどこへ行った。
出口で罠を張っているのだろうか? だったら自らが囮として罠にかかり、ことごとく破ればいい。二人さえ無事ならそれでいい。シロガネは迷わず外に出た。
巣の外は、初めて来た時のように静かだった。周囲のあちこちには変わらず黒鉱が転がっているが、心なしか減っているような気がする。黒鉱に偽装していた"掃除屋"がいなくなった? だとしたら、一体どこへ?
そこでシロガネは、遠くから何か激しい音が響いている事に気付く。方角は……ラズ老師のいた丘か!
するとこれは戦闘音? "掃除屋"と戦っているのか?
「お~~~! シロガネ~~~~!!!! やっと見つけたぞ~~~~!!!」
しゃがれた声が拡声器でも使ったように増幅され、空の上から大きく響く。ラズ老師の声だ。
空を見ていると、光る球体が次々と下りてくる。全部で10体。ラズ老師のマジックドローンだった。
「まったく、何処へ行っとったんじゃ! 心配したぞ!」
10体のドローンから一斉に声がする。
「うるせー! 喋るのは一つにしてよ!」
「おお、すまんすまん。それで、何か進展はあったのか?」
「妹ちゃんは見つけたよ! それに一緒に捕まってたおじさんも1人。だけど兄くんはまだ見つかってない。妹ちゃんの話だと、兄くんは都会に行ったみたいだ。でも、辿り着いているかは分からない」
「なるほど、兄くんは典型的な家出か。しかし確証は得てないと…。分かった。首都と関所はこっちが引き受けた。早速ベロニカに確かめさせよう。すまんがシロガネ、お前はもう一度巣穴に潜ってくれるか」
「元よりそのつもり。だけど問題があるんだ」
「問題? ああ、要救助者のことか。今は立て込んでるでな。すぐには救援に向かえんが、怪我人がおるのか?」
「おじさんの方は"御神酒(ソーマ)"を飲ませたから大丈夫。妹ちゃんは具合悪そうだけど、外の空気を吸えば元気になると思う」
「なるほどそう言う事か…。わかった。あとの事は任せておけ。ワシのドローンは護衛や監視にも役立つでな」
そう言うと、10体のドローンは球体から刺々しく形状変化する。
「絶対に逃がさんから、安心せい♪」
ん? 逃がさないって…何を? 意味不明だから、きっと聞き間違いだろう。そう思ってシロガネはスルーした。
「じゃあおじさん。妹ちゃんを…チコリちゃんを頼むよ」
「は、はい。いいですとも。それはかまいません。ですが……。差し出がましいことを申しますが、巣穴に戻るのでしたら、その大剣は止めた方が良いのでは……」
「うっ。た、たしかに……」
地上戦ならまだしも、巣穴のように閉鎖された空間での戦いには、グレートソードは明らかに不向き。それはついさっき、身を持って体験した。しかし、シロガネには退けない理由があったのだ。
「おじさん、ボクはね、少年剣士なの」
「へ? はあ。確かに少年ですし、剣を持ってますから剣士ですよね」
「うん、そう。そんなボクが剣を持たなかったら、何になるの?」
「え? 少年剣士から……剣を引けば……ただの、少年?」
「そうなんだよ! ただの少年になっちゃうんだよ! だからボクは絶対剣を手放しちゃいけないんだ」
「え~~~~~~~!」
困惑せずにはいられないセ・レナーデ氏だったが、シロガネは真剣そのものである。
「な、何故そこまでお兄さんは少年剣士にこだわるのですか?」
「だって、かっこいいでしょ!」
「カッコイイ……。そっか~。カッコイイからですか~~。それじゃあ仕方ないですね~~」
突っ込みを入れたところで虚しいだけ。セ・レナーデ氏は「そういうもの」なのだと受け流す事にした。
それはそれとして、流石の王宮戦士も現実問題は無視出来ない。
剣は捨てられない。かといって役に立たないのでは意味が無い。どうするシロガネ? どうする?
しばし悩んだシロガネだったが、折衷案に辿り着く。
「ごめんなさい」
グレートソードを地面に置き、剣身の真ん中あたりを死神腕でギュッと掴み、「えいっ」と力を加えると……。
発泡スチロールで作ったオモチャのように、グレートソードはポッキリと折れてしまった。
手頃な長さになったグレートソード1/2を振り回し、具合を確かめると、シロガネは「よしっ」と気合いを入れる。
「じゃあおじさん。今度こそ行ってきます! チコリちゃんをよろしく!」
「は、はい。いってらっしゃい…」
シロガネの背中を見送りながら、セ・レナーデ氏はふと思う。
「一騎当千の化け物揃い」それが王宮戦士の世間の評価だ。しかし実際は、半分正解で半分間違いだ。
確かに能力は狂っているが、心までは狂ってない。だけどそれが憐れでならない。
人の心を持った怪物には、人間社会はさぞかし窮屈だろう。
化け物なのに、自由に暴れられないなんて、本当に本当に、憐れでしょうがない…
ここまでで障害となったのは"親衛隊"一匹のみ。おかしい。どうなってる? あのおびただしい数の"掃除屋"はどこへ行った。
出口で罠を張っているのだろうか? だったら自らが囮として罠にかかり、ことごとく破ればいい。二人さえ無事ならそれでいい。シロガネは迷わず外に出た。
巣の外は、初めて来た時のように静かだった。周囲のあちこちには変わらず黒鉱が転がっているが、心なしか減っているような気がする。黒鉱に偽装していた"掃除屋"がいなくなった? だとしたら、一体どこへ?
そこでシロガネは、遠くから何か激しい音が響いている事に気付く。方角は……ラズ老師のいた丘か!
するとこれは戦闘音? "掃除屋"と戦っているのか?
「お~~~! シロガネ~~~~!!!! やっと見つけたぞ~~~~!!!」
しゃがれた声が拡声器でも使ったように増幅され、空の上から大きく響く。ラズ老師の声だ。
空を見ていると、光る球体が次々と下りてくる。全部で10体。ラズ老師のマジックドローンだった。
「まったく、何処へ行っとったんじゃ! 心配したぞ!」
10体のドローンから一斉に声がする。
「うるせー! 喋るのは一つにしてよ!」
「おお、すまんすまん。それで、何か進展はあったのか?」
「妹ちゃんは見つけたよ! それに一緒に捕まってたおじさんも1人。だけど兄くんはまだ見つかってない。妹ちゃんの話だと、兄くんは都会に行ったみたいだ。でも、辿り着いているかは分からない」
「なるほど、兄くんは典型的な家出か。しかし確証は得てないと…。分かった。首都と関所はこっちが引き受けた。早速ベロニカに確かめさせよう。すまんがシロガネ、お前はもう一度巣穴に潜ってくれるか」
「元よりそのつもり。だけど問題があるんだ」
「問題? ああ、要救助者のことか。今は立て込んでるでな。すぐには救援に向かえんが、怪我人がおるのか?」
「おじさんの方は"御神酒(ソーマ)"を飲ませたから大丈夫。妹ちゃんは具合悪そうだけど、外の空気を吸えば元気になると思う」
「なるほどそう言う事か…。わかった。あとの事は任せておけ。ワシのドローンは護衛や監視にも役立つでな」
そう言うと、10体のドローンは球体から刺々しく形状変化する。
「絶対に逃がさんから、安心せい♪」
ん? 逃がさないって…何を? 意味不明だから、きっと聞き間違いだろう。そう思ってシロガネはスルーした。
「じゃあおじさん。妹ちゃんを…チコリちゃんを頼むよ」
「は、はい。いいですとも。それはかまいません。ですが……。差し出がましいことを申しますが、巣穴に戻るのでしたら、その大剣は止めた方が良いのでは……」
「うっ。た、たしかに……」
地上戦ならまだしも、巣穴のように閉鎖された空間での戦いには、グレートソードは明らかに不向き。それはついさっき、身を持って体験した。しかし、シロガネには退けない理由があったのだ。
「おじさん、ボクはね、少年剣士なの」
「へ? はあ。確かに少年ですし、剣を持ってますから剣士ですよね」
「うん、そう。そんなボクが剣を持たなかったら、何になるの?」
「え? 少年剣士から……剣を引けば……ただの、少年?」
「そうなんだよ! ただの少年になっちゃうんだよ! だからボクは絶対剣を手放しちゃいけないんだ」
「え~~~~~~~!」
困惑せずにはいられないセ・レナーデ氏だったが、シロガネは真剣そのものである。
「な、何故そこまでお兄さんは少年剣士にこだわるのですか?」
「だって、かっこいいでしょ!」
「カッコイイ……。そっか~。カッコイイからですか~~。それじゃあ仕方ないですね~~」
突っ込みを入れたところで虚しいだけ。セ・レナーデ氏は「そういうもの」なのだと受け流す事にした。
それはそれとして、流石の王宮戦士も現実問題は無視出来ない。
剣は捨てられない。かといって役に立たないのでは意味が無い。どうするシロガネ? どうする?
しばし悩んだシロガネだったが、折衷案に辿り着く。
「ごめんなさい」
グレートソードを地面に置き、剣身の真ん中あたりを死神腕でギュッと掴み、「えいっ」と力を加えると……。
発泡スチロールで作ったオモチャのように、グレートソードはポッキリと折れてしまった。
手頃な長さになったグレートソード1/2を振り回し、具合を確かめると、シロガネは「よしっ」と気合いを入れる。
「じゃあおじさん。今度こそ行ってきます! チコリちゃんをよろしく!」
「は、はい。いってらっしゃい…」
シロガネの背中を見送りながら、セ・レナーデ氏はふと思う。
「一騎当千の化け物揃い」それが王宮戦士の世間の評価だ。しかし実際は、半分正解で半分間違いだ。
確かに能力は狂っているが、心までは狂ってない。だけどそれが憐れでならない。
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