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第2章 Reboot
第30話 リブート
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ミイナは部室の窓から、でろんと溶けたように両腕を出して、グラウンドを眺める。風で飛んできた桜の花びらを額にくっつけたまま、彼女は独り言を呟く。
「暇だなぁ……。これは暇疲れ? それとも勉強疲れなのかなぁ」
結局、ゲームのコンテストは2次選考止まり。最終選考のプレゼンテーションまで進むことはできなかった。
その後、送付されてきた結果通知に添付されていた評価を読むと、総合的な完成度は高いものの、オリジナリティの欠如が落選の要因だったようだ。
イラストと音楽については、非常に優秀と書かれていて、萌絵奈と霧子は喜んでいた。
3年生に進級した輝羅と萌絵奈、霧子の3人は、文芸部に所属していながらも、既に引退状態で、それぞれの夢に向かって動き出している。
輝羅は、大学受験のために猛勉強をしている。学校の授業が終わると、少し歩いた所にある図書館の勉強用スペースに入り浸り、閉館まで勉強している。
一度、ミイナが横で見ていたら、気が散るからと言われ、それ以来、邪魔をしないようにミイナは放課後、部室で過ごしている。
休日は色んなとこに遊びに行って、一緒の写真をたくさん撮っている。どうやら輝羅はミイナ専用のアルバムを買ったらしい。
霧子は、宣言していた通り、他校の生徒とバンドを組んで、ライブハウスで演奏しているらしい。相変わらず実家のジャズ喫茶でもライブに参加していて、ミイナは史緒里と一緒に、時々、聴きに行っている。
萌絵奈は、本格的に美大へ進む準備をし始めていた。この間は、絵のコンクールで入賞したらしい。時々部室にふらっと現れて、勉強したり、レザークラフトをしたりして、気晴らししている。曰く、部室は第2の故郷なのだそうだ。第1はどこなのだろうか。
史緒里が部室の引き戸を開けて入って来た。
「ドーナッツ、食べるかい? 勉強してると甘いものが欲しくなるだろう」
「ありがと。ちょっと疲れて休憩してたとこ。今まで数学なんてちゃんと勉強してなかったから、中学校の時の教科書からやり直してるんだよね」
史緒里がドーナッツを咥えたまま喋る。
「同じクラスなのに、放課後もふたりでここにいるの不思議な感じがするよ。ボクは案外この場所が気に入っているんだけどね」
「あたしは家に帰ると漫画とかゲームとかの誘惑がたくさんあるから、ここで勉強するのが一番捗るんだよねぇ。でもこのままあの3人が9月で退部すると、遂に文芸部も消滅しちゃうんだけど」
そんな話をしていると、生徒指導室の引き戸がバンッと開けられた音がした。
ふたりは驚き、部室の入り口を見つめる。
人影が、少し躊躇したように制止する。そして、今度は部室の引き戸が力強く開かれた。
「あの、ここって文芸部ですよね?!」
背は小さく、くりっとした目で童顔、黒く長い髪。おそらく新入生であろう少女が、決意に満ちた表情で、ミイナと史緒里を交互に見る。
「ここでゲームを作ってるって聞きました。わたし、遊んだ人たちがびっくりするような、面白いゲームを作りたいんです!」
煌めくような笑顔で言い放った彼女の言葉に、ミイナと史緒里は目を合わせ微笑む。
そう、この瞬間ミイナたちの青春は再起動したのだ。
ミイナが少女の手を両手でしっかりと掴む。
「やろうよ、あたしたち皆で! 誰も思いつかなかったようなすごいゲーム作ろう!」
〈了〉
「暇だなぁ……。これは暇疲れ? それとも勉強疲れなのかなぁ」
結局、ゲームのコンテストは2次選考止まり。最終選考のプレゼンテーションまで進むことはできなかった。
その後、送付されてきた結果通知に添付されていた評価を読むと、総合的な完成度は高いものの、オリジナリティの欠如が落選の要因だったようだ。
イラストと音楽については、非常に優秀と書かれていて、萌絵奈と霧子は喜んでいた。
3年生に進級した輝羅と萌絵奈、霧子の3人は、文芸部に所属していながらも、既に引退状態で、それぞれの夢に向かって動き出している。
輝羅は、大学受験のために猛勉強をしている。学校の授業が終わると、少し歩いた所にある図書館の勉強用スペースに入り浸り、閉館まで勉強している。
一度、ミイナが横で見ていたら、気が散るからと言われ、それ以来、邪魔をしないようにミイナは放課後、部室で過ごしている。
休日は色んなとこに遊びに行って、一緒の写真をたくさん撮っている。どうやら輝羅はミイナ専用のアルバムを買ったらしい。
霧子は、宣言していた通り、他校の生徒とバンドを組んで、ライブハウスで演奏しているらしい。相変わらず実家のジャズ喫茶でもライブに参加していて、ミイナは史緒里と一緒に、時々、聴きに行っている。
萌絵奈は、本格的に美大へ進む準備をし始めていた。この間は、絵のコンクールで入賞したらしい。時々部室にふらっと現れて、勉強したり、レザークラフトをしたりして、気晴らししている。曰く、部室は第2の故郷なのだそうだ。第1はどこなのだろうか。
史緒里が部室の引き戸を開けて入って来た。
「ドーナッツ、食べるかい? 勉強してると甘いものが欲しくなるだろう」
「ありがと。ちょっと疲れて休憩してたとこ。今まで数学なんてちゃんと勉強してなかったから、中学校の時の教科書からやり直してるんだよね」
史緒里がドーナッツを咥えたまま喋る。
「同じクラスなのに、放課後もふたりでここにいるの不思議な感じがするよ。ボクは案外この場所が気に入っているんだけどね」
「あたしは家に帰ると漫画とかゲームとかの誘惑がたくさんあるから、ここで勉強するのが一番捗るんだよねぇ。でもこのままあの3人が9月で退部すると、遂に文芸部も消滅しちゃうんだけど」
そんな話をしていると、生徒指導室の引き戸がバンッと開けられた音がした。
ふたりは驚き、部室の入り口を見つめる。
人影が、少し躊躇したように制止する。そして、今度は部室の引き戸が力強く開かれた。
「あの、ここって文芸部ですよね?!」
背は小さく、くりっとした目で童顔、黒く長い髪。おそらく新入生であろう少女が、決意に満ちた表情で、ミイナと史緒里を交互に見る。
「ここでゲームを作ってるって聞きました。わたし、遊んだ人たちがびっくりするような、面白いゲームを作りたいんです!」
煌めくような笑顔で言い放った彼女の言葉に、ミイナと史緒里は目を合わせ微笑む。
そう、この瞬間ミイナたちの青春は再起動したのだ。
ミイナが少女の手を両手でしっかりと掴む。
「やろうよ、あたしたち皆で! 誰も思いつかなかったようなすごいゲーム作ろう!」
〈了〉
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