16 / 30
第2章 Reboot
第16話 コンテスト
しおりを挟む
「ゲームの開発コンテスト、ですか」
パンフレットをパラパラと捲るミイナの問いかけに、高島先生が椅子を回転させて振り向き、黒縁眼鏡をクイッと上げる。
「そう、高校生の部のエントリーならまだ受け付けてるし、提出期限は3か月後だから一応時間もある。ただゲームを漫然と作るより、目標があると良いものを作れるんじゃないかな」
「分かりました。持ち帰って、輝羅たちと考えます」
職員室を出て、廊下を歩く。パンフレットを読むと、前回の入賞作品の画面が印刷されていた。3Dの作品が多いし、パッケージで売れそうなレベルの作品ばかりに見える。こんなの作れるのだろうか。
生徒指導室の引き戸を開けると、3年生の担任と女子生徒が面談していた。気まずい雰囲気の中、軽く会釈してもうひとつの引き戸を開け、滑るように文芸部の部室に入った。
「高島先生、何だって?」
輝羅がいつも通りの大きな声で聞いてくる。
ミイナは輝羅に向かい、人差し指を口の前に上げ、静かにするように命じる。
「大丈夫よ。引き戸がちゃんと閉まってれば、あっちに音は漏れないから」
「そう? ていうか、生徒指導室の前に使用中の札入れを付けた方が良くない?」
「そんな物があったって、私たちはそこを通らなきゃいけないんだから。嫌なら他の場所で面談しろって思うわ」
相変わらず最強かよ。これが野放しになっているこの学校、すごいな。
「ミイナちゃん、それ、何のパンフレット?」
レザークラフト中の萌絵奈がミイナに問う。
「ゲームコンテストの募集要項です。今はエントリー受付中で、12月いっぱいまでが作品の提出期限みたいです」
答えて、ちらっと輝羅を見やる。彼女は手の甲を顎に当てて、目を瞑って何やら考え始めたようだ。
アコースティックベースを鳴らしていた霧子が、ミイナの置いたパンフレットを捲り、へえ、と興味深そうな声を上げた。
「霧子さん、ゲームコンテストに興味あるんですか」
「音楽も審査対象ってなってるね。ちょうどDTM始めたから、BGMを作ってみたいなと思って」
輝羅が指をパチンと鳴らす。
「音ゲーってのもありね。作ったこと無いけど」
「じゃあ、エントリーする? このエントリー用紙を書いて先生に持ってけば応募してくれるって」
「そうね……まあ、具体的な事は後で決めるとして、エントリーだけでもしようかしら」
「大まかなジャンルを書かなきゃいけないみたい。音ゲーにするの?」
輝羅は霧子と一緒にパンフレットを眺める。
「2次選考に受かったらオンラインでプレゼンテーションかぁ。15分くらいでひと区切りつくようにしろって書いてあるわね。15分……」
萌絵奈が笑顔のまま、目を細めて言う。
「プレゼンテーションを15分もするのなら、それ相応の内容がないといけないでしょうね。前に英語のプレゼンテーション大会に出た時は、英語を喋ることよりも内容を考えることの方が大変だった気がするわ」
「萌絵奈さん、英語喋れるんですか」
「a little bitね。その時は原稿読むだけだったし、大したコトないわよ」
霧子がミイナの耳元で囁く。
「萌絵奈、県大会で優勝したけどね」
どうしてコイツが文芸部にいるんだ。誰か答えてくれ。
ひとまず、エントリーは月末なので、今週いっぱいでジャンルを決めることになった。それぞれアイデアを考えて、3日後の金曜日の部活で発表する。
ごちゃごちゃと話してたら、もう帰宅時間になってしまった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
ハンバーガーを頬張りながら、大きな窓の外を眺めて輝羅が言う。
「ホントはそういうのに出すために、あのRPGを作ってたんだけどね」
「じゃあ、あれを3Dにして出す?」
ミイナもハンバーガーにパクつく。最近は輝羅と一緒に夕食を食べてから帰ることが多い。おこづかいの範囲で、なるべく一緒の時間を過ごすようにしている。
「正直言って面白くないんだよね。ただ、それっぽいだけで。例えば、15分くらい暇ができたとして、あれで遊ぼうとは思わないわ」
「そうかぁ。そうだよね。ただ動くだけじゃダメなんだ。他の色んな誘惑の中で、それをやろうと思えるようなものじゃないと、か」
ふたりは同時に溜息を吐く。タイミングの良さに、目を見合わせて笑う。
ふたりのタイミング……。
「あたし、ちょっと閃いたかも……」
「いいじゃない。私も面白い企画、考えるわ。金曜日に勝負ね」
ふたりは拳と拳を当てて健闘を誓う。こうして、文芸部のゲーム作りは再始動したのであった。
パンフレットをパラパラと捲るミイナの問いかけに、高島先生が椅子を回転させて振り向き、黒縁眼鏡をクイッと上げる。
「そう、高校生の部のエントリーならまだ受け付けてるし、提出期限は3か月後だから一応時間もある。ただゲームを漫然と作るより、目標があると良いものを作れるんじゃないかな」
「分かりました。持ち帰って、輝羅たちと考えます」
職員室を出て、廊下を歩く。パンフレットを読むと、前回の入賞作品の画面が印刷されていた。3Dの作品が多いし、パッケージで売れそうなレベルの作品ばかりに見える。こんなの作れるのだろうか。
生徒指導室の引き戸を開けると、3年生の担任と女子生徒が面談していた。気まずい雰囲気の中、軽く会釈してもうひとつの引き戸を開け、滑るように文芸部の部室に入った。
「高島先生、何だって?」
輝羅がいつも通りの大きな声で聞いてくる。
ミイナは輝羅に向かい、人差し指を口の前に上げ、静かにするように命じる。
「大丈夫よ。引き戸がちゃんと閉まってれば、あっちに音は漏れないから」
「そう? ていうか、生徒指導室の前に使用中の札入れを付けた方が良くない?」
「そんな物があったって、私たちはそこを通らなきゃいけないんだから。嫌なら他の場所で面談しろって思うわ」
相変わらず最強かよ。これが野放しになっているこの学校、すごいな。
「ミイナちゃん、それ、何のパンフレット?」
レザークラフト中の萌絵奈がミイナに問う。
「ゲームコンテストの募集要項です。今はエントリー受付中で、12月いっぱいまでが作品の提出期限みたいです」
答えて、ちらっと輝羅を見やる。彼女は手の甲を顎に当てて、目を瞑って何やら考え始めたようだ。
アコースティックベースを鳴らしていた霧子が、ミイナの置いたパンフレットを捲り、へえ、と興味深そうな声を上げた。
「霧子さん、ゲームコンテストに興味あるんですか」
「音楽も審査対象ってなってるね。ちょうどDTM始めたから、BGMを作ってみたいなと思って」
輝羅が指をパチンと鳴らす。
「音ゲーってのもありね。作ったこと無いけど」
「じゃあ、エントリーする? このエントリー用紙を書いて先生に持ってけば応募してくれるって」
「そうね……まあ、具体的な事は後で決めるとして、エントリーだけでもしようかしら」
「大まかなジャンルを書かなきゃいけないみたい。音ゲーにするの?」
輝羅は霧子と一緒にパンフレットを眺める。
「2次選考に受かったらオンラインでプレゼンテーションかぁ。15分くらいでひと区切りつくようにしろって書いてあるわね。15分……」
萌絵奈が笑顔のまま、目を細めて言う。
「プレゼンテーションを15分もするのなら、それ相応の内容がないといけないでしょうね。前に英語のプレゼンテーション大会に出た時は、英語を喋ることよりも内容を考えることの方が大変だった気がするわ」
「萌絵奈さん、英語喋れるんですか」
「a little bitね。その時は原稿読むだけだったし、大したコトないわよ」
霧子がミイナの耳元で囁く。
「萌絵奈、県大会で優勝したけどね」
どうしてコイツが文芸部にいるんだ。誰か答えてくれ。
ひとまず、エントリーは月末なので、今週いっぱいでジャンルを決めることになった。それぞれアイデアを考えて、3日後の金曜日の部活で発表する。
ごちゃごちゃと話してたら、もう帰宅時間になってしまった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
ハンバーガーを頬張りながら、大きな窓の外を眺めて輝羅が言う。
「ホントはそういうのに出すために、あのRPGを作ってたんだけどね」
「じゃあ、あれを3Dにして出す?」
ミイナもハンバーガーにパクつく。最近は輝羅と一緒に夕食を食べてから帰ることが多い。おこづかいの範囲で、なるべく一緒の時間を過ごすようにしている。
「正直言って面白くないんだよね。ただ、それっぽいだけで。例えば、15分くらい暇ができたとして、あれで遊ぼうとは思わないわ」
「そうかぁ。そうだよね。ただ動くだけじゃダメなんだ。他の色んな誘惑の中で、それをやろうと思えるようなものじゃないと、か」
ふたりは同時に溜息を吐く。タイミングの良さに、目を見合わせて笑う。
ふたりのタイミング……。
「あたし、ちょっと閃いたかも……」
「いいじゃない。私も面白い企画、考えるわ。金曜日に勝負ね」
ふたりは拳と拳を当てて健闘を誓う。こうして、文芸部のゲーム作りは再始動したのであった。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
女子高生は卒業間近の先輩に告白する。全裸で。
矢木羽研
恋愛
図書委員の女子高生(小柄ちっぱい眼鏡)が、卒業間近の先輩男子に告白します。全裸で。
女の子が裸になるだけの話。それ以上の行為はありません。
取って付けたようなバレンタインネタあり。
カクヨムでも同内容で公開しています。
令嬢の名門女学校で、パンツを初めて履くことになりました
フルーツパフェ
大衆娯楽
とある事件を受けて、財閥のご令嬢が数多く通う女学校で校則が改訂された。
曰く、全校生徒はパンツを履くこと。
生徒の安全を確保するための善意で制定されたこの校則だが、学校側の意図に反して事態は思わぬ方向に?
史実上の事件を元に描かれた近代歴史小説。
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
校長先生の話が長い、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
学校によっては、毎週聞かされることになる校長先生の挨拶。
学校で一番多忙なはずのトップの話はなぜこんなにも長いのか。
とあるテレビ番組で関連書籍が取り上げられたが、実はそれが理由ではなかった。
寒々とした体育館で長時間体育座りをさせられるのはなぜ?
なぜ女子だけが前列に集められるのか?
そこには生徒が知りえることのない深い闇があった。
新年を迎え各地で始業式が始まるこの季節。
あなたの学校でも、実際に起きていることかもしれない。
就職面接の感ドコロ!?
フルーツパフェ
大衆娯楽
今や十年前とは真逆の、売り手市場の就職活動。
学生達は賃金と休暇を貪欲に追い求め、いつ送られてくるかわからない採用辞退メールに怯えながら、それでも優秀な人材を発掘しようとしていた。
その業務ストレスのせいだろうか。
ある面接官は、女子学生達のリクルートスーツに興奮する性癖を備え、仕事のストレスから面接の現場を愉しむことに決めたのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる