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山陰 編(2023年11月)

第75話 岡山 後楽園と岡山城

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 岡山後楽園おかやまこうらくえんといえば、兼六園けんろくえん偕楽園かいらくえんと並ぶ日本三名園のひとつである。ということは、これで三つ全て訪れたわけですな。
 岡山藩主の池田いけだ綱政つなまさが憩いの場として造らせた庭園で、最初は岡山城の後ろに造ったため御後園ごこうえんと呼ばれていたらしい。

 朝8時から開園しているようなので、朝早めにホテルを出て歩いた。通勤通学の時間帯と重なるものの、岡山の街は歩道が広くあまり混雑感は無かった。
 途中にある岡山神社にまいり、さらに歩いて後楽園へ。駅近くのホテルから体感20分程度で到着した。

 後楽園ってどんなだろうとドキドキしながらチケットを購入して入ると、度肝を抜かれた。あまりにも綺麗で、優美な、佳景かけいだったのだ。
 入り口から中央ほどにあるさわいけへの道端の広大な芝生の上に、本日夜から始まる幻想庭園というライトアップイベントのための色とりどりの和傘が並んでいた。残念ながら夜は広島にいるはずなのでライトアップを観られないが、それでもズラッと和傘の並んだ光景は迫力満点だった。

 そして大きな沢の池はゆるい波で、逆さまの庭園と晴れ渡った空をユラユラ揺らしながら映しており、昼でも十分じゅうぶんすぎる幻想庭園であった。
 この園にはモミジがたくさんうわっていて、東北よりも遅れてそろそろ紅葉が始まりそうな感じ。気が早い一部の品種はあかく染まるか染まりかけており、そのグラデーションをも池の水面みなもが飲み込んで、ゆったりとした波に乗せ跳ね返していた。

 しっかりと整備されて育てられている竹林も見事。太く精悍せいかんな竹がズラズラッと並ぶ様は圧巻で、見上げると竹の葉が青空に向かって伸びており、これも素敵だ。こんなに上を向いて歩くことなんてないだろうってくらい上ばかり眺めて歩く。

 小川おがわの水は澄んでいて、浅い小川の底がハッキリ見え、なんだかこの水は飲んだら美味おいしいんじゃないかって。飲まないけど。園内を流れる小川には小さな橋がかかっていたりして、その橋も面白かった。

 ジグザグに木の板を繋いだ橋があり、その木板はひとひとり分の幅しかなく、さらに割れが入っているのだ。踏むと若干下がるし揺れる。水面みなもから50センチくらいしか離れてないのに怖い。なぜか渡るべきな気がしたので渡った。当たり前だけど大丈夫だった。けどいつか割れてしまうような気もした。

 そんな感じで歩きまわって疲れたので、分厚い木でできたベンチに座り広い庭園を定点から観測する。
 ここは水害や戦災にい復旧された場所らしい。歴史の中で破壊されたり、その形を失っても、たくさんの人が復興のために動いて、作業して、管理してくれて、今こうして僕はこの景色を楽しんでいられる。ここだけじゃない。この旅で訪れた様々な場所で、色んな人たちが関わって造り上げて、あるいは造り直した景色を観てきたんだ。

 だから、感謝しなくちゃなって思う。それぐらいしか出来ないんだけど。

 また、しっかりと復元された建物も素敵だ。藩主の居間として使われていた延養亭や、建物の中に小川が流れる流店など、景色を引き立たせるものが園内のあちこちにあった。カメラアプリをタップする手が止まらないぜー。

 あと藩主が茶を飲むための茶葉をつくる茶畑も、ちゃんと手入れして残されていた。かなりの面積になるので管理が大変そうだ。松の木だって害虫から守るための「こも巻き」がされているし、この景色を守るために愛情を注いでいるのがよく分かる。
 そういえば「こも巻き」を調べていて、以前秋田で見た樹木の枝を釣り上げるための設備は「雪吊り」だと判明した。やっぱり雪の重さから枝を守るために仕込むそうだ。アハ体験。

 そうして気付けば200枚くらい写真を撮っていた。少し歩くたびにフォトスポットが現れるんだから仕方ない。
 さて、そろそろ岡山城に……「コイエサ」やと?!

 もちろんエサを買ってばらく。長い麩菓子ふがしみたいなエサだ。ちぎっては投げ、ちぎっては投げ。どんどん集まってくるコイたち。うむうむ、可愛かわいいやつらめ。取り合うでない、ほーれっ。
 麩菓子みたいなのが無くなったら、スゥーっと泳いで離れて行った。ウムム、げんきんなやつらめ。

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 後楽園の南側出口から出て橋を渡ると岡山城だ。

 橋の前に茶屋があって、きな粉をかけたげきび団子を食べた。「揚げたてなので熱いです。気を付けてください」と言われたのにすぐに食べようとしてあつッ。人の話はちゃんと聴かなきゃ。
 その茶屋から岡山城がよく見えた。アイスコーヒーを飲みながら、しばし休憩。

 岡山城も空襲で焼失しており、よって復元天守がそびえ立つ。この、天守を復元する地域と復元しない城跡だけの地域の差は一体、なんなんだろう。ま、いっか。
 この城は壁が黒い漆塗りの板でできていたため烏城うじょうとも呼ばれていたそうな。築城は宇喜多うきた秀家ひでいえ。その城主は小早川こばやかわ秀秋ひであき、池田氏と様変わりしていくことになる。

 幼稚園の遠足とかぶってしまい、一瞬天守に登るのを躊躇ちゅうちょした。しばらく天守付近で景色を見て時間を潰し、もういいだろうと思って天守の入り口に向かうと今度は外国人の団体さん……。
 でももう後楽園側で共通チケットを買ってしまったので入城する。

 中に入ると園児はおらず、外国人さんたちもスッスッと上の階へ進んで行った。よし、ゆっくり観ることが出来そうだ。
 ここで面白かったのは、脇差わきざし、つまりかたなであるが、その模造品を実際に手に持ってみるコーナーと、岡山県出身の歴史学者である磯田いそだ道史みちふみ氏による動画解説コーナーだ。

 刀を持ってみるコーナーでは、やいばの部分はガラスケースに入っていて、つかだけがケースから出ていた。片手でつかを握って持ち上げてみると、思ったよりずっと重い。両手で持ってようやく振り回せそうな気がした。つまり長剣を片手で持つという描写をすると、その持ち主はとんでもない怪力ということになるのか、なるほど。

 そして磯田氏の動画は全6本あって、スイッチを押して選択する形式だった。誰も観ていないから最初から順に観ていったけど、これがメチャクチャ面白かった。
 もの凄いハイテンションで岡山城の歴史や構造、何がどういう役目を果たしていたのか、とか側室がどこに住んでいたのか、とか。とても聡明そうめいかたとみえ、話が分かりやすく面白い。僕は今まで存じ上げなかったが、著作がベストセラーにもなっている歴史研究の第一人者みたいだ。旅が終わったらこのかたの本を読んでみようと思った。

 小さなシアター形式で、プロジェクションマッピングによる2画面の動画を流している部屋もあった。関ヶ原の戦いで宇喜多秀家と小早川秀秋がどのように動いていたかという内容で、ドラマ形式になっており非常に理解しやすい。ちょうど現在の大河ドラマが関ヶ原の戦いあたりらしく、みんなウンウンとうなずきながら興味深げに観ていた。

 2023年11月現在は、「吉備津彦神社 幻の御神刀」という特別展示開催中で、初公開として約3.5メートルと約2.7メートルの大太刀おおたちが展示されていた。これはなんと1697年のものらしい。
 歴代岡山城主が所有していた7ふりも展示されていて、そのやいばの輝きはとても妖しく美麗であった。斬られたら痛そうだ。

 やあやあ、とっても楽しんでしまい、予定よりも1時間遅れで岡山駅へ戻った。
 午後は広島の平和記念公園へ行かなきゃなので、駅に着くなりササッと新幹線に乗る。自販機では指定席が購入出来ず、自由席に乗ったら満員御礼どころじゃない乗車率120パーセント。席に座れない僕のような運の悪い乗客は、広島まで車両間のデッキ部分に立っているしかない。
 しかぁし、そんな時はスマホのメモアプリで雑記を書いていれば、あっという間に広島さ。45分程度どうってことはない、最強の時間潰し。

 広島駅で降りて、駅隣接のデパートのレストラン街へ直行。腹が減ったんだー。
 行列の長い店は無視して、広島っぽい料理を探す。

 ……牡蠣かき御膳ごぜん、かぁ。イイネ!
 待ちリストに自分の名前を書き、待つこと10分、店内へ案内された。座る前にもう「牡蠣御膳お願いします」と言ってしまう。気が早すぎだろ自分。

 牡蠣かき釜飯かまめし、牡蠣の土手どて鍋、牡蠣前菜、刺身という最強の牡蠣かき三昧ざんまい。釜飯はお時間かかりますということで、先に他の料理が置かれた。

 ンオオオオオオ! 牡蠣の土手鍋、うまうまっ!
 春菊、たけのこ、ごぼう、ねぎ、牡蠣が味噌で煮込まれている。しばらく下から炎であぶられた鍋はグツグツいって、ふんだんに仕込まれた牡蠣のエキスがじょわぁーっと溶け出してどんどん美味おいしくなっていく。
 多分ハマチであろう刺身も、そして牡蠣の前菜もぷりぷりでうまし。これはまごうことなき牡蠣御膳。

 そして牡蠣釜飯が届けられた。牡蠣の出汁だしみたご飯の上にまた牡蠣だ。御膳全てで牡蠣は15個くらい入っているかと思われる。一度にこんな数の牡蠣を食べたのは初めてだ。初めてにしてトップオブ牡蠣料理。
 もちろん釜飯も美味うまかった。ほとんどの牡蠣は熱を通してあるのでアタる心配もなさそうだ。最高の広島を味わい、ホクホク顔で店を出る。

 では、平和記念公園へ行きましょうか。
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