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東北 編(2023年11月)
第62話 盛岡 冷麺と県立美術館
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仙台駅の土産物屋で、牛タンカレーやずんだジャム、銘菓をいくつか買って、宅配をお願いした。まだ四国土産のお菓子すら消化しきれてないのに、さらに家がお菓子で溢れてしまうんだ。
朝から何も食べていない。盛岡へ行くための新幹線の切符を買って、時間があったら何か食べよう。……と思っていたのに、なんと次の新幹線は8分後。
指定席の状況を見るに席はほとんど埋まっているから、弁当を広げるのもどんなもんかなと考え、盛岡でたんまり食べてやろうと心に決めた。
そういえばこの新函館~東京間の新幹線は以前もすごく混んでいた。本数が少ないわけでもなさそうだから、よほど需要のある路線なのだろう。仙台から盛岡までローカル線や高速バスだと2、3時間かかるところがなんと39分なので、とってもありがたい。一刻も早く盛岡に着いて飯を喰らいたいからね。
などと書いている間に盛岡駅だ。地下のグルメ通り的な所で、10時台に開いている店を探す。
……あった。盛岡冷麺の暖簾。
迷いなく店に入ると、さすがに午前10時台から冷麺を食べるのは僕だけのようで、この周遊旅何回目かの客は僕ひとり状態。
この店は韓国風冷麺のようだ。冷麺自体おそらく初なのに、そこに韓国風ときたらなにがなんだかワケワカランことになりそう。
冷麺は中辛でビビンバセットを選んだ。胃の中が空っぽなので麺は大盛にした。盛岡だからねってやかましいわ。
……。
セットが出てきた。おお、冷麺のスープが赤い。多分、赤いスープって聞いて想像するよりさらにちょっと赤い。前掛け要りますかと訊かれ、今日は黒いジャージ姿だったので要りませんと答えた。そうか、白シャツにこの赤いのが飛び散ろうもんなら事件現場になっちまう。
冷麺にはリンゴ、大根の漬け物、チャーシュー、ネギが入っていて、麺は少し透けていてプルプルだ。まとまっている麺をほぐすと、スープの赤みを吸収して食欲をそそる色に変化した。
まずはスープを飲んでみる。……ちょうどいい辛さ。ペッタンコだった胃袋が喜んでいる。「はよ! 麺も!」との叫びが聞こえるようだ。希望通り麺をすする。
Ahh! ウマッ!!
冷たい麺が口の中で踊り出す。食感ヨシ、歯応えヨシ。あっさりほどよく辛いスープの味もちゃんと引き連れてきている。
リンゴと漬け物が入っているのも面白くて、しかもスープの味を引き立てている気がする。あと、チャーシューは多分、牛チャーシューだ。冷麺だとみんなそうなのかな?
ビビンバもしつこくなく、あっさりした味付け。冷麺とのバランスが取れている。20時間、腹を減らして来て良かった。
麺大盛でもドンドンいけるので、あっという間に全部が胃に収まってしまった。大満足の朝食兼昼食。この店、近所に来ないかなぁ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
盛岡名物を食べ終わり、駅を出て西へ歩く。駅西は基本大きなビルしかないけど、最初の目的地はビル群を素通りしてしばらく行った所にある。
岩手県立美術館。2023年11月初旬現在は、「高畑勲展」が開催されている。
初期の頃の作品からハイジ、じゃりん子チエ、そして火垂るの墓、おもひでぽろぽろ、ぽんぽこ、ホーホケキョ、かぐや姫と、多数の作品の原画やレイアウト、絵コンテ、設定資料、直筆の提案書や細かいメモなど、氏のファンなら垂涎ものの展示がなされている。中には会社からの無理難題に回答した手紙なんてのもあった。
レイアウトというのは絵コンテと原画の間にあるカメラワークや演技、演出を示すための場面設計書のようなものだ。それを基に、原画マンや背景美術の制作が進行していく。詳しい説明はジブリのサイトに載っていて、それが大きく印刷されたものもレイアウトの説明として展示されていた。
高畑氏はハイジあたりから幾つかの作品で、レイアウトを演出・カメラワークの神様、宮崎駿氏にお願いしていたようだ。
アニメの一部をディスプレイで流していた。初期の頃の作品は初めて観る。ハイジは再放送で少し知っている。火垂るの墓からは全部一度は観たし、かぐや姫は映画館で観た。桜の下を舞うシーンがすごく好きで、スクリーンで映し出されているのを観て少しウルッときた。
人生をアニメに捧げた人だ。いわきの珈琲店のマスターが言っていた、「人は必ず何かの役割をもって生まれるんですよ」という言葉を思い出した。高畑氏は、自分が何のために生まれたのかよく分かっていたのだろう。
個人的には富山で訪れたジブリ展よりも満足度が高かった。作品を創り上げるのにどのくらいの熱量を注ぎ込んでいたか分かったし、高畑氏の作品の根底に、岩手出身の宮沢賢治イズムが関わっていることが分かったからだ。
美術館2階の常設展も観覧した。岩手ゆかりの芸術家たちの作品が並んでいて、見応えのある展示だった。
旅の中で幾つか美術館を訪れた。それで最近、作品の見方が分かってきた気がする。作品の題名を読まないことだ。題名を読むと、その言葉が持つ印象に引っ張られて、どうしても作品に解釈を付け足そうとしてしまう。ただ眺めていればいい。理解とか解釈なんて出来やしないし、必要なかったんだ。
だから、今日は作品だけを観て勝手に自分の中で想像を膨らませていた。そしてそれが、すごく楽しかった。
そして本日は岩手出身の、石川啄木と宮沢賢治についても知るのです。
朝から何も食べていない。盛岡へ行くための新幹線の切符を買って、時間があったら何か食べよう。……と思っていたのに、なんと次の新幹線は8分後。
指定席の状況を見るに席はほとんど埋まっているから、弁当を広げるのもどんなもんかなと考え、盛岡でたんまり食べてやろうと心に決めた。
そういえばこの新函館~東京間の新幹線は以前もすごく混んでいた。本数が少ないわけでもなさそうだから、よほど需要のある路線なのだろう。仙台から盛岡までローカル線や高速バスだと2、3時間かかるところがなんと39分なので、とってもありがたい。一刻も早く盛岡に着いて飯を喰らいたいからね。
などと書いている間に盛岡駅だ。地下のグルメ通り的な所で、10時台に開いている店を探す。
……あった。盛岡冷麺の暖簾。
迷いなく店に入ると、さすがに午前10時台から冷麺を食べるのは僕だけのようで、この周遊旅何回目かの客は僕ひとり状態。
この店は韓国風冷麺のようだ。冷麺自体おそらく初なのに、そこに韓国風ときたらなにがなんだかワケワカランことになりそう。
冷麺は中辛でビビンバセットを選んだ。胃の中が空っぽなので麺は大盛にした。盛岡だからねってやかましいわ。
……。
セットが出てきた。おお、冷麺のスープが赤い。多分、赤いスープって聞いて想像するよりさらにちょっと赤い。前掛け要りますかと訊かれ、今日は黒いジャージ姿だったので要りませんと答えた。そうか、白シャツにこの赤いのが飛び散ろうもんなら事件現場になっちまう。
冷麺にはリンゴ、大根の漬け物、チャーシュー、ネギが入っていて、麺は少し透けていてプルプルだ。まとまっている麺をほぐすと、スープの赤みを吸収して食欲をそそる色に変化した。
まずはスープを飲んでみる。……ちょうどいい辛さ。ペッタンコだった胃袋が喜んでいる。「はよ! 麺も!」との叫びが聞こえるようだ。希望通り麺をすする。
Ahh! ウマッ!!
冷たい麺が口の中で踊り出す。食感ヨシ、歯応えヨシ。あっさりほどよく辛いスープの味もちゃんと引き連れてきている。
リンゴと漬け物が入っているのも面白くて、しかもスープの味を引き立てている気がする。あと、チャーシューは多分、牛チャーシューだ。冷麺だとみんなそうなのかな?
ビビンバもしつこくなく、あっさりした味付け。冷麺とのバランスが取れている。20時間、腹を減らして来て良かった。
麺大盛でもドンドンいけるので、あっという間に全部が胃に収まってしまった。大満足の朝食兼昼食。この店、近所に来ないかなぁ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
盛岡名物を食べ終わり、駅を出て西へ歩く。駅西は基本大きなビルしかないけど、最初の目的地はビル群を素通りしてしばらく行った所にある。
岩手県立美術館。2023年11月初旬現在は、「高畑勲展」が開催されている。
初期の頃の作品からハイジ、じゃりん子チエ、そして火垂るの墓、おもひでぽろぽろ、ぽんぽこ、ホーホケキョ、かぐや姫と、多数の作品の原画やレイアウト、絵コンテ、設定資料、直筆の提案書や細かいメモなど、氏のファンなら垂涎ものの展示がなされている。中には会社からの無理難題に回答した手紙なんてのもあった。
レイアウトというのは絵コンテと原画の間にあるカメラワークや演技、演出を示すための場面設計書のようなものだ。それを基に、原画マンや背景美術の制作が進行していく。詳しい説明はジブリのサイトに載っていて、それが大きく印刷されたものもレイアウトの説明として展示されていた。
高畑氏はハイジあたりから幾つかの作品で、レイアウトを演出・カメラワークの神様、宮崎駿氏にお願いしていたようだ。
アニメの一部をディスプレイで流していた。初期の頃の作品は初めて観る。ハイジは再放送で少し知っている。火垂るの墓からは全部一度は観たし、かぐや姫は映画館で観た。桜の下を舞うシーンがすごく好きで、スクリーンで映し出されているのを観て少しウルッときた。
人生をアニメに捧げた人だ。いわきの珈琲店のマスターが言っていた、「人は必ず何かの役割をもって生まれるんですよ」という言葉を思い出した。高畑氏は、自分が何のために生まれたのかよく分かっていたのだろう。
個人的には富山で訪れたジブリ展よりも満足度が高かった。作品を創り上げるのにどのくらいの熱量を注ぎ込んでいたか分かったし、高畑氏の作品の根底に、岩手出身の宮沢賢治イズムが関わっていることが分かったからだ。
美術館2階の常設展も観覧した。岩手ゆかりの芸術家たちの作品が並んでいて、見応えのある展示だった。
旅の中で幾つか美術館を訪れた。それで最近、作品の見方が分かってきた気がする。作品の題名を読まないことだ。題名を読むと、その言葉が持つ印象に引っ張られて、どうしても作品に解釈を付け足そうとしてしまう。ただ眺めていればいい。理解とか解釈なんて出来やしないし、必要なかったんだ。
だから、今日は作品だけを観て勝手に自分の中で想像を膨らませていた。そしてそれが、すごく楽しかった。
そして本日は岩手出身の、石川啄木と宮沢賢治についても知るのです。
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