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エピローグ
Epilogue2 英雄ルキ
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パナタは空の神殿を訪れた。
飛行船から降りて、出迎えた司祭と握手をする。
神殿内を歩きながら、大陸で戦争があった1年前の話を聞く。
「あの頃、長く滞在した2人の旅人がおりました」
印象的だったため、よく覚えていると言う。
「ひとりは黒いローブの魔道士で、天空神からの啓示を受けるために滞在し、ひと月ほどの後に、目的を達したのか去っていきました」
ルキは以前、ここでリリシアに会ったと言っていた。
ここに来たのがアーメルの意志なのか、リリシア自身の意志なのかは、今となっては分からない。
その後、彼女に似た女が東の海に近い街で目撃されたと、風の噂に聞いた。
おそらくここを去った後は、海底の神殿に向かったのだろう。
「もうひとりは、見たことのない銀色の装備の冒険者でした」
ルキは、ジカアイという男から、神獣達が戦争を始めると聞いていたらしい。
「その男は特に何をするでもなく滞在して、ある日突然いなくなったと聞いています」
「その男と話をした方はいませんか」
「他の冒険者と話をしている姿は見ましたが、それ以外のことは分かりません」
パナタはがっかりしながら、祭壇に触れる。
ふと、頭に流れ込む像があった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
空の神殿から離れ、闘技場の近くの街で、パナタはペンを走らせている。
神殿の祭壇に触れた時、天空神から啓示を受けた。忘れないように、急ぎ書き記していく。
古の海洋神の乱心の後、天空神は幾度となく、精霊の領域で海洋神と戦っていた。
戦いで海洋神の力が弱まった時、勇者ダイフの正義と船乗りベルウンフの怒りが混ざったものが、海洋神から剥がれた。
天空神はそれにジカアイと名付けた。
ジカアイは大陸を旅し、或る村の娘に恋をした。
だが、彼は永遠の命を持つ者。
村娘が歳をとる姿を見ないように、彼は村を離れた。
やがて、大陸は海に沈んだ。
ジカアイは空の神殿に逃れ、他の大陸に移り住んだ。
寂しい暮らしの末に、彼は天空神の力で時を遡った。
アシェバラド大陸が沈む前に戻り、大陸が沈まない時の流れを探し始めた。
何百回も時を遡り、その度、大陸が沈むまで、様々なことを試していった。
古の海洋神と人の子の戦いで、海洋神から呪いを受けた者の存在を知った。
そして彼自身もまた、海洋神から剥がれた命であることも知った。
ルキという名の戦士が、呪いを滅ぼすための鍵だと分かった。
最初にジカアイは彼へ呪いの全てを話したが、彼は両腕にかかった呪いに取り込まれ死んでしまった。
次にジカアイは戦士を自らの手で滅ぼそうとしたが、戦士を手にかけても呪いは消えず、呪いは呪いを受けた者でないと消すことができないと知った。
そのため、戦士になるべく干渉しないよう、他の存在を使い、呪いを滅ぼすために彼が動くよう仕向けた。
失敗が続き、どうしても大陸は沈んでしまう。
アーメルという呪いを受けた魔導師が、末裔に至るまで、身体に乗り移り続け、生き続けていることが分かった。
彼女はずっと身体を支配していることが出来ず、時々、リリシアという別の人格を解放していた。
アーメルが生み出したシイラという人語を話す魔物を利用し、リリシアへ呪いのことを伝えた。
さらに、戦士が北の極地へ旅立つきっかけとして、シイラを通じてリュミオという魔物に王都を襲撃するよう仕向けた。
その頃には、ジカアイはすでに村娘への愛を忘れ、大陸を沈ませる呪いを滅ぼすことしか考えていなかった。
彼の思い通り、戦士は北の極地へ旅をしたが、古城の魔物に襲われて死んでしまった。
ジカアイは時を戻し、古城のほとんどの魔物達を眠らせた。
その時に、彼は天空神の力を使い過ぎて、人の形を保てなくなっていることに気付いた。
黒い泡の様な形で漂いながら、勇者ダイフの力を封じ、戦士は初めて別の呪いを滅ぼすことに成功した。
勇者が戦士と対峙した時に、砂漠へ向かうように喋らせた。
その後ジカアイは、砂漠の極地でアーメルが捕らえていた人の子達の命を奪い取り、もう一度だけ人の子の身体を取り戻した。
彼はもう時を遡ることが出来ないと気付いていた。
全てを話せないが、戦士に少し干渉し、他の呪いへ辿り着くよう仕向けた。
アーメルの従者だったウォトリスという魔道士が、火の精霊の逆燐に触れ、炎に包まれて焼け焦げたことを知った。
ウォトリスは死んではおらず、ジカアイは燃え尽きた彼の身体を引き取り、他の人の子の命を掛け合わせ復活させた。
アーメルと同じくウォトリスも末裔に乗り移っていたが、復活後は古の記憶を完全に取り戻した。
ジカアイは、王都で戦士とリリシアとウォトリスを引き合わせた。
狡猾なウォトリスの奇襲により、戦士だけが命を落とした。
そして、またもや大陸は沈んでしまった。
千年の間、ジカアイは他の大陸で姿を変え名前を変えながら、戦士の魂を探し続けた。
或る時、ヒノモトという国で戦士の魂を見つけた。
死期の近い人の子の身体に魂を移し、戦士の時を遡らせることにした。
それがジカアイに残された最後の力だった。
戦士を死ぬ前の時に戻した瞬間、全ての呪いを滅ぼした時の流れが形成され、ジカアイは海洋神の消滅とともに消えた。
パナタはペンを置く。
宿の部屋の木窓を開け、外光を取り込む。
「宿命、か」
これから各地を廻り、ルキのことを大陸中に伝えて行こうと決めた。
ジカアイに振り回されたのではない。自らを犠牲に大陸を救った新たな勇者として。
「英雄ルキの誕生だ」
パナタは空を見上げて、独り呟いた。
飛行船から降りて、出迎えた司祭と握手をする。
神殿内を歩きながら、大陸で戦争があった1年前の話を聞く。
「あの頃、長く滞在した2人の旅人がおりました」
印象的だったため、よく覚えていると言う。
「ひとりは黒いローブの魔道士で、天空神からの啓示を受けるために滞在し、ひと月ほどの後に、目的を達したのか去っていきました」
ルキは以前、ここでリリシアに会ったと言っていた。
ここに来たのがアーメルの意志なのか、リリシア自身の意志なのかは、今となっては分からない。
その後、彼女に似た女が東の海に近い街で目撃されたと、風の噂に聞いた。
おそらくここを去った後は、海底の神殿に向かったのだろう。
「もうひとりは、見たことのない銀色の装備の冒険者でした」
ルキは、ジカアイという男から、神獣達が戦争を始めると聞いていたらしい。
「その男は特に何をするでもなく滞在して、ある日突然いなくなったと聞いています」
「その男と話をした方はいませんか」
「他の冒険者と話をしている姿は見ましたが、それ以外のことは分かりません」
パナタはがっかりしながら、祭壇に触れる。
ふと、頭に流れ込む像があった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
空の神殿から離れ、闘技場の近くの街で、パナタはペンを走らせている。
神殿の祭壇に触れた時、天空神から啓示を受けた。忘れないように、急ぎ書き記していく。
古の海洋神の乱心の後、天空神は幾度となく、精霊の領域で海洋神と戦っていた。
戦いで海洋神の力が弱まった時、勇者ダイフの正義と船乗りベルウンフの怒りが混ざったものが、海洋神から剥がれた。
天空神はそれにジカアイと名付けた。
ジカアイは大陸を旅し、或る村の娘に恋をした。
だが、彼は永遠の命を持つ者。
村娘が歳をとる姿を見ないように、彼は村を離れた。
やがて、大陸は海に沈んだ。
ジカアイは空の神殿に逃れ、他の大陸に移り住んだ。
寂しい暮らしの末に、彼は天空神の力で時を遡った。
アシェバラド大陸が沈む前に戻り、大陸が沈まない時の流れを探し始めた。
何百回も時を遡り、その度、大陸が沈むまで、様々なことを試していった。
古の海洋神と人の子の戦いで、海洋神から呪いを受けた者の存在を知った。
そして彼自身もまた、海洋神から剥がれた命であることも知った。
ルキという名の戦士が、呪いを滅ぼすための鍵だと分かった。
最初にジカアイは彼へ呪いの全てを話したが、彼は両腕にかかった呪いに取り込まれ死んでしまった。
次にジカアイは戦士を自らの手で滅ぼそうとしたが、戦士を手にかけても呪いは消えず、呪いは呪いを受けた者でないと消すことができないと知った。
そのため、戦士になるべく干渉しないよう、他の存在を使い、呪いを滅ぼすために彼が動くよう仕向けた。
失敗が続き、どうしても大陸は沈んでしまう。
アーメルという呪いを受けた魔導師が、末裔に至るまで、身体に乗り移り続け、生き続けていることが分かった。
彼女はずっと身体を支配していることが出来ず、時々、リリシアという別の人格を解放していた。
アーメルが生み出したシイラという人語を話す魔物を利用し、リリシアへ呪いのことを伝えた。
さらに、戦士が北の極地へ旅立つきっかけとして、シイラを通じてリュミオという魔物に王都を襲撃するよう仕向けた。
その頃には、ジカアイはすでに村娘への愛を忘れ、大陸を沈ませる呪いを滅ぼすことしか考えていなかった。
彼の思い通り、戦士は北の極地へ旅をしたが、古城の魔物に襲われて死んでしまった。
ジカアイは時を戻し、古城のほとんどの魔物達を眠らせた。
その時に、彼は天空神の力を使い過ぎて、人の形を保てなくなっていることに気付いた。
黒い泡の様な形で漂いながら、勇者ダイフの力を封じ、戦士は初めて別の呪いを滅ぼすことに成功した。
勇者が戦士と対峙した時に、砂漠へ向かうように喋らせた。
その後ジカアイは、砂漠の極地でアーメルが捕らえていた人の子達の命を奪い取り、もう一度だけ人の子の身体を取り戻した。
彼はもう時を遡ることが出来ないと気付いていた。
全てを話せないが、戦士に少し干渉し、他の呪いへ辿り着くよう仕向けた。
アーメルの従者だったウォトリスという魔道士が、火の精霊の逆燐に触れ、炎に包まれて焼け焦げたことを知った。
ウォトリスは死んではおらず、ジカアイは燃え尽きた彼の身体を引き取り、他の人の子の命を掛け合わせ復活させた。
アーメルと同じくウォトリスも末裔に乗り移っていたが、復活後は古の記憶を完全に取り戻した。
ジカアイは、王都で戦士とリリシアとウォトリスを引き合わせた。
狡猾なウォトリスの奇襲により、戦士だけが命を落とした。
そして、またもや大陸は沈んでしまった。
千年の間、ジカアイは他の大陸で姿を変え名前を変えながら、戦士の魂を探し続けた。
或る時、ヒノモトという国で戦士の魂を見つけた。
死期の近い人の子の身体に魂を移し、戦士の時を遡らせることにした。
それがジカアイに残された最後の力だった。
戦士を死ぬ前の時に戻した瞬間、全ての呪いを滅ぼした時の流れが形成され、ジカアイは海洋神の消滅とともに消えた。
パナタはペンを置く。
宿の部屋の木窓を開け、外光を取り込む。
「宿命、か」
これから各地を廻り、ルキのことを大陸中に伝えて行こうと決めた。
ジカアイに振り回されたのではない。自らを犠牲に大陸を救った新たな勇者として。
「英雄ルキの誕生だ」
パナタは空を見上げて、独り呟いた。
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