上 下
44 / 55
第2章 光と闇

第44話 約束

しおりを挟む
 おれの言葉に呼応して、知らせの糸が輝き始める。
 パナタが声を弾ませる。

「この光が、ルキの言葉を大陸中に届けてくれるんだよ」

 糸を伝い、光が拡散していく。
 見届けていると、風の総帥がおれの横に立ち、つぶやく。

「呪いのひとつが王都にある。戦士が約束を果たす時ではないかな」

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 おれとパナタは行商人を捕まえ、荷馬車に揺られて王都へ向かう。

「まだ呪いの話はできないのか」
「おれの腕がもげてもいいなら、いくらでも話すんだけどな。今も両腕が少し痺れてるよ」

 おれの軽口に、パナタが少し驚いた顔をする。

「じゃあルキ、いにしえの約束とか宿命とか、そんな話はできるのか?」
「それも無理だな。どれも全部、同じところに繋がっているから」

 パナタは残念そうに沈黙し、流れる風景を見ながらつぶやく。

「なら、全部を終わらせようよ」

 王都に近づくほどに、腕の痺れが強くなっていくのを感じる。
 呪いは間違いなく王都にある。

 王都に着いてすぐに、おれ達は修練場の戦士ダルドを頼った。彼は相変わらず剣技を極めようと鍛錬を続けていた。
 彼に連れられ、王都のはずれにある魔術の研究所へと歩きながら、ダルドは笑って話す。

「ちょっとした騒ぎになってたぞ。大陸中の風の精霊の力を使って、魔物と共闘するようにって伝えてたのはルキだったんだな」

 魔導師アークメイジ達の中でも、真剣に受け止める者、何かの策謀だと疑う者、冗談だと言って信じない者など、反応は様々らしい。

「いいさ。魔物の方だって、皆が同じ意志とも限らないしな」

 おれの言葉に、ダルドはにやりとして言う。

「ところがそうじゃないんだ」

 研究所に入ると、壁中にたくさんの幻像が映っていた。幻像の中には、他の国の風景があった。
 パナタが驚き声を上げる。

「すごい、大陸中を見渡してるみたいだ」

 おれは幻像のひとつに目を留める。
 黒い獣の輪郭に向かって、巨大蛙ビッグトードの群れが飛びついていく。それを引き剥がそうとしても、次から次へと押し寄せる群勢に獣は身動きが取れなくなる。
 やがて諦めたのか、黒い輪郭は風景に溶けるように何処かへと消えていった。
 ダルドが強い口調で言う。

「魔物達は本気だ」

 シイラが魔物を統べているとは思えない。魔物の意志を変えたのはアーメルだろう。
 やはりクライモニスでおれが見たのは、本物のアーメルだったのだろうか。
 そして、今のアーメルは、大陸中の魔物を動かすほどの力を持っているということか。

 幻像を眺め考えていると、監視している魔道士メイジのひとりが大きな声を出した。

「王都の近くの森で、黒い獣と妙な生き物が戦っています!」

 おれ達は彼が指差す幻像を見る。
 確かに、黒い獣に絡みつく大きな生き物がいる。
 それはまるで、長く伸びる透明な水袋に水を満たしてぐるぐる巻いた様な、蛇ともむちとも見える形状だ。
 ダルドはおれの肩をつかんで言う。

「この辺には神獣も魔物もいないはず。どうして黒いやつが現れる」

 おれに聞かれても困るが、おれもパナタも傍観者でいるつもりはない。研究所から飛び出し、王都の防壁の扉を開け、森へと走った。
 森の中、黒い輪郭の足元へと近付いて行く。
 人影が見える。

 そこには、目を閉じて魔術の詠唱を続けるリリシアの姿があった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

異世界で穴掘ってます!

KeyBow
ファンタジー
修学旅行中のバスにいた筈が、異世界召喚にバスの全員が突如されてしまう。主人公の聡太が得たスキルは穴掘り。外れスキルとされ、屑の外れ者として抹殺されそうになるもしぶとく生き残り、救ってくれた少女と成り上がって行く。不遇といわれるギフトを駆使して日の目を見ようとする物語

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

最強剣士異世界で無双する

夢見叶
ファンタジー
剣道の全国大会で優勝した剣一。その大会の帰り道交通事故に遭い死んでしまった。目を覚ますとそこは白い部屋の中で1人の美しい少女がたっていた。その少女は自分を神と言い、剣一を別の世界に転生させてあげようと言うのだった。神からの提案にのり剣一は異世界に転生するのだった。 ノベルアッププラス小説大賞1次選考通過

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた

りゅう
ファンタジー
 異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。  いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。  その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。

幸福の魔法使い〜ただの転生者が史上最高の魔法使いになるまで〜

霊鬼
ファンタジー
生まれつき魔力が見えるという特異体質を持つ現代日本の会社員、草薙真はある日死んでしまう。しかし何故か目を覚ませば自分が幼い子供に戻っていて……? 生まれ直した彼の目的は、ずっと憧れていた魔法を極めること。様々な地へ訪れ、様々な人と会い、平凡な彼はやがて英雄へと成り上がっていく。 これは、ただの転生者が、やがて史上最高の魔法使いになるまでの物語である。 (小説家になろう様、カクヨム様にも掲載をしています。)

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

処理中です...