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第2章 光と闇
第42話 魔物の伝言
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巨大な魔物から生えた幾本もの腕が、黒い獣の輪郭を地面に抑え込む。黒い獣は抜け出そうとしばらくもがいていたが、やがて諦めたのか動きを止めた。
やがて、黒い輪郭は色を失い、風景に溶け込むように消えていった。
同じくして神獣もゆっくりと透明がかり何処かへと消える。
巨大な魔物は、ゆっくりと遺跡に近づいて来る。
「ひいぃ、逃げなきゃ!」
旅商人は退散しようとして、足がもつれて倒れる。
「あれは大丈夫だよ、多分」
おれ達が眺めていると、魔物はゆったりした動作で頭を遺跡に寄せる。
シイラが遺跡へ飛び移りながら叫ぶ。
「ひっさしぶりだなぁ、ルキ!」
砂漠で極地クライモニスに突撃して以来だった。元気な魔物は、笑顔で飛びついてくる。
いつの間にか、巨大な魔物は姿を消していた。
どこに消えたのかと遺跡の下を覗いていると、後ろからシイラの声がした。
「この子を探してる?」
振り返ると、シイラの横に、彼女と同じくらいの背丈の娘が立っている。
肌は青色、腰の辺りまで伸びた白い髪、シイラの白いローブとは対極の黒いローブ。
左目を隠すように、斜めに布を巻いている。
「リュミオって呼んであげて。人の子の言葉は話せないけど、聞くことはできるよ」
シイラが紹介しても、リュミオは虚空を見つめたまま動かない。
「この娘があの怪……大きいやつか」
「そう、周りの岩とか木とか集めて大きくなれるんだ」
王都を襲ったのもこの娘なのかと聞きたくなったが、今更それを知ったところで意味はないので、やめておくことにした。
「どうして、ここにいるんだ」
おれの問いに、シイラがまた笑顔になる。
「あんたに会いにきたんだ」
砂漠でも、似たような顔と似たような言葉の後で、大変な目に遭った気がする。
「アーメルのことか?」
「違わないけど違う。アタイは魔物達の意志を伝えに来たんだ」
シイラは腕組みして言う。
「これから魔物達は、あの黒いやつを攻撃する」
おれはリュミオを見遣る。彼女は相変わらず、表情無く、虚ろな眼で森を見ている。
遺跡の下層から馬の嘶きが響いた。旅商人が逃げて行くのだろう。
「シイラ、魔物が人の子と手を組むのか」
「大陸には昔からずっと魔物も棲みついてるからね。いきなり出てきた変な黒いやつに壊されたくないだけだぜ」
突然、リュミオがおれの両手を取り、じっと見つめる。
「なんだ?」
しばらく見つめた後、リュミオはシイラに向けて何かを呟いた。
「おっ、あんたはリュミオと気が合うみたいだね」
魔物の気持ちはよく分からない。
「各地で黒い獣と一緒に魔物が現れるってことか」
「だから、あんたが大陸中の人の子達に伝えてくれ。できるんだろ」
希望の言葉を伝えたように、それを伝えることはできるのだろうか。
おれが考えていると、遺跡の下層から妙な鳴き声が響いて来た。
「じゃあ、アタイ達は姉様のところに戻るよ」
「アーメルは今、どこにいるんだ」
シイラは真面目な顔で答える。
「今は……さあね。姉様はあんたに会ってからおかしいんだ。全部アタイに任せてる。何にも興味が無くなっちまったみたいだ」
そう言い残して、彼女達は遺跡から飛び降り、人面に脚が生えた異形の魔物の上に落ちた。
異形の魔物は、土煙を上げて去って行った。
おれはひとり、破壊された森の景観を眺めながら途方に暮れていた。
やがて、黒い輪郭は色を失い、風景に溶け込むように消えていった。
同じくして神獣もゆっくりと透明がかり何処かへと消える。
巨大な魔物は、ゆっくりと遺跡に近づいて来る。
「ひいぃ、逃げなきゃ!」
旅商人は退散しようとして、足がもつれて倒れる。
「あれは大丈夫だよ、多分」
おれ達が眺めていると、魔物はゆったりした動作で頭を遺跡に寄せる。
シイラが遺跡へ飛び移りながら叫ぶ。
「ひっさしぶりだなぁ、ルキ!」
砂漠で極地クライモニスに突撃して以来だった。元気な魔物は、笑顔で飛びついてくる。
いつの間にか、巨大な魔物は姿を消していた。
どこに消えたのかと遺跡の下を覗いていると、後ろからシイラの声がした。
「この子を探してる?」
振り返ると、シイラの横に、彼女と同じくらいの背丈の娘が立っている。
肌は青色、腰の辺りまで伸びた白い髪、シイラの白いローブとは対極の黒いローブ。
左目を隠すように、斜めに布を巻いている。
「リュミオって呼んであげて。人の子の言葉は話せないけど、聞くことはできるよ」
シイラが紹介しても、リュミオは虚空を見つめたまま動かない。
「この娘があの怪……大きいやつか」
「そう、周りの岩とか木とか集めて大きくなれるんだ」
王都を襲ったのもこの娘なのかと聞きたくなったが、今更それを知ったところで意味はないので、やめておくことにした。
「どうして、ここにいるんだ」
おれの問いに、シイラがまた笑顔になる。
「あんたに会いにきたんだ」
砂漠でも、似たような顔と似たような言葉の後で、大変な目に遭った気がする。
「アーメルのことか?」
「違わないけど違う。アタイは魔物達の意志を伝えに来たんだ」
シイラは腕組みして言う。
「これから魔物達は、あの黒いやつを攻撃する」
おれはリュミオを見遣る。彼女は相変わらず、表情無く、虚ろな眼で森を見ている。
遺跡の下層から馬の嘶きが響いた。旅商人が逃げて行くのだろう。
「シイラ、魔物が人の子と手を組むのか」
「大陸には昔からずっと魔物も棲みついてるからね。いきなり出てきた変な黒いやつに壊されたくないだけだぜ」
突然、リュミオがおれの両手を取り、じっと見つめる。
「なんだ?」
しばらく見つめた後、リュミオはシイラに向けて何かを呟いた。
「おっ、あんたはリュミオと気が合うみたいだね」
魔物の気持ちはよく分からない。
「各地で黒い獣と一緒に魔物が現れるってことか」
「だから、あんたが大陸中の人の子達に伝えてくれ。できるんだろ」
希望の言葉を伝えたように、それを伝えることはできるのだろうか。
おれが考えていると、遺跡の下層から妙な鳴き声が響いて来た。
「じゃあ、アタイ達は姉様のところに戻るよ」
「アーメルは今、どこにいるんだ」
シイラは真面目な顔で答える。
「今は……さあね。姉様はあんたに会ってからおかしいんだ。全部アタイに任せてる。何にも興味が無くなっちまったみたいだ」
そう言い残して、彼女達は遺跡から飛び降り、人面に脚が生えた異形の魔物の上に落ちた。
異形の魔物は、土煙を上げて去って行った。
おれはひとり、破壊された森の景観を眺めながら途方に暮れていた。
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