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第2章 光と闇
第33話 クライモニス
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目を覚ますと、すでに辺りは夜の闇に包まれていた。
おれは岩の上で仰向けになっていた。両腕に力が入らない。
「やっと起きたぜ」
モアーニが皆に伝える。
スワビやパナタと一緒に、シイラもおれの様子を見に来た。
「お疲れかもしれないけど、このままクライモニスに行くよ」
彼女は真面目な表情で言う。
おれは妙な振動が続いていることに気付く。風景がかなりの速さで流れている。
パナタが溜息を吐いて、説明する。
「ここはあの怪……でかい魔物の上だよ」
辺りには岩が転がり、草木が鬱蒼と生い茂っているが、おれ達は確かに魔物の表皮の上にいるらしい。
シイラが続ける。
「姉様は使い魔を壊されて怒ってるはずだから、もう逃げるのはやめ。あんた達とアタイとこの子で突撃するのさ」
スワビがおれに耳打ちする。
「こいつ、何にも教えてくれないんだよなぁ」
おれはようやく身体を起こす力を取り戻す。
シイラには聞きたいことが山ほどあるが、答えてはくれないだろう。そもそも、クライモニスから生還できなければ、今更何を知っても意味が無いような気もする。
「なあシイラ、おれ達はアーメルに勝てるのか」
「あんた達だけじゃ、姉様に近付くことも無理だろうね。だから一緒に行くんだ」
彼女は夜闇の中、表情をこわばらせた様に見えた。
「アタイとこの子で姉様の周りの子達を引きつけるから、後はあんた達で何とかしてくれ」
いかにも無謀な挑戦になりそうだ。
何本もの脚を器用に動かしながら、風馬よりも速く、おれ達を乗せた魔物は砂漠を走り進んで行く。
夜が明ける頃には、地図では数十夜かかると思われた東の極地クライモニスへ到着していた。
シイラが大声を上げる。
「砂嵐を抜けたら、アタイの知ってる子達がたくさん遊びに来る。逃げ切れよ!」
目前に、大きな砂嵐が迫ってくる。
「パナタ、土の障壁を!」
おれの号令で、パナタが土の魔術を解き放つ。周りの木々や岩が変形し、風を遮るための丸い壁を作り出す。
それでも砂が大量に吹いてくる。
おれ達はその場でしゃがみ、耳を押さえ目を閉じて、砂粒が顔に当たり服の隙間から入り込んで来るのをじっと耐える。
おれ達を乗せたまま、魔物は砂嵐を突っ切る。
砂を含んだ風が弱くなると、シイラがおれの肩を叩いた。
「じゃあね。次に会うのはいつになるかな。もう、会えないかもな」
最後に満面の笑みを見せて、彼女は砂塗れの魔物の表皮から飛び出して行った。
そして、おれ達を乗せた魔物は大きな穴に落ちた。衝撃でおれ達は穴の中へと吹き飛ばされる。
自分が落ちているのか、どこへ向かっているのかも分からないほどの暗さの中。たくさんの魔物の気配が通り過ぎていく。数十体なんてもんじゃない、数百の魔物の群れの中を、おれ達は飛んでいる。
やがて前方に淡い光が見えてくる。光に近付くほどに、異質な雰囲気が押し寄せて来る。人が生きられる場所ではないと感じる。
おれ達の身体は光と浮遊感に包まれる。目に映るのは白と黒の色のみ。何か大きなものがたくさん浮かんでいるようだが、それとどのくらい離れているのかも分からない。
「ルキ、見えるか」
パナタが震える手で指差す先を見た。ひしゃげた大きな眼が2つ、捻り曲がった鼻と腫れぼったい唇。白黒の視界でもそれは人面の輪郭だと分かる。
だが目を凝らすと、それはひとつの物体ではないことに気付く。人の身体がくっついている。
何百もの人の身体が集まって、巨大な醜い人面を形作っていた。
おれは岩の上で仰向けになっていた。両腕に力が入らない。
「やっと起きたぜ」
モアーニが皆に伝える。
スワビやパナタと一緒に、シイラもおれの様子を見に来た。
「お疲れかもしれないけど、このままクライモニスに行くよ」
彼女は真面目な表情で言う。
おれは妙な振動が続いていることに気付く。風景がかなりの速さで流れている。
パナタが溜息を吐いて、説明する。
「ここはあの怪……でかい魔物の上だよ」
辺りには岩が転がり、草木が鬱蒼と生い茂っているが、おれ達は確かに魔物の表皮の上にいるらしい。
シイラが続ける。
「姉様は使い魔を壊されて怒ってるはずだから、もう逃げるのはやめ。あんた達とアタイとこの子で突撃するのさ」
スワビがおれに耳打ちする。
「こいつ、何にも教えてくれないんだよなぁ」
おれはようやく身体を起こす力を取り戻す。
シイラには聞きたいことが山ほどあるが、答えてはくれないだろう。そもそも、クライモニスから生還できなければ、今更何を知っても意味が無いような気もする。
「なあシイラ、おれ達はアーメルに勝てるのか」
「あんた達だけじゃ、姉様に近付くことも無理だろうね。だから一緒に行くんだ」
彼女は夜闇の中、表情をこわばらせた様に見えた。
「アタイとこの子で姉様の周りの子達を引きつけるから、後はあんた達で何とかしてくれ」
いかにも無謀な挑戦になりそうだ。
何本もの脚を器用に動かしながら、風馬よりも速く、おれ達を乗せた魔物は砂漠を走り進んで行く。
夜が明ける頃には、地図では数十夜かかると思われた東の極地クライモニスへ到着していた。
シイラが大声を上げる。
「砂嵐を抜けたら、アタイの知ってる子達がたくさん遊びに来る。逃げ切れよ!」
目前に、大きな砂嵐が迫ってくる。
「パナタ、土の障壁を!」
おれの号令で、パナタが土の魔術を解き放つ。周りの木々や岩が変形し、風を遮るための丸い壁を作り出す。
それでも砂が大量に吹いてくる。
おれ達はその場でしゃがみ、耳を押さえ目を閉じて、砂粒が顔に当たり服の隙間から入り込んで来るのをじっと耐える。
おれ達を乗せたまま、魔物は砂嵐を突っ切る。
砂を含んだ風が弱くなると、シイラがおれの肩を叩いた。
「じゃあね。次に会うのはいつになるかな。もう、会えないかもな」
最後に満面の笑みを見せて、彼女は砂塗れの魔物の表皮から飛び出して行った。
そして、おれ達を乗せた魔物は大きな穴に落ちた。衝撃でおれ達は穴の中へと吹き飛ばされる。
自分が落ちているのか、どこへ向かっているのかも分からないほどの暗さの中。たくさんの魔物の気配が通り過ぎていく。数十体なんてもんじゃない、数百の魔物の群れの中を、おれ達は飛んでいる。
やがて前方に淡い光が見えてくる。光に近付くほどに、異質な雰囲気が押し寄せて来る。人が生きられる場所ではないと感じる。
おれ達の身体は光と浮遊感に包まれる。目に映るのは白と黒の色のみ。何か大きなものがたくさん浮かんでいるようだが、それとどのくらい離れているのかも分からない。
「ルキ、見えるか」
パナタが震える手で指差す先を見た。ひしゃげた大きな眼が2つ、捻り曲がった鼻と腫れぼったい唇。白黒の視界でもそれは人面の輪郭だと分かる。
だが目を凝らすと、それはひとつの物体ではないことに気付く。人の身体がくっついている。
何百もの人の身体が集まって、巨大な醜い人面を形作っていた。
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