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第2章 光と闇

第31話 魔物の戦い

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 スワビが魔物を見上げたまま、声を震わせる。

「この街と同じくらい大きいんじゃないかぁ」

 異形の魔物が陽の光をさえぎり、街全体に影を落としている。
 その眼をせわしなく動かして何かを探すようにしながら、魔物は宙を彷徨さまよっている。

「ルキを探してるのかな」

 パナタがおれの肩をぽんと叩く。それは違うだろう。
 シイラは、おれが砂のみやこに着いたことを知っていて、話をしに来た。ならば、おれがここに移動したことも奴等は知っているはず。

 今、魔物がわざわざ人に姿を見せてまで何かを探すとすれば。

「シイラか」

 おれは風馬ペガサスの所へ走り出す。

「また説明は無しか」

 モアーニ達も文句を言いながら走り、付いて来る。

 異形の魔物は砂漠の空を悠々と飛んで行く。おれ達は近付き過ぎないように同じ方向へ風馬を馳せる。この砂漠は広大で、遥か東に極地としてのクライモニスがあり、西のはずれには砂のみやこがある。
 飛行する巨大な魔物は、今のところは南へ向かって進んでいるようだ。
 奴はアーメルの使徒なのだろうか。

「なぁ、向こうからも、何か来るぞぉ!」

 スワビが叫び指差す先、砂漠と空の境界に、うっすらと大きな影が現れる。
 それは異形の魔物と同じくらいの大きさで、砂地を滑るようにこちらへ向かってくる。
 その全貌が見えた時、おれは戦慄せんりつを覚えた。

「あいつは、王都を襲った怪物だ」

 噂に聞いていた、山の如き形。それは、土や木、岩が集められてぎっしりと固められた様な表皮で、生き物の形をしていない。まさに怪物としか言えない。

「踏み潰されるぞ。逃げよう!」

 おれ達は怪物を避けるように進路を西にとる。

「おい! あいつらぶつかるぞ!」

 パナタの声に振り返ると、異形の魔物と怪物が轟音を立てて衝突していた。その衝撃が大きな砂煙と強い圧を生み出し、おれ達は風馬もろとも吹き飛ばされる。
 砂に塗れながらおれは砂煙の向こう、怪物達の戦闘を凝視する。
 魔物は人面のあごのあたりを損傷し、黒い血を流している。怒りの感情を帯びているのか、眼が真っ赤になっている。
 怪物の方は、ぶつかった所からばらばらと木や岩が落ちていく。

「あれは、山そのものなのか……」

 パナタが驚きつぶやいた。
 だが、怪物は姿を変え始める。
 ぶつかりげた所からトカゲの頭の様なものがあらわれ、別の場所からはめきめきと音を立てて、大きく太い腕や足が何本も生えてくる。

 異形の魔物は口を大きく開けると、怪物から生えたばかりの腕を噛み、力を込めて砕く。怪物の他の腕が魔物の左頬を殴ると、魔物は噛みちぎった腕を口から吐き出す。
 大きな腕がおれ達の背後に落ち、爆音とともに砂煙が高く上がる。直撃すれば命は無いだろうが、あまりに戦闘の規模が大き過ぎてもう逃げようがない。

「悪夢でも見せられてるのか」

 モアーニが震え声で言う。

「いや、こんなのうちらにとってはお遊びみたいなもんさ」

 後ろからの声に振り返ると、シイラが無邪気な笑顔を見せ、続ける。

「魔物と魔物が戦うのは、見てるだけなら楽しいよね」
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