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第21話 エラー
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生徒指導室で、ミイナは文芸部の顧問である高島と長机を挟んで対峙していた。
「なにもこんな場所で話さなくても……」
「ここは文芸部への通り道でなくて生徒指導室だからな。至極適切な使い方だと思うぞ」
高島は腕を組んで、パイプ椅子に座り直した。
「俺はお前の担任じゃないけど、文芸部の活動が赤点の原因だろうって言われたから、一応聴き取りしないといけないんだよ。結局どうなんだ」
ミイナはちらりと文芸部の部室の方を見やり、小さく息を吐く。
「親にも怒られました。次に赤点取ったら、パソコン使用禁止にするぞって。家でもずっとプログラミングしてたので」
「やっぱり部活が原因か……。夏休み明けは俺も忙しくて、全然ケア出来てなかった。悪かったな」
「いえ、先生は何も悪くないと思います。あたしが勝手に熱中して、……9月中にゲームをブラッシュアップしなきゃって勝手に盛り上がってただけです」
高島のスマートウォッチのアラームが鳴った。
「職員会議の時間だ。追試の勉強はするんだぞ」
「はい……」
生徒指導室を出る前に、高島は振り返った。
「俺も時間がある限り手伝うようにするよ。独りで全部を背負い込むな」
「ありがたいです。家ではちゃんと勉強しますね」
高島は微笑み頷き、生徒指導室を出ようとして……。
「紫乃木 さん。あ、ちょっと待っ……」
高島の手を振り払い、一子が怒りの形相で生徒指導室に入ってきた。
「下村、どういうこと?! もうほとんど完成してるって言ってたじゃない。何をコソコソやってたの?」
「イッチー……。あたしはただ、もうちょっと面白くしたいって思って……」
「あぁもう、とにかく顔貸しなさいよ!」
一子はミイナの腕を強引に引っ張って廊下をずんずん歩き、2階の渡り廊下へ連れ出した。もう9月も中旬なのに陽射しは強く、温い風が一子とミイナの髪を揺らす。
「ねぇ、私たちに言ったよね? 今の仕様で出品するって。コンテストの後もこのまま無料配布するって」
「うん、言った。そのつもりだった。でも、諦めきれなかったの。ここを変えたら、とか、これ追加したらもっとマシになるんじゃないかって。でも皆に言ったらまたデバッグのやり直しになる。だから……」
ミイナは頭を下げる。
「ゴメンなさい。勝手に色々変えてました」
一子は手すりを何度も掴み直して、叩いて、下の道路を睨む。
「何でも話してくれてたじゃない! なんでよ! なんで……言ってくれないの……」
一子の瞳から雫が溢れる。ミイナは一子の肩に触れようとしたが、すぐに手を引っ込めた。
「……なんでだろうね。皆のこと大好きなはずなのに。あたしには特別な力があるって、厨二病みたいなこと考えちゃったのかな」
ハンカチで顔を覆ったまま、一子はミイナの方を向く。
「冗談めかしく言わないで。動画の登録者数は150人まで増えたし、結構再生されてる。私はそんなに酷いゲームだとは思ってない。だから自信を持って宣伝してるの。……いいじゃない、グラフィックが良いだけのハクスラだって」
「うん。去年のあたしならきっとそう思ってた。でも自分でイチからプログラムを組んだ作品だもの。無料配布した時に低評価を見るのが怖かったのかも」
一子は鼻をすすりながら、ミイナを見た。
「私の動画のコメント欄にだって、嫌なこと書かれてたりするのよ。世に出した時点で何らかの評価を受けるのは仕方ない。良いコメントだってあるんだから、良いことも悪いことも受け取って、次に繋げていくべきなんじゃない?」
「イッチーは凄いね。あたしよりずっと大人だ。あたしは……ダメダメだね」
「そん……」
「そんなことない!!」
輝羅が渡り廊下に出て来る。そして歩きながら続ける。
「作品を自分の子供みたいに想う気持ちは分かるわ。ミイナはプログラマーとしては正常。だけど、そのゲームはミイナひとりのものじゃない。イッチーさんだって、麗さんだって、史緒里だって同じ気持ちのはず」
「輝羅……」
輝羅はミイナの肩をしっかりと掴む。
「言ったじゃない、ミイナには私がついてる。最後の追い込み、私も手伝うからね」
ミイナは声を出そうとするが、喉がつかえてしまう。声にならない声を捻り出す。
「……あり……、がと……」
しゃくり上げながら輝羅に連れられて校舎に入ると、史緒里と麗が微笑みを浮かべて立っていた。
「ボクは勉強を教えようかな。スパルタでいいなら、さ」
「まだ9月は2週間もあります。全員でチェックすれば余裕ですよ」
ふたりはミイナの手を取って廊下を歩いて行く。
生徒指導室の前で、幽霊部員の篠崎萌絵奈と奥山霧子がミイナの帰還を待っていた。
「大したことは出来ないけど、通しチェックくらいならやれるかな」
「私、たくさん曲の作り置き持ってるよ。何曲か使う?」
ミイナはその場にへたり込み、嗚咽を漏らす。
萌絵奈と霧子を見て高島がコソコソ逃げて行ったのを見ながら、輝羅は泣きじゃくるミイナの背中を摩り続けた。
「なにもこんな場所で話さなくても……」
「ここは文芸部への通り道でなくて生徒指導室だからな。至極適切な使い方だと思うぞ」
高島は腕を組んで、パイプ椅子に座り直した。
「俺はお前の担任じゃないけど、文芸部の活動が赤点の原因だろうって言われたから、一応聴き取りしないといけないんだよ。結局どうなんだ」
ミイナはちらりと文芸部の部室の方を見やり、小さく息を吐く。
「親にも怒られました。次に赤点取ったら、パソコン使用禁止にするぞって。家でもずっとプログラミングしてたので」
「やっぱり部活が原因か……。夏休み明けは俺も忙しくて、全然ケア出来てなかった。悪かったな」
「いえ、先生は何も悪くないと思います。あたしが勝手に熱中して、……9月中にゲームをブラッシュアップしなきゃって勝手に盛り上がってただけです」
高島のスマートウォッチのアラームが鳴った。
「職員会議の時間だ。追試の勉強はするんだぞ」
「はい……」
生徒指導室を出る前に、高島は振り返った。
「俺も時間がある限り手伝うようにするよ。独りで全部を背負い込むな」
「ありがたいです。家ではちゃんと勉強しますね」
高島は微笑み頷き、生徒指導室を出ようとして……。
「紫乃木 さん。あ、ちょっと待っ……」
高島の手を振り払い、一子が怒りの形相で生徒指導室に入ってきた。
「下村、どういうこと?! もうほとんど完成してるって言ってたじゃない。何をコソコソやってたの?」
「イッチー……。あたしはただ、もうちょっと面白くしたいって思って……」
「あぁもう、とにかく顔貸しなさいよ!」
一子はミイナの腕を強引に引っ張って廊下をずんずん歩き、2階の渡り廊下へ連れ出した。もう9月も中旬なのに陽射しは強く、温い風が一子とミイナの髪を揺らす。
「ねぇ、私たちに言ったよね? 今の仕様で出品するって。コンテストの後もこのまま無料配布するって」
「うん、言った。そのつもりだった。でも、諦めきれなかったの。ここを変えたら、とか、これ追加したらもっとマシになるんじゃないかって。でも皆に言ったらまたデバッグのやり直しになる。だから……」
ミイナは頭を下げる。
「ゴメンなさい。勝手に色々変えてました」
一子は手すりを何度も掴み直して、叩いて、下の道路を睨む。
「何でも話してくれてたじゃない! なんでよ! なんで……言ってくれないの……」
一子の瞳から雫が溢れる。ミイナは一子の肩に触れようとしたが、すぐに手を引っ込めた。
「……なんでだろうね。皆のこと大好きなはずなのに。あたしには特別な力があるって、厨二病みたいなこと考えちゃったのかな」
ハンカチで顔を覆ったまま、一子はミイナの方を向く。
「冗談めかしく言わないで。動画の登録者数は150人まで増えたし、結構再生されてる。私はそんなに酷いゲームだとは思ってない。だから自信を持って宣伝してるの。……いいじゃない、グラフィックが良いだけのハクスラだって」
「うん。去年のあたしならきっとそう思ってた。でも自分でイチからプログラムを組んだ作品だもの。無料配布した時に低評価を見るのが怖かったのかも」
一子は鼻をすすりながら、ミイナを見た。
「私の動画のコメント欄にだって、嫌なこと書かれてたりするのよ。世に出した時点で何らかの評価を受けるのは仕方ない。良いコメントだってあるんだから、良いことも悪いことも受け取って、次に繋げていくべきなんじゃない?」
「イッチーは凄いね。あたしよりずっと大人だ。あたしは……ダメダメだね」
「そん……」
「そんなことない!!」
輝羅が渡り廊下に出て来る。そして歩きながら続ける。
「作品を自分の子供みたいに想う気持ちは分かるわ。ミイナはプログラマーとしては正常。だけど、そのゲームはミイナひとりのものじゃない。イッチーさんだって、麗さんだって、史緒里だって同じ気持ちのはず」
「輝羅……」
輝羅はミイナの肩をしっかりと掴む。
「言ったじゃない、ミイナには私がついてる。最後の追い込み、私も手伝うからね」
ミイナは声を出そうとするが、喉がつかえてしまう。声にならない声を捻り出す。
「……あり……、がと……」
しゃくり上げながら輝羅に連れられて校舎に入ると、史緒里と麗が微笑みを浮かべて立っていた。
「ボクは勉強を教えようかな。スパルタでいいなら、さ」
「まだ9月は2週間もあります。全員でチェックすれば余裕ですよ」
ふたりはミイナの手を取って廊下を歩いて行く。
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「私、たくさん曲の作り置き持ってるよ。何曲か使う?」
ミイナはその場にへたり込み、嗚咽を漏らす。
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