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邂逅編

翌々日 ――

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 柊二との事は ――

 あの場で救急車でも呼んで病院へ搬送して貰う
 だけでも良かったはず。
  
 なのに、自分の倍ほど体格の違う大男を大学の
 用務員用の詰め所まで運んで自分で介抱した……。

 何故、他人に対してあそこまで出来たのか?
 
 それに深い理由なんてない。

 目の前にいた人が突然倒れ意識を失った。

 春とはいえ、朝晩は結構冷え込む屋外に
 放置する事も出来ず。

 悠里は彼を助けた。

 それだけの事。


 布団でスヤスヤと眠っているこの男は……
 目が覚めたら私の事をどう思うだろう。

 今までクラスメイト達にだって、
 ここまで深く関わった事はない。
 
 ましてや、赤の他人にここまで手厚くした事も
 なかったので、匙加減が分からなかった。

 大丈夫だったかな。
 迷惑に思われていたら嫌だな。

 いや……そう思われていたとしても、別にいいか。
 
 迷惑に思われたならそれでも構わない。
 
 この男と関わるのは今夜がきっと最初で最後だ。

 彼を助けたというその親切は、
 昔の格言通りならまた違う所で自分の元に
 形を変えて返って来てくれるはず……だと思う。



 柊二に声をかけた娘は宇佐見 悠里と言い、
 この祠堂学院大学芝浦港南キャンパスから
 依頼を受けている清掃会社で働いている。

 柊二が出席していた式典の会場清掃をしていて
 その帰り途中たまたま柊二を見かけたのだ。
  
 悠里は都立の商業高校に通う3年生。
 3才の時から養護施設で生活している。

 施設での生活は”表沙汰にされないイジメ問題”や
 ”躾と称した虐待”なんかも横行していて
 けして楽なものではなかったが、
 今まで何とか生きてこられた……しかし、
 高校を卒業すれば施設からも退所しなければ
 いけない。

 卒業式まであと**日 ――
 悠里は焦っていた。
   
 高卒でも雇ってくれる従業員寮付きの会社は
 幾つかあったけど。
 将来の為、どうしても大学へは行きたくて
 自分で生活費や学費を捻出しながらの生きていく術を
 模索しているのだ。
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