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焦燥
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手嶌さんや鏑木さん達は
”これが若さってもんかぁ”って、しきりと
感心していたが。
久しぶりに人間らしい環境へ戻ったせいか?
大体2週間ほどで傷の痛みは完全になくなったし。
傷痕だって、手嶌さんやあの髭面の医者が気にしてた
ほど残る事もなく、医者が診断したより回復は
早かった。
手嶌さんと暮らすようになるまで、
食い物がこんなに旨くて、食事だってこんなに楽しいもの
とは思っても見なかった。
だけど手嶌さんは次の日も ――
また次の日も、そのまた次の日も、
俺を抱かなかった。
そんな生活がしばらく続き、
俺がこの屋敷に来て1ヶ月が過ぎようとしてた
ある日 ――
『ずっと部屋にいると暇だろ。
何か欲しい物はあるか?』
いっつも聞いてくる。
手嶌さんは俺が言わなくても、若手の部下とかに
聞いて、パソコンでもゲーム機器でもスマホでも
最新の機種を買ってくれた。
だけど、この胸の内に広がる得体の知れない
モヤモヤは何だろう……
モノだけ満たされても、心はカラカラ空っぽのまま。
両方で満たされたい、なんて、考えるのは贅沢
なのかな。
「……ごちそうさまでした」
いつも完食する朝ごはんを半分以上残した
俺を、良守が心配気に見た。
「あの ―― おかげんでも悪いんっすか?」
「えっ、どうして?」
「それとも、今日の献立お口に合わなかったとか……」
「……あぁ! 違う。そんなんやないよ。ただ、
ちょっとだけ食欲なくてね。残しちゃってごめんね」
今日は日課の散歩も止めて、中庭に出てたくさんの
錦鯉が気持ち良さそうに泳ぐ溜め池の畔に立った。
手嶌さんが佐渡谷から俺を大枚はたいて買ったのは、
どう考えてもアッチ方面の処理に使う為だと、
俺は思ったが。
こうも長く何にもされないでいると肉体的には
かなり楽だが、それとは相反した思いが頭の中を
占拠する。
食指も動かないくらい、俺って汚れちまったのかな。
それとも、自分のプライベートに時間を作れないほど
忙しいのか?
手嶌さんはクライアント企業へ出張もして社員教育に
あたる事もあるけど。
ほとんどはこの屋敷の離れをセミナーの専用棟に
開放し、仕事してる。
俺としては後者であって欲しい。
身体で返すしか取り柄がないのに、それすら出来ないなら、
俺は何の為この屋敷にいるんだよ。
手嶌さんは ”働く気になったら、健全な労働で返して
くれればいい”って言ったけど。
”健全な労働”って何なの?
バカな俺に分かるのは ”身体つかって ――”つまり
性的奉仕を金に換算するやり方で返すって方法。
だから、休みの日の前日、手嶌さんが晩酌をしに
自分の部屋へ引っ込んだのを見て、俺はその部屋を
訪れた ――。
でも、彼の姿はなくて、代わりに20代後半位の
綺麗な男の人がいた。
隣の小室から水の音がしてたから、手嶌さんはシャワー
でもしてるんだと思った。
その綺麗な男の人は「こんばんわ」と言ってふんわり
微笑んだ。
「竜二に用? 今、入ったばかりだからまだ時間
かかると思うよ。良かったら伝言しておくけど。
それとも……ここで一緒に待つ?」
余裕しゃくしゃくでカウチソファーに座り、
ワイングラスを傾ける男。
微笑んではいるけど、目が全然笑ってねぇし。
我ながら情けないけど、今まで俺が”ウリ”
にしてきた、中性的立ち振舞も容姿も ――
全てに於いてこの男に負けてると思った。
そうこうしてるうち、いつの間にか小室から
聞こえていた水音は止み……カチャ、ドアが開いて。
手嶌さんがそこから出てきた。
「もーうっ。竜二ったらやぁね。タオルくらい
巻いてらっしゃいな」
ふざけた口調で若い男が言ったよう、出てきた
手嶌さんは一糸まとわぬ真っ裸だった。
俺がいるのに気付いても顔色ひとつ変えない。
「何か用か」
「あ……いや……も、いい」
それを言うのが精一杯で。
踵を返すと、自室まで一目散に帰った。
その後は布団を被って夜が明けるまでずっと
悶々として過ごした。
一緒だったあいつは何だよっ!
余裕ぶちかましやがって。
手嶌さんも手嶌さんだ。
そりゃあガキの俺なんかより、あぁゆうタイプの方が
扱いが楽でおまけに後腐れもなくていいのかも
知れないけど。
俺がこうしてひとつ屋根の下、一緒に住んでる
のに……。
好きになりかけの人に見向きもされない虚しさ。
そして、エッチを強要されるのは辛いけど、
放置されっ放しはもっと辛いと初めて気が付いた。
”これが若さってもんかぁ”って、しきりと
感心していたが。
久しぶりに人間らしい環境へ戻ったせいか?
大体2週間ほどで傷の痛みは完全になくなったし。
傷痕だって、手嶌さんやあの髭面の医者が気にしてた
ほど残る事もなく、医者が診断したより回復は
早かった。
手嶌さんと暮らすようになるまで、
食い物がこんなに旨くて、食事だってこんなに楽しいもの
とは思っても見なかった。
だけど手嶌さんは次の日も ――
また次の日も、そのまた次の日も、
俺を抱かなかった。
そんな生活がしばらく続き、
俺がこの屋敷に来て1ヶ月が過ぎようとしてた
ある日 ――
『ずっと部屋にいると暇だろ。
何か欲しい物はあるか?』
いっつも聞いてくる。
手嶌さんは俺が言わなくても、若手の部下とかに
聞いて、パソコンでもゲーム機器でもスマホでも
最新の機種を買ってくれた。
だけど、この胸の内に広がる得体の知れない
モヤモヤは何だろう……
モノだけ満たされても、心はカラカラ空っぽのまま。
両方で満たされたい、なんて、考えるのは贅沢
なのかな。
「……ごちそうさまでした」
いつも完食する朝ごはんを半分以上残した
俺を、良守が心配気に見た。
「あの ―― おかげんでも悪いんっすか?」
「えっ、どうして?」
「それとも、今日の献立お口に合わなかったとか……」
「……あぁ! 違う。そんなんやないよ。ただ、
ちょっとだけ食欲なくてね。残しちゃってごめんね」
今日は日課の散歩も止めて、中庭に出てたくさんの
錦鯉が気持ち良さそうに泳ぐ溜め池の畔に立った。
手嶌さんが佐渡谷から俺を大枚はたいて買ったのは、
どう考えてもアッチ方面の処理に使う為だと、
俺は思ったが。
こうも長く何にもされないでいると肉体的には
かなり楽だが、それとは相反した思いが頭の中を
占拠する。
食指も動かないくらい、俺って汚れちまったのかな。
それとも、自分のプライベートに時間を作れないほど
忙しいのか?
手嶌さんはクライアント企業へ出張もして社員教育に
あたる事もあるけど。
ほとんどはこの屋敷の離れをセミナーの専用棟に
開放し、仕事してる。
俺としては後者であって欲しい。
身体で返すしか取り柄がないのに、それすら出来ないなら、
俺は何の為この屋敷にいるんだよ。
手嶌さんは ”働く気になったら、健全な労働で返して
くれればいい”って言ったけど。
”健全な労働”って何なの?
バカな俺に分かるのは ”身体つかって ――”つまり
性的奉仕を金に換算するやり方で返すって方法。
だから、休みの日の前日、手嶌さんが晩酌をしに
自分の部屋へ引っ込んだのを見て、俺はその部屋を
訪れた ――。
でも、彼の姿はなくて、代わりに20代後半位の
綺麗な男の人がいた。
隣の小室から水の音がしてたから、手嶌さんはシャワー
でもしてるんだと思った。
その綺麗な男の人は「こんばんわ」と言ってふんわり
微笑んだ。
「竜二に用? 今、入ったばかりだからまだ時間
かかると思うよ。良かったら伝言しておくけど。
それとも……ここで一緒に待つ?」
余裕しゃくしゃくでカウチソファーに座り、
ワイングラスを傾ける男。
微笑んではいるけど、目が全然笑ってねぇし。
我ながら情けないけど、今まで俺が”ウリ”
にしてきた、中性的立ち振舞も容姿も ――
全てに於いてこの男に負けてると思った。
そうこうしてるうち、いつの間にか小室から
聞こえていた水音は止み……カチャ、ドアが開いて。
手嶌さんがそこから出てきた。
「もーうっ。竜二ったらやぁね。タオルくらい
巻いてらっしゃいな」
ふざけた口調で若い男が言ったよう、出てきた
手嶌さんは一糸まとわぬ真っ裸だった。
俺がいるのに気付いても顔色ひとつ変えない。
「何か用か」
「あ……いや……も、いい」
それを言うのが精一杯で。
踵を返すと、自室まで一目散に帰った。
その後は布団を被って夜が明けるまでずっと
悶々として過ごした。
一緒だったあいつは何だよっ!
余裕ぶちかましやがって。
手嶌さんも手嶌さんだ。
そりゃあガキの俺なんかより、あぁゆうタイプの方が
扱いが楽でおまけに後腐れもなくていいのかも
知れないけど。
俺がこうしてひとつ屋根の下、一緒に住んでる
のに……。
好きになりかけの人に見向きもされない虚しさ。
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