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82 結婚式 ②

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 磨き上げられた床の上を、ゆっくり歩いていく。

 右に控える参列者が、ほうと感嘆の息を漏らす。

 紗に透ける絢音の楚々とした様は、同年代の娘を凌ぐ可憐さだ。

 俯いていた視界に、五つ紋の入った黒羽織に襠高袴を着た凛々しい三上の姿が見え、そうっと視線を向ける。

 愛しい三上がそこにいる……。


 逸る胸を押さえ、息をつく。

 何度も諦めた恋が、現実に叶う時がきた ――。

 絢音は今日、三上だけの花嫁になる。



 式は、普通の神前結婚と似ていた。

 屋敷の当主・蛯沢が参列者全員のお祓いをし、祝詞を唱え ――。

 三上が注がれた神酒を飲み干し、絢音に盃を手渡した。

 受けとった絢音の盃には神酒に見立てたものが注がれ、3度に分けて飲み干す。

 次の盃は、絢音から三上へ手渡され。

 3つめの盃は、三上から絢音へと手渡された。

 三々九度の途中、涙腺が緩みっぱなしの八木始めオアシスエンタテインメントの部下達が早くも涙ぐみはじめて。

 ようやく結婚式を迎えた息子を見て、参列していた父・各務秀三もほろほろ涙を零し、妻・英恵が涙を拭いてやっている。

 次いで、佐伯本家当主が結婚指輪を2人に差し出た。
  
 絢音の指に三上が指輪を嵌める。
 緊張してカタカタ震えながらも、スルリと収まった。

 三上の指に絢音が指輪を嵌める。

 ……が。

 昨夜、手嶌達の酒盛りに付き合わされた三上の指に、なかなか指輪が嵌まらず、式場の中に温かな笑いが漏れ、微笑ましい雰囲気になるひと幕もあった。

 そして、誓嗣……誓いの言葉を三上が読み上げた。

 型通りの言葉の後に三上自身の想いも折り込まれていて、立ち会った全員が胸が熱くなる思いになり。

 思わぬサプライズに、隣にいた絢音がポロ大粒の涙を零した。

    
「……なぁ、俺と寝よう」
「……は、い?」
「セッ*スしようって言ったの」


 ―― 出逢いは、唐突。

 蝶よ花よと大切に、大切に育てられてきた怖いもの知らずの若い恋情は猪突猛進。

 一見、八方美人なこの直情青年は本命の気を惹く為なら自分の体だって盾にする。

 そう、まるで子供が駄々をこねてないもの強請りするように。

 だけどそんな恋愛遍歴も何とか今日で終止符が打たれた。   
 
 数え切れない程の切ない夜を乗り越え ――、
 幾多もの障害を克服してやっと手に入れた固い絆。   

 そんなこんなもきっと、ここに辿り着く為に総て必要な事柄だったのだろうと、今なら素直にそう思える。

 参列した全員が幸せな気持ちになり、温かな思いを心に点すような良い式だと、各務も微笑んで2人の行く末を寿いでくれて。

 万事滞りなく進み、三上と絢音の入籍式は終わった……。


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