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48 老舗旅館『東山華藤』
しおりを挟む祖母の家 老舗旅館『東山華藤』の玄関先でタクシーから降り立つと、お祖母ちゃんと仲居頭の仁美さんが出迎えてくれた。
仁美さんがお祖母ちゃんに小声で耳打ちした
『女将さん、お客様がいらしてると』
「あらまぁ、そうやったわね。―― 二階堂はんって可愛らしいお嬢さんが翡翠の間でお待ちですよ」
途端、有利の表情が100万ボルトくらいに輝いた。
「あ……そう、ありがと……」
でも、有利はその場に凍りついたようになって動かない(動けない?)。
「ねぇ、どーした?」
「あ、ははは……足、竦んじゃって」
「なぁに情けないこと言ってんのよ。ほら、彼女あんまり待たせちゃ可哀想よ」
ポン、と軽く背を押してやれば、有利はまるで電池のキレかかったロボットみたいなおぼつかない足取りで店の中へと入って行った。
(あ~ぁ、あの子、手と足一緒に動いてる……)
”翡翠の間”では、有利を介して彼女・二階堂 藍子さんを紹介して貰った。
(紹介されて確信。やっぱり【フィレンツェ】で見た娘は彼女だった)
藍子さんはひと昔前の古風な女学生・”ヤマトナデシコ”を地でいくような清楚な女の子
出身学校は京都屈指のお嬢様学校『星蘭女学館』
有利より△ヶ月年上の19才だと言うが、時折見せる幼い口調や素振りが堪らなく可愛らしい。
※※※※※ ※※※※※ ※※※※※
2人っきりになるなり藍子は ”思い切って”という感じで口を開いた。
「ごめんなさい、有利くん……」
「えっ、何が?」
有利が藍子を見る。
「電話で……責めてしまって」
「……本当に、そう思った?」
「? ――」
「本当に、俺と別れるって思ったの?」
「あの時は気分的に沈んでいたし……どうせ私は違う人と結婚するから、あなたとはこのまま会わずに別れた方がいいのかもって思ったの」
有利の手を強く握る。
「でもやっぱり……そんな終わり方はいやだし、って……」
「……・・さんに抱きしめられていたキミを見て……動けなかった」
やっぱり! 見られていたんだ……。
実際会って・言葉を交わしたのは今日が初めてだが
実を言うと有利は、お爺さんのお伴でロスに来た彼女を偶然見た事がある。
許婚の都村という野郎が偶然にもピッツバーグに単身赴任中なのだ。
「ホントにごめんなさい」
下を向いて謝る藍子の手を、有利が更に強く握った。
「何で謝るの?」
「だって……」
「藍子さんは都村さんと結婚するんだよ? そんなシーンがあってもおかしくない。でも、あの時のキミは泣いていただろ? 俺にはそっちの理由が気になった」
どうしよう……、何て言ったらいい?
あの時は、同じアメリカ国内にいるのに……あなたをこんなにも恋・焦がれているのに……会いに行くのもままならない自分の身の上が虚しくて、無性に悲しくなったんだ。
「初めて都村さんと人が沢山集まる場所に行って、でも、皆んな私を『二階堂家の娘』としか見てくれないのが悲しくて……所詮、私は『家』の為にしか生きられないんだと思ったら悔しくて、辛くて……」
突然、有利が藍子の手を引いて立ち上がる。
「どうしたの? 有利くん」
「どうした? って、せっかく2人会えたのに、デートもしないで帰る気かい?」
藍子も立ち上がり、部屋を出て手を繋いだ。
やっと、手を繋ぐ事が出来た……それが本当に嬉しかった。
祇園の町に繰り出し、ちょっと人混みが増えてきて思わず有利の手を強く握ると、有利もしっかり握り返してくれた。
またそれが嬉しくて、微笑む。
「どうした?」
「ううん、手を繋げて嬉しいなぁって」
「そっか……」
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