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20 大阪支社にて、1本の缶コーヒー

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 自分ではそう意識してるつもりなかったけど、かなり気を張っていたんだろう ――
 
 定時が来た途端、グッと疲れが押し寄せた。
 
 

「―― もー、ヘトヘトだよぉ……」


 自分にしか聞こえない程度の声で呟きながら、エレベーターホール脇の自販機コーナーへヨロヨロと歩いて行く ――。
 
 各フロアーのエレベーター脇にこんな自販機コーナーが設けられている他、最上階の展望フロアーにはそこでちょっとしたチープディナーも出来るか? と思える程の色々な自販機が揃っている。
 
    
「―― 大丈夫かぁ?」


 突然、後ろから声をかけられた。
  
 振り返ると同時に、三上さんから缶コーヒーを手渡された。
  
 いつも私が飲んでる銘柄のヤツ……。
 
 あ ―― 何気なにげに嬉しい。 

  
「ま、だいじょぶです」

「あんまし根詰め過ぎてると、そのうちパンクしちまうぞ。適度に力を抜け。無理すんなよ~」
 
 
 キラキラ笑顔が飛び込んできた。
  
 勤務中のあまり愛想がない時とのギャップが……タイミング良すぎて……眩しすぎて……心臓が、ドッキン ドッキン 騒ぎ出す……。
  
 こんな時、こんなの反則だよ……。
  
 立ち去っていく三上さんの後ろ姿を缶コーヒー握りしめ、思わずじっと見つめてしまっていた。
  
  
 ***  ***  ***
 
 
「―― さっき、三上さんから缶コーヒー貰ってたでしょ」


 席へ戻ると早速、大阪支社・秘書課で唯一親し気にしてくれた長谷川麻紀が
 ”待ってました!”とばかりに、声をかけてきた。
  
 彼女とは、新人研修で一緒だった。
  
  
「うん、貰ったけど」

「クールビューティ・三上から缶コーヒーって凄すぎっ! もしや、企画で初のお気に入り確定なんとちゃう?」
 
「んな、大げさな……彼は私のあまりに余裕なさに呆れて、見るに見かねただけだよ」
 
「意外と絢音のその超鈍感、ドジっ子ぶりにヤラれたのかもよ~」


 やけに楽しそうに、麻紀ちゃんは続ける。
  
  
「けど、くれぐれも気を付けなさいよ? 彼狙ってる女子はかなりいるんやから」
 
 
 出たっ! これが社内スキャンダルってやつ?
  
  
「アハハハ ―― 私はこんなだから心配ないよ」

「ううん! 絢音って、そこいらの女子よりずっと可愛いし女子力あるし。絶対三上さんの射程範囲だと思うよ」


 麻紀ちゃんの言葉を頭の中にとどめていたのはほんの束の間。
 
 すぐに私は目の前の仕事に忙殺されいっぱい・いっぱいになっていった。

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