6 / 6
苦い思い出
しおりを挟む「―― じゃあ、お疲れ様でしたぁ、
お先に失礼します」
「あぁ、桐沢先生、お疲れ様です。お気をつけて」
この日も倫太朗はいつものように通用口の
詰め所にいる警備の本間さんに挨拶し、
臨床研修先の市立病院を後にした。
現在の時刻、午後5時半 ――
冬の夕暮れは早く、
辺りはすっかり宵闇に包まれている。
”うぅ~~、さぶぅ~”と、コートの襟を立てて、
ふと、空を見上げれば ――
上空より何やら白っぽいふわふわした物が
無数に舞い降りて来る。
「あー、雪だ……」
道理で底冷えするワケだ。
知らず知らずのうちに猫背になって、
家路を急ぐ。
桐沢 倫太朗(きりさわ りんたろう) 25才。
この国立星蘭大学附属都立昭栄会病院の
前期研修医。
姉が再婚し出戻った為、
1人暮らしのアパートを探しているが
未だ希望に合った物件は見つかっておらず、
自宅通勤だ。
「――ごめんなぁ、ちゃんと家で飼ってあげられれば
いいんだけどうちの家族、動物アレルギーだから」
ここは帰る途中にある小さな児童公園。
2~3ヶ月程前からミケの仔猫が
住みついていて病院の職員食堂からもらっておいた
残飯を与えている。
猫が無心に餌を食べる可愛い姿に癒され
自宅へ向かう。
***** ***** *****
敷地の長い外壁が途絶え、
いかつい門が見えてくると、
それまで寒さの為せかせかしていた足取りも
幾分緩やかになり。
猫背もスクっと伸びてゆく。
そんな倫の近付く気配に気付いて、正門脇の
花壇に踞るよう腰掛けていた男が立ち上がった。
倫の表情が一気に曇る。
男の名は、迫田治。
高1の頃、何度か寝た事がある。
年は迫田の方が1コ上だが、倫は早生まれなので
学年的には同級だった。
中卒後、その当時から”将来は医者になる”と
決めていた倫太朗は。
有数の進学校、私立杜の宮学院から
国立星蘭大学医学部へ順調に駒を進めていったが。
迫田は父親に多額の賄賂を使わせ倫と同じ
杜の宮へ入学。
しかし、所詮裏口入学では進学校の授業について
ゆけず、僅か1年少々で中退。
その後、再び親の金でアメリカ留学を果たすも、
ギャンブルとドラッグに溺れ。
19才の時、仲間の裏切りで密告されて当局に逮捕
2年少々LAの州立刑務所に服役していた。
そんな男が10年ぶりに突然現れた。
嫌な予感しかしなかったのは当然と言えよう。
0
お気に入りに追加
3
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
総受けルート確定のBLゲーの主人公に転生してしまったんだけど、ここからソロエンドを迎えるにはどうすればいい?
寺一(テライチ)
BL
──妹よ。にいちゃんは、これから五人の男に抱かれるかもしれません。
ユズイはシスコン気味なことを除けばごくふつうの高校一年生。
ある日、熱をだした妹にかわって彼女が予約したゲームを店まで取りにいくことに。
その帰り道、ユズイは階段から足を踏みはずして命を落としてしまう。
そこに現れた女神さまは「あなたはこんなにはやく死ぬはずではなかった、お詫びに好きな条件で転生させてあげます」と言う。
それに「チート転生がしてみたい」と答えるユズイ。
女神さまは喜んで願いを叶えてくれた……ただしBLゲーの世界で。
BLゲーでのチート。それはとにかく攻略対象の主人公への好感度がバグレベルで上がっていくということ。
このままではなにもしなくても総受けルートが確定してしまう!
男にモテても仕方ないとユズイはソロエンドを目指すが、チートを望んだ代償は大きくて……!?
溺愛&執着されまくりの学園ラブコメです。
愛は甘く、そしてほろ苦い
希紫瑠音
BL
サラリーマン(敬語)と養護教諭。年齢差
穂高は「カラメル」に登場した養護教諭です。
■登場人物
◇穂高 恭介(ほだか きょうすけ)
・28歳。秀一郎とは高校からの親友同士。渡部の息子が通う高校で養護教諭をしている。
◇渡部 雅史(わたべ まさし)
・42歳。秀一郎の会社の上司。敬語で話す。ほんわかとしていて優しそうに見えるが腹黒い時も……?
◇筧 秀一郎(かけい しゅういちろう)
・28歳。綺麗な顔立ちをしている。恭介とは友達であり、渡部は会社の上司。おっとりとした性格だが、頑固者でもある。意外と、感が鋭い時もある。
◇乍 悠馬(ながら ゆうま)
・22歳。大学生。目つきの悪いせいか勘違いされやすい。雅史の別れた奥さんの弟で、雅史は苦手だが久遠の事は可愛がっている。秀一郎も苦手
◇渡部 久遠(わたべ くおん)
・16歳。学校ではアイドル扱いされている。勉強は苦手だが家事は得意。
社畜だけど異世界では推し騎士の伴侶になってます⁈
めがねあざらし
BL
気がつくと、そこはゲーム『クレセント・ナイツ』の世界だった。
しかも俺は、推しキャラ・レイ=エヴァンスの“伴侶”になっていて……⁈
記憶喪失の俺に課されたのは、彼と共に“世界を救う鍵”として戦う使命。
しかし、レイとの誓いに隠された真実や、迫りくる敵の陰謀が俺たちを追い詰める――。
異世界で見つけた愛〜推し騎士との奇跡の絆!
推しとの距離が近すぎる、命懸けの異世界ラブファンタジー、ここに開幕!
転生先の第三王子はただいま出張中につき各位ご確認ねがいます!
梅村香子
BL
※本作はシリーズ作品の続編です※
「僕が……ラオネスに、ですか?」
ロベルティア王国の歩く災厄といえば、第三王子テオドール……そう、僕のこと。
前世の記憶がよみがえる前は、本当に最悪な王子だった。愚行を重ねて、父上から謹慎を命じられるほどに。
僕の中に現れた日本人男性の記憶と人格のおかげで、どうにか人生を軌道修正することができたんだけど、まだ自分への課題は山積み。
専属騎士で大好きな恋人のフレデリクと一緒に、王子として勉強の毎日なんだ。
そんなある日、長かった謹慎がとうとう終わったと思ったら、父上から湾岸都市のラオネスに行くようにって命じられたんだ。
王都から遠く離れた商業と海運の街。
クロード兄上が治める大都市ラオネス。
仲違いしてる兄上と会うのは少し不安だけど……初めて見る広い海や美味しい魚介類を楽しみにして、ラオネスに向かったんだ。
だけど、到着早々なんだか怪しい陰謀の影が見えはじめて……。
どうしようっ!
僕、また恐ろしい騒動に巻き込まれちゃうの!?
でも、僕には頼れる白銀の騎士がいるからね!
どんなことが起こっても、きっと二人なら乗り越えていける――!
元ぽっちゃり王子テオドールの第二弾!
ラオネス出張編ですっ。どうぞよろしくお願いします!
※表紙や挿絵にAIイラストを使用しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる