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後日談 サミュエル編 奥手な2人の誘惑大作戦!!

1  遠距離恋愛(1)

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 これは、お披露目式が終わってすぐのこと……。




 お披露目式が無事に終わると、サミュエル先生は学長の引継ぎのためにイリュジオン国に一度戻ることになった。

 サミュエル先生は音楽学院の学長をしているのでどうしても引継ぎが必要なのだ。
 後任は恐らく、芸術部門のトップになる予定のルーカス様だとは思うがそこもまだ決まっていない。

 だが、お披露目式をした以上、王配教育も開始しなければならない。
 定期的に進捗状況を文官に報告しなければならないらしい。

 さらにサミュエル先生は学長になる際に国王陛下にご実家の侯爵に次ぐ地位である伯爵の位を頂いているので、爵位の返上もしなければならない。
 この爵位返上の手続きは大変面倒……大変多くの手順を必要とするものらしい。


 ようするに……。


――……とても忙しい!!



 私はその話を聞いてサミュエル先生の負担になることが申し訳なくて、まだお披露目式をする前に「お披露目式を延期しましょうか?」と伝えたことがある。

 するとすぐにサミュエル先生は微笑んで私のおでこにキスをした後に言った。

「いえ。あなたのパートナーとして早く皆に宣言したいです。
 私のことはご心配なさらずに。
 それにお披露目式をしなければ、女王陛下の職務代理がいつまでも出来ずにベルナデット様のご負担になります。
 私は苦しむあなたを見たくはありませんので、どうぞ早急にお披露目式を」

 確かに、私は知識としての帝王学は王妃教育と称して受けていたらしいが、実務経験が全くない。
 女王の職務ともなると国の機密事項も多く含まれるので、正式にお披露目式を済ませた皇太女にならないと何も教えてもらえないらしい。

「サミュエル先生……ありがとうございます」

 その時私は、サミュエル先生の提案を受け入れたのだった。


――……だが!!

 サミュエル先生が忙しいのは間違いない。

 そこで、白羽の矢が立ったのがレアリテ国が誇る優秀な次期宰相候補のコンラッド君だった。
 
 コンラッド君はすでに王配教育を終え、宰相の職務もほとんど頭に入っている。
 そればかりか、イリュジオン国に留学している間、イリュジオン国についても相当深く勉強したらしく両国に詳しい。


 そこで、コンラッド君がサミュエル先生について行き、サミュエル先生の王配教育と学長の引継ぎを同時に行いながらさらにさらにサミュエル先生のサポートをしてくれるらしい。

 コンラッド君は「私以外にこんな無茶なスケジュールを組んでるあの人のサポートができるような人材がいますか?」と不機嫌そうに言っていたが、どこか楽しそうだったので、きっとサミュエル先生を支えてくれるだろう。
 コンラッド君の優秀さは充分知っているので、お願いすることにした。

「私がいないからって、ベルナデット様はサボらないで下さいよ」と言い残すことも忘れてはいなかったが……。


 イリュジオン国にサミュエル先生が戻るまで、少しくらいサミュエル先生との時間が取れるかとも思ったが、それは無理だった。
 私は出発まで満足にサミュエル先生のお顔を見ることもできなかったのだ。



+++



 そして今日は、イリュジオン国に戻るサミュエル先生を見送るために港に来ていた。
 イリュジオン国とレアリテ国を繋ぐ汽船。
 ここに来る前は、サミュエル先生と一緒に汽船に乗ることになって嬉しく思いながら汽船を眺めたが、今はこの汽船を見るのが寂しく感じる。


 忙しいはずのサミュエル先生は疲れた顔を見せずにいつものようにキラキラとした瞳をしていたので私はほっとした。

「ベルナデット様、しばらく留守に致します申し訳ございません」

 サミュエル先生がまるで騎士のように完璧な仕草で私の手を取ってキスをした。
 私はそれでは足りなくて、サミュエル先生の胸の中に飛び込むと、サミュエル先生の背中に腕を回した。
 するとサミュエル先生も驚いた後にきつく抱きしめてくれた。

「サミュエル先生、無理しないで下さいね」

 サミュエル先生の胸の中で呟くように言った私に、サミュエル先生は耳元に口を寄せて優しく囁いた。

「はい。でも、出来るだけ早く終わらせて、あなたの元に戻って来ますね。
 ……そして、キスの続きをしましょうね」

「……はい」

 それから私たちは唇を合わせたのだった。


カンカンカンカン。


 乗船の合図がしてサミュエル先生の身体から離れると、サミュエル先生がもう一度唇を寄せた。

チュッ♡

 サミュエル先生は触れるだけのキスをして「行ってきます。ベルナデット様」と微笑んでくれた。
 私は「いってらっしゃい」と言ってサミュエル先生を送り出した。

 船の中から手を振るサミュエル先生を私は船が見えなくなるまで港で見送ったのだった。



+++++




 汽船内にて。


 ベルナデットの姿が完全に見えなくなり、サミュエルはコンラッドと共に自室に戻った。
 今回は、王配教育もあるためコンラッドと同室だ。

 部屋のドアをしめた途端、サミュエルがバタリとベットに倒れ込んだ。

「呆れた。まさかそれほどまでに疲れていたのですか?」

 コンラッドが溜息をつきながらソファーに座った。

「まぁ……しばらく、ベルナデット様の顔を見れない……から……心配させたく……なかったし」

 サミュエルが今にも意識が途切れそうになりながらも返事をした。

「ふっ?
 心配? 白々しい。
 ベルナデット様の前でカッコつけたかっただけでしょ?」

「それは……そうだよ……いつもでも、ベルナデット様の……前では……かっこいい男で……ありたい……し……クー。クー」


 そのままサミュエルは寝てしまった。
 コンラッドは「ふん」と鼻を鳴らすと、視線を窓の外に向けた。

「まぁ、気持ちはわからなくはないですけどね……」

 船の中でもすることはたくさんあるのだが、今は少しだけ寝かせることにした。

「少しだけですけどね」

 するとコンラッドは侍女を呼びお茶の用意をさせると優雅にお茶を楽しんだのだった。

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