我儘令嬢なんて無理だったので小心者令嬢になったらみんなに甘やかされました。

たぬきち25番

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後日談 クリストフ編 新婚旅行へ行こう!

2  準備からすでに新婚旅行なはずでは??

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 国王陛下の執務室を退席する際に王妃様に呼び止められた。

「ベルナデットちゃん。この手紙を女王陛下に届けてもらえないかしら?」

「はい。畏まりました」

 女王陛下からのご提案ならきっと謁見してお礼を伝える機会もあるだろう。
 私は王妃様からの手紙を預かると笑顔を向けた。

「ふふふ。ありがとう。よろしくね」

「はい」




+++
 
 


「え? 夜に出発ですか?!」

 私はクリス様の執務室に呼ばれて、今後の説明を受けた。
 通常、夜は不届き者や獣などに襲われる危険があるために移動はしない。
 だがスケージュールの関係と行先を考慮してどうしても夜に出発することになったのだそうだ。

「アトルワ領までは道も整備されているし、他の領に比べるとかなり治安もかなりいい。
 他の場所に行くのなら考えるが、今回は王都とアトルワ領内の移動だから、夜に移動することになったんだ。
 それに、船の出港も朝早い時間だしね」

 クリス様がとても疲れた顔で説明してくれた。

「そうなのですね……」

 私はクリス様を見て答えた。
 普段ならこういう話は、クリス様が部屋に戻られてから2人の時にお話することが多い。
 だが、今回は執務室に呼ばれたいうことは、出発までクリス様とはお会いできないくらいお忙しい可能性がある。

「クリス様、お体に気をつけて下さいね」

 私の言葉にクリス様が苦虫を嚙み潰したような顔をした。

「うっ……ごめんね、ベル。
 ……きっと出発のギリギリまで、政務がある。
 折角の新婚旅行だって言うのに!! 
 旅行の準備も新婚旅行なはずなのに!!!
 事前にのんびりと話すことも出来なくて!!」

「いいえ。私のことは気になさらないで下さいませ」

(今日も一緒に過ごせないんだ……)

 もうすぐ出発なので少しゆっくりと話ができるのではないかと期待していただけに、私はしょんぼりしながら答えた。するとクリス様が少しだけ大きな声を上げた。

「ベル!! ごめん!!」

「いえ。いつもお疲れ様です。では、失礼致します」

 そうして、私は執務室を去ったのだった。

(早く、クリス様とゆっくりと過ごしたいわ……)







+++



 残されたクリスの執務室で、クリスは寂しそうに立ち去るベルの後ろ姿を見ながら唇を噛んだ。

「ベル……。
 ローベル!! 次だ!! 少しでも早く終わらせてベルの元に行きたい。
 私たちは、初夜も済ませていない新婚夫婦なのだからな!!!」

 ローベルがクリスを労うように、声を上げた。

「はい!! 少しでも早く終わらせて、ベルナデット様の元に急ぎましょうね」

 クリスは一心不乱に書類に向かったのだった。






+++




 そうして迎えた出発当日……。

 私は馬車に乗り込んだが、まだクリス様の姿は見えなかった。

(クリス様、大丈夫かしら? まさか後から来られるなんてことはないわよね?!)

 私はハラハラしながらクリス様を待っていた。

(凄い……電気もないのに、明るいわ……)

 たくさんの護衛が、灯りをともしているとまるでそこだけは昼間にように明るくなった。
 私が灯りに見とれていると、クリス様が倒れ込むように馬車に入ってきた。

「ベル!! お待たせ!! すぐに出してくれ!!」

「はっ!!」

 クリス様が私の隣に座った途端、馬車が動き出した。

「や~~~~~~~と終わったぁ~~!!」

 クリス様がヘラッと珍しく締まりのない顔で笑った。

「クリス様?! 大丈夫ですか?」

 クリス様の顔には深いクマができていた。

「ん……大丈夫……それより、やっと……二人っきりになれた~~~~。
 あ~~~~もう、会いたかった~~ベル~~~!!
 結婚したのに全く会えないなんて!!
 ベル~~大好き。会いたかった!!」

 クリス様が私を抱きしめてこられたので、私もクリス様を抱きしめ返した。

「ふふふ。そうですね」

 久しぶりに抱きしめられて私は顔が赤くなるのを感じた。
 しばらく抱き合った後、クリス様の顔が近づいてきた。

(あ、キ、キスかしら?)

 何度もしたことはあるが、最近はキスところかクリス様に触れるのも久しぶりだったので、少しだけ緊張しながら目を閉じた。

・・・・・・・。

・・・・・・・・・。

・・・・・・・・・・・?

 目を閉じて待っていたが、一向にクリス様の唇は訪れず、肩に重さを感じた。

「え?」

 目を開けてクリス様の顔を見ると、クリス様は目を閉じて私の肩にもたれかかっていた。

(?! どうしたのかしら?! まさか、具合が悪いとか?!)

 少しだけ慌てると、スースーと言った寝息が聞こえてきた。

「あ、よかった寝ているだけね」

 ほっとして、私は寝ているクリス様の顔を覗き込んだ。
 最近はずっとクリス様の寝顔さえ見れなかったので、寝顔が見れたことが嬉しく思えた。

 クリス様の頬に優しくふれた。
 深いクマはクリス様が寝れていないことを物語っていた。
 最近は寝室にも戻れなかったようで、執務室で仮眠を取っていたようだった。

(……クリス様、お疲れ様でした。せめてこの旅行中は、ゆっくりしましょうね)
 
 私は少しだけ笑うと、私もクリス様の肩にもたれて目を閉じたのだった。

+++

 (ん? 朝?)
 
 カタカタ。

 昇ってきたばかりの朝日と、馬車の音で目を覚ました。

(あ、私、寝てしまったのね……あら? 気持ちいい)

 ふと気が付くと、私はクリス様に膝枕をされて、クリス様に上着をかけられていた。

(え?)

 見上げると、クリス様は座ったまま寝ているようだった。
 私はゆっくりと、クリス様の膝の上から起き上がった。

「ん…」

 するとクリス様も目を覚ました。

「あ、ベル。起きたんだ。おはよう」

 クリス様が眠そうな顔から笑顔になった。

「おはようございます。上着、ありがとうございます」

 するとクリス様が困った顔をした。

「昨日はごめんね。気が付いたらベルの肩に頭を乗せてしまっていて……重かったよね」

「いいえ」

 私が微笑むと、クリス様がほっとしたように笑った。

「あ、湖が見えて来たみたいだね」

「湖ですか?」

「うん。この大きな湖1日移動すれば、レアリテ国に着くよ」

 クリス様が眩しそうに窓から見える湖を眺めならがら言った。

「1日も船に乗るのですか? それほど大きな湖なのですね」

 なんとなく、湖というとボートや遊覧船で数時間というイメージだったので、1日と聞いて湖の大きさに驚いてしまった。

 湖に見とれているうちに、どうやら船に着いたようだった。


「あ、着いたね。では、ベル。手を」

「はい」

 私はクリス様に手を取られて、馬車を降りたのだった。





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