109 / 145
後日談 クリストフ編 新婚旅行へ行こう!
2 準備からすでに新婚旅行なはずでは??
しおりを挟む国王陛下の執務室を退席する際に王妃様に呼び止められた。
「ベルナデットちゃん。この手紙を女王陛下に届けてもらえないかしら?」
「はい。畏まりました」
女王陛下からのご提案ならきっと謁見してお礼を伝える機会もあるだろう。
私は王妃様からの手紙を預かると笑顔を向けた。
「ふふふ。ありがとう。よろしくね」
「はい」
+++
「え? 夜に出発ですか?!」
私はクリス様の執務室に呼ばれて、今後の説明を受けた。
通常、夜は不届き者や獣などに襲われる危険があるために移動はしない。
だがスケージュールの関係と行先を考慮してどうしても夜に出発することになったのだそうだ。
「アトルワ領までは道も整備されているし、他の領に比べるとかなり治安もかなりいい。
他の場所に行くのなら考えるが、今回は王都とアトルワ領内の移動だから、夜に移動することになったんだ。
それに、船の出港も朝早い時間だしね」
クリス様がとても疲れた顔で説明してくれた。
「そうなのですね……」
私はクリス様を見て答えた。
普段ならこういう話は、クリス様が部屋に戻られてから2人の時にお話することが多い。
だが、今回は執務室に呼ばれたいうことは、出発までクリス様とはお会いできないくらいお忙しい可能性がある。
「クリス様、お体に気をつけて下さいね」
私の言葉にクリス様が苦虫を嚙み潰したような顔をした。
「うっ……ごめんね、ベル。
……きっと出発のギリギリまで、政務がある。
折角の新婚旅行だって言うのに!!
旅行の準備も新婚旅行なはずなのに!!!
事前にのんびりと話すことも出来なくて!!」
「いいえ。私のことは気になさらないで下さいませ」
(今日も一緒に過ごせないんだ……)
もうすぐ出発なので少しゆっくりと話ができるのではないかと期待していただけに、私はしょんぼりしながら答えた。するとクリス様が少しだけ大きな声を上げた。
「ベル!! ごめん!!」
「いえ。いつもお疲れ様です。では、失礼致します」
そうして、私は執務室を去ったのだった。
(早く、クリス様とゆっくりと過ごしたいわ……)
+++
残されたクリスの執務室で、クリスは寂しそうに立ち去るベルの後ろ姿を見ながら唇を噛んだ。
「ベル……。
ローベル!! 次だ!! 少しでも早く終わらせてベルの元に行きたい。
私たちは、初夜も済ませていない新婚夫婦なのだからな!!!」
ローベルがクリスを労うように、声を上げた。
「はい!! 少しでも早く終わらせて、ベルナデット様の元に急ぎましょうね」
クリスは一心不乱に書類に向かったのだった。
+++
そうして迎えた出発当日……。
私は馬車に乗り込んだが、まだクリス様の姿は見えなかった。
(クリス様、大丈夫かしら? まさか後から来られるなんてことはないわよね?!)
私はハラハラしながらクリス様を待っていた。
(凄い……電気もないのに、明るいわ……)
たくさんの護衛が、灯りをともしているとまるでそこだけは昼間にように明るくなった。
私が灯りに見とれていると、クリス様が倒れ込むように馬車に入ってきた。
「ベル!! お待たせ!! すぐに出してくれ!!」
「はっ!!」
クリス様が私の隣に座った途端、馬車が動き出した。
「や~~~~~~~と終わったぁ~~!!」
クリス様がヘラッと珍しく締まりのない顔で笑った。
「クリス様?! 大丈夫ですか?」
クリス様の顔には深いクマができていた。
「ん……大丈夫……それより、やっと……二人っきりになれた~~~~。
あ~~~~もう、会いたかった~~ベル~~~!!
結婚したのに全く会えないなんて!!
ベル~~大好き。会いたかった!!」
クリス様が私を抱きしめてこられたので、私もクリス様を抱きしめ返した。
「ふふふ。そうですね」
久しぶりに抱きしめられて私は顔が赤くなるのを感じた。
しばらく抱き合った後、クリス様の顔が近づいてきた。
(あ、キ、キスかしら?)
何度もしたことはあるが、最近はキスところかクリス様に触れるのも久しぶりだったので、少しだけ緊張しながら目を閉じた。
・・・・・・・。
・・・・・・・・・。
・・・・・・・・・・・?
目を閉じて待っていたが、一向にクリス様の唇は訪れず、肩に重さを感じた。
「え?」
目を開けてクリス様の顔を見ると、クリス様は目を閉じて私の肩にもたれかかっていた。
(?! どうしたのかしら?! まさか、具合が悪いとか?!)
少しだけ慌てると、スースーと言った寝息が聞こえてきた。
「あ、よかった寝ているだけね」
ほっとして、私は寝ているクリス様の顔を覗き込んだ。
最近はずっとクリス様の寝顔さえ見れなかったので、寝顔が見れたことが嬉しく思えた。
クリス様の頬に優しくふれた。
深いクマはクリス様が寝れていないことを物語っていた。
最近は寝室にも戻れなかったようで、執務室で仮眠を取っていたようだった。
(……クリス様、お疲れ様でした。せめてこの旅行中は、ゆっくりしましょうね)
私は少しだけ笑うと、私もクリス様の肩にもたれて目を閉じたのだった。
+++
(ん? 朝?)
カタカタ。
昇ってきたばかりの朝日と、馬車の音で目を覚ました。
(あ、私、寝てしまったのね……あら? 気持ちいい)
ふと気が付くと、私はクリス様に膝枕をされて、クリス様に上着をかけられていた。
(え?)
見上げると、クリス様は座ったまま寝ているようだった。
私はゆっくりと、クリス様の膝の上から起き上がった。
「ん…」
するとクリス様も目を覚ました。
「あ、ベル。起きたんだ。おはよう」
クリス様が眠そうな顔から笑顔になった。
「おはようございます。上着、ありがとうございます」
するとクリス様が困った顔をした。
「昨日はごめんね。気が付いたらベルの肩に頭を乗せてしまっていて……重かったよね」
「いいえ」
私が微笑むと、クリス様がほっとしたように笑った。
「あ、湖が見えて来たみたいだね」
「湖ですか?」
「うん。この大きな湖1日移動すれば、レアリテ国に着くよ」
クリス様が眩しそうに窓から見える湖を眺めならがら言った。
「1日も船に乗るのですか? それほど大きな湖なのですね」
なんとなく、湖というとボートや遊覧船で数時間というイメージだったので、1日と聞いて湖の大きさに驚いてしまった。
湖に見とれているうちに、どうやら船に着いたようだった。
「あ、着いたね。では、ベル。手を」
「はい」
私はクリス様に手を取られて、馬車を降りたのだった。
22
お気に入りに追加
2,006
あなたにおすすめの小説

【完結】転生地味悪役令嬢は婚約者と男好きヒロイン諸共無視しまくる。
なーさ
恋愛
アイドルオタクの地味女子 水上羽月はある日推しが轢かれそうになるのを助けて死んでしまう。そのことを不憫に思った女神が「あなた、可哀想だから転生!」「え?」なんの因果か異世界に転生してしまう!転生したのは地味な公爵令嬢レフカ・エミリーだった。目が覚めると私の周りを大人が囲っていた。婚約者の第一王子も男好きヒロインも無視します!今世はうーん小説にでも生きようかな〜と思ったらあれ?あの人は前世の推しでは!?地味令嬢のエミリーが知らず知らずのうちに戦ったり溺愛されたりするお話。
本当に駄文です。そんなものでも読んでお気に入り登録していただけたら嬉しいです!

「君を愛するつもりはない」と言ったら、泣いて喜ばれた
菱田もな
恋愛
完璧令嬢と名高い公爵家の一人娘シャーロットとの婚約が決まった第二皇子オズワルド。しかし、これは政略結婚で、婚約にもシャーロット自身にも全く興味がない。初めての顔合わせの場で「悪いが、君を愛するつもりはない」とはっきり告げたオズワルドに、シャーロットはなぜか歓喜の涙を浮かべて…?
※他サイトでも掲載中しております。

記憶を失くして転生しました…転生先は悪役令嬢?
ねこママ
恋愛
「いいかげんにしないかっ!」
バシッ!!
わたくしは咄嗟に、フリード様の腕に抱き付くメリンダ様を引き離さなければと手を伸ばしてしまい…頬を叩かれてバランスを崩し倒れこみ、壁に頭を強く打ち付け意識を失いました。
目が覚めると知らない部屋、豪華な寝台に…近付いてくるのはメイド? 何故髪が緑なの?
最後の記憶は私に向かって来る車のライト…交通事故?
ここは何処? 家族? 友人? 誰も思い出せない……
前世を思い出したセレンディアだが、事故の衝撃で記憶を失くしていた……
前世の自分を含む人物の記憶だけが消えているようです。
転生した先の記憶すら全く無く、頭に浮かぶものと違い過ぎる世界観に戸惑っていると……?

身代わりの公爵家の花嫁は翌日から溺愛される。~初日を挽回し、溺愛させてくれ!~
湯川仁美
恋愛
姉の身代わりに公爵夫人になった。
「貴様と寝食を共にする気はない!俺に呼ばれるまでは、俺の前に姿を見せるな。声を聞かせるな」
夫と初対面の日、家族から男癖の悪い醜悪女と流され。
公爵である夫とから啖呵を切られたが。
翌日には誤解だと気づいた公爵は花嫁に好意を持ち、挽回活動を開始。
地獄の番人こと閻魔大王(善悪を判断する審判)と異名をもつ公爵は、影でプレゼントを贈り。話しかけるが、謝れない。
「愛しの妻。大切な妻。可愛い妻」とは言えない。
一度、言った言葉を撤回するのは難しい。
そして妻は普通の令嬢とは違い、媚びず、ビクビク怯えもせず普通に接してくれる。
徐々に距離を詰めていきましょう。
全力で真摯に接し、謝罪を行い、ラブラブに到着するコメディ。
第二章から口説きまくり。
第四章で完結です。
第五章に番外編を追加しました。

妾の子だからといって、公爵家の令嬢を侮辱してただで済むと思っていたんですか?
木山楽斗
恋愛
公爵家の妾の子であるクラリアは、とある舞踏会にて二人の令嬢に詰められていた。
彼女達は、公爵家の汚点ともいえるクラリアのことを蔑み馬鹿にしていたのである。
公爵家の一員を侮辱するなど、本来であれば許されることではない。
しかし彼女達は、妾の子のことでムキになることはないと高を括っていた。
だが公爵家は彼女達に対して厳正なる抗議をしてきた。
二人が公爵家を侮辱したとして、糾弾したのである。
彼女達は何もわかっていなかったのだ。例え妾の子であろうとも、公爵家の一員であるクラリアを侮辱してただで済む訳がないということを。
※HOTランキング1位、小説、恋愛24hポイントランキング1位(2024/10/04) 皆さまの応援のおかげです。誠にありがとうございます。

《完》義弟と継母をいじめ倒したら溺愛ルートに入りました。何故に?
桐生桜月姫
恋愛
公爵令嬢たるクラウディア・ローズバードは自分の前に現れた天敵たる天才な義弟と継母を追い出すために、たくさんのクラウディアの思う最高のいじめを仕掛ける。
だが、義弟は地味にずれているクラウディアの意地悪を糧にしてどんどん賢くなり、継母は陰ながら?クラウディアをものすっごく微笑ましく眺めて溺愛してしまう。
「もう!どうしてなのよ!!」
クラウディアが気がつく頃には外堀が全て埋め尽くされ、大変なことに!?
天然混じりの大人びている?少女と、冷たい天才義弟、そして変わり者な継母の家族の行方はいかに!?

公爵令嬢は、どう考えても悪役の器じゃないようです。
三歩ミチ
恋愛
*本編は完結しました*
公爵令嬢のキャサリンは、婚約者であるベイル王子から、婚約破棄を言い渡された。その瞬間、「この世界はゲームだ」という認識が流れ込んでくる。そして私は「悪役」らしい。ところがどう考えても悪役らしいことはしていないし、そんなことができる器じゃない。
どうやら破滅は回避したし、ゲームのストーリーも終わっちゃったようだから、あとはまわりのみんなを幸せにしたい!……そこへ攻略対象達や、不遇なヒロインも絡んでくる始末。博愛主義の「悪役令嬢」が奮闘します。
※小説家になろう様で連載しています。バックアップを兼ねて、こちらでも投稿しています。
※以前打ち切ったものを、初めから改稿し、完結させました。73以降、展開が大きく変わっています。

【完結】勤労令嬢、街へ行く〜令嬢なのに下働きさせられていた私を養女にしてくれた侯爵様が溺愛してくれるので、国いちばんのレディを目指します〜
鈴木 桜
恋愛
貧乏男爵の妾の子である8歳のジリアンは、使用人ゼロの家で勤労の日々を送っていた。
誰よりも早く起きて畑を耕し、家族の食事を準備し、屋敷を隅々まで掃除し……。
幸いジリアンは【魔法】が使えたので、一人でも仕事をこなすことができていた。
ある夏の日、彼女の運命を大きく変える出来事が起こる。
一人の客人をもてなしたのだ。
その客人は戦争の英雄クリフォード・マクリーン侯爵の使いであり、ジリアンが【魔法の天才】であることに気づくのだった。
【魔法】が『武器』ではなく『生活』のために使われるようになる時代の転換期に、ジリアンは戦争の英雄の養女として迎えられることになる。
彼女は「働かせてください」と訴え続けた。そうしなければ、追い出されると思ったから。
そんな彼女に、周囲の大人たちは目一杯の愛情を注ぎ続けた。
そして、ジリアンは少しずつ子供らしさを取り戻していく。
やがてジリアンは17歳に成長し、新しく設立された王立魔法学院に入学することに。
ところが、マクリーン侯爵は渋い顔で、
「男子生徒と目を合わせるな。微笑みかけるな」と言うのだった。
学院には幼馴染の謎の少年アレンや、かつてジリアンをこき使っていた腹違いの姉もいて──。
☆第2部完結しました☆
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる