我儘令嬢なんて無理だったので小心者令嬢になったらみんなに甘やかされました。

たぬきち25番

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【クリストフ】(王妃ルート)

8 怖がらずに光を放て

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私がその日の用事をすべて終わらせて、部屋に戻ると、ローベルが部屋を尋ねてきた。

「どうされたのですか?」
「ベルナデット様。殿下がお呼びです。
殿下の私室までおいで下さい。」
「え?私室ですか?」

私はかなり驚いた。
クリスは、結婚するまでお互いの私室の行き来は避けようと言っていたのだ。
どうして急に私室に招かれたのか不思議に思いながら、私はローベルに「わかりました。」と答えた。

そのまま。ローベルに案内されてクリスの私室に向かった。

「でも本当に今回は私もヒヤヒヤしておりましたので、リトア殿には頭が下がります。」
「リトア殿・・ルーカス様ですか?」
「ええ。実はルーカス・リトア殿が、殿下にベルナデット様が劇場の事業に必要だと進言して下さったのです。」

私はそれを聞いて嬉しくなった。

(え?私が必要だと言って下さったの??
ルーカス様が?それは嬉しいわ。)

「そうなのですか・・。」
「ええ。おかげで、殿下も納得されて。
私は、このまま殿下がベルナデット様を監禁・・・・。」

私は思わず、ローベルの顔を凝視した。
ローベルも、しまったという顔をしていた。

(え?今、不穏な単語が聞こえなかった??監禁??)

私は思わず足を止めた。

「・・・監禁?」

(え?私、もしかして監禁されるの?
それで、クリスの部屋?!
イヤなんだけど!!イヤなんだけど!!イヤなんだけど~~~!!)

私が青い顔をして歩くのを止めてしまったので、ローベルが慌てて言葉を続けた。

「いえ。申し訳ありません。
もう監禁の心配はありません。」
「もう・・?じゃあ、可能性があったの??」

ローベルは目を泳がせながら「いえ。」と言った。

(嘘下手過ぎだから!!!)

「ローベル。私、自分の部屋に戻ってもいいですか?」

私の言葉にローベルが真剣に答えた。
いつも冷静なローベルが影も形もなかった。

「いけません!!ここで殿下のお部屋に行かなかったら、監禁の可能性が高まります。
ぜひそんな悲しい未来にならぬよう、今!!殿下の部屋に行って下さい!!
今です!!今!!!
何卒よろしくお願いします!!」
「え~~~。」




私の頭の中に選択肢が浮かんだ。

▶ クリスの部屋に行く

▶ 自室に戻る ※













(このままクリスと気まずくなるわけにもいかないしね。)

そして隣で必死な顔をしているローベルを見た。

(ローベルを困らせるわけにもいかないわ。)

私はローベルの真剣な瞳に負け、クリスの部屋に向かった。
だが心の中では、(でも監禁怖い。部屋に帰りたい~~。)と泣いていた。


トントン

「殿下。ベルナデット様をお連れ致しました。」
「ああ。入れ。」
「はい。」

ローベルがドアを開けてくれた。

「どうぞ、ベルナデット様。」
「え・・ええ。」

私は怯えながらローベルの後についてクリスの部屋に入った。

部屋に入ると、「私はこれで失礼します。」と早々にローベルは退散した。

クリスがぎこちない態度でこちらに近づいてきた。

「ベル・・。顔色が悪いように思うけど、大丈夫?」

クリスが心配そうに私の顔を覗き込んだ。
私の頭に『監禁』の二文字が浮かんだ。

「・・大丈夫です。」

クリスがスッと私の手を取った。
私はつい、反射的にクリスの手から自分の手を抜き取ってしまった。

クリスは一瞬、目を見開き、とてもつらそうな顔をした。

「とりあえず、座ろうか。」
「はい。」

クリスに促され、私はソファーに座った。
するとクリスは私の隣に座った。
だがその距離はいつもより少し離れていた。

沈黙が訪れた。

私はこれから何が起こるのか気が気じゃなかった。

(監禁って、身体の自由も奪われるのかしら?
それとも行動範囲を限定されるのかしら?
お父様や父上にはお会いできるかしら?
・・・。
・・・・。
・・・・・。
ヴァイオリンと離れずにすむかしら?
せめてヴァイオリンが傍にあるといいな・・。)

私が怯えていると、クリスが真剣な顔でこちらを向くと、私の両手を取った。

「ベル!!ごめん!!」

突然の謝罪に私はパニックになった。

(何?どういうこと?
やっぱり監禁?
それでごめん?)

クリスはさらに言葉を続けた。

「私は、ベルがどんどん世界を広げて行くことが怖かった。
気が付いた時には、私の傍からいなくなりそうで・・。
だから、このままでは、私は君を閉じ込めて・・。」

私は顔を真っ青にして、立ち上がった。

「クリス様!!どうか監禁するのはやめて下さい!!
でも、もしどうしても監禁されるのでしたら、ヴァイオリンだけはどうか取り上げないで下さい!!!お願いします!!」

私は思わず目を閉じた。

「へ?ちょっと、ベル。
何言ってるの??
監禁??ヴァイオリンと君を離す??
そんなことするわけないでしょ??」

「え?」

クリスの言葉に私は目を開けた。
クリスもソファーがら立ち上がって顔を真っ赤にして話しかけてきた。

「閉じ込めるっていうのは、その君の王妃としての活動を狭めてしまうっていう意味で・・。
監禁なんてそんなことするわけないでしょ??
むしろそんなことする男だと思われたことがショックだよ!!」

慌てて否定するクリスを見て私の方が驚いてしまった。

「では違うのですか?」
「全然違うよ!!」

クリスは息を切らしながら全力で否定してくれた。

(よかったぁ~~~!!!!監禁じゃなかった!!!)

私が安心していると、クリスが大きなため息をついて、ソファーに座った。
クリスが座ったまま私の片手を握った。
私はつられるようにクリスと隣に座った。

自然と先ほどよりも距離が近くなっていた。
クリスが黙っているので、私はクリスの顔を覗き込んだ。

「監禁ではないのでしたら、クリス様は何をお話されるおつもりだったのですか?」

結果的に私がクリスの話を邪魔してしまったため、もう一度話を聞くためにクリスに尋ねた。
すると、クリスが珍しく顔を真っ赤にして言い淀んでいた。
いつも颯爽としているクリスには珍しいことだった。

私はとにかくクリスが話し出すのを待つことにした。

カチカチカチと、時計の音が部屋に響いていた。

(言いにくいことなのかしら?
まさか別れとか?)

私がまた新たな可能性に怯えていると、クリスが意を決したように私を見つめた。

「私は、とても臆病者なんだ。」
「え?」

クリスと臆病者という単語が全く結び付かず、私は混乱した。
さらにクリスは真剣瞳で見つめてきた。

「私は、ベルの心が私から離れてしまうことが怖かったんだ。
だから、君がルーカスと楽しそうに話をしていることに嫉妬したんだ。」

「え?嫉妬?ルーカス様とはお仕事の話をしていただけで・・。」

クリスの口から嫉妬という言葉が出てきて驚いてしまった。
そんなドロドロとした感情をクリスが持っているとは夢にも思わなかったのだ。


「それでも!!
君を取られそうで、怖かったんだ・・・。」

クリスは泣きそうな顔で、手も震えていた。
私はクリスの震える手を取ると、ふんわり笑い、クリスの目を見つめた。

「クリス様。好きです。」
「え?」

クリスが驚いて、私の顔をじっと見つめた。

「好きです。これからもずっとあなたの隣にいたいです。」
「ベル!!」

その瞬間、クリスに抱きしめられていた。

「ベルは私のことが好きなのか?」
「はい。もちろんです。」

すると、クリスが身体を離して、私の顔を見た。

「もちろん?ベルが私のことが好きなど、初めて聞いたのだが?」
「え?そうですか?」

クリスにまた抱きしめられた。

「そうだ!そんなこと聞いたこともない!!」
「それは申し訳ありませんでした。」

そして、さらにきつく抱きしめられた。

「これからは・・その・・たまには言ってくれないか?
好きだと・・。」

私もクリスをぎゅっと抱きしめ小声で呟いた。

「じゃあ、クリス様も言って下さいね・・。」
「ああ。約束する。」

少しだけ私を抱きしめる手が緩んだ。
不思議に思って、クリスを見上げると、クリスの顔が近づいてきた。
私はゆっくりと目を閉じた。


それが、私たちの初めてのキスだった。




※【ルーカス エピソード出現】 Episode CLOSE(・・・coming soon)
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