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【サミュエル】(学院発展ルート)

3 叶った願い

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卒業式の朝、家の前に王家の馬車が停まっていた。

「ベル。行くぞ。」
「はい。」

私たちは馬車に乗り込んだ。
すると、馬車の中にはクリスが乗っていた。

「おはよう。今日で学院も終わりだね。」
「おはようございます。ええ。そうですね。」

しばらく進むと、クリスが口を開いた。

「エリックは、領地に戻るのだろ?」
「え?そうなのですか?」

私は驚いて、兄の顔を見た。

「ああ。そうだ。」

兄が全てを諦めたような顔をして笑った。
そして、その顔でクリスを見た。

「殿下こそ、大国ラルジュ国の王女様とのご婚約おめでとうございます。」
「・・・ああ。」

それから無言で学院まで向かった。
馬車を降りようとすると、クリスに泣きそうな顔で手を引かれた。

「エリック。少しだけ2人にしてくれ。」
「ああ。」

兄が先に馬車を降りた。

すると、クリスに抱きしめられた。

「ベル・・・。
・・・・好きだった。
・・・本当に好きだったんだ。
・・・・・。
・・さよなら。」

私はなんとか笑うように努めた。

「ご婚約おめでとうございます。
良き王になられますように。
クリストフ殿下・・・。
殿下の幸せを祈っています・・・心から。」
「・・・ああ。ありがとう。」

そういうと、クリスは颯爽と馬車を降りていった。
私はその背中に小さな声で「ありがとうございました、さようなら。」と告げた。

馬車を出ると、兄が待っていてくれた。

「お兄様、領地に戻られるのですか?」
「ああ。おまえは、王立音楽芸術学院に残るのだろう?」
「はい。そのつもりです。」

すると、兄は泣きそうな顔で優しく笑った。

「おまえの活躍を期待している。」
「ありがとうございます。」
「今日の夜には発つ。」
「え?そんなに早く?」
「ああ。ベル・・。元気でな。」
「はい。お兄様もお元気で。」

兄と別れて、私は卒業式の会場に向かった。
私は、手元のヴァイオリンをぎゅっと握りしめていた。

「では皆さん、ご卒業おめでとうございます。
今後とも皆さんが、多くの方に幸福を届けてくれることを信じています。
皆さんの未来が幸福と光で溢れるように願っています。」

学長のあいさつで、私たち王立音楽芸術学院、第一期生の卒業式が終わった。

学長が席に戻ると、司会の方がマイクを持った。

「これより卒業記念演奏を行います。
代表ベルナデット・アトルワ。パートナー、サミュエル・イズール。」

私とサミュエル先生はヴァイオリンと共にステージに上がった。

会場がざわざわとしだした。
私とサミュエル先生が演奏することは、多くの生徒が知っていただろうがそれでも会場はざわついた。

「ふふふ。やっとあなたと皆の前で演奏できます。」

サミュエル先生が小声で呟いた。

「やっと願いが叶いました!!」
「そうですね。・・・・準備はいいですか?」

サミュエル先生の楽しそうな顔に思わず微笑んで、頷いた。

「はい。」
「では・・・。」

会場がシーンと静まりかえった。
この場にまるで天上の音楽のような旋律が奏でられた。

ここにいるのは、皆、厳しい環境で学んだ音楽のプロだ。
素晴らしい音楽には何度も触れたことのある者たちばかりだった。
その者たちすべてが、2人の奏でる極上の音楽に酔いしれた。

(あ・・・。まるで身体が解けそうなくらい気持ちいわ。
サミュエル先生と一つに溶け合っているみたい・・。
こんな幸福を得られるなんて・・・。)


・・・・。
・・・・・・・。
・・・・・・・・・・・。

演奏が終わると、割れんばかりの拍手が会場を包んだ。
全ての者が心からの喝采を贈った。

弾き終わるとサミュエル先生と目が合った。
サミュエル先生の顔が幸せそうにとろけていた。
なんとなく、サミュエル先生も自分と同じように感じてくれたようで嬉しかった。


その後司会の方が閉会を告げ、皆会場から退出した。
私とサミュエル先生は舞台袖にいた。

「ベルナデット様。最高の演奏でしたね!!
私は今日のあなたとの演奏の思い出があれば生きていけます。
幸せです。このような機会をありがとうございます。ベルナデット様。」

サミュエル先生が珍しく興奮して話かけてくれた。
私も嬉しくなって、声を弾ませた。

「私もとても幸せでした。
まるで、サミュエル先生と一つになっているようでした!!」
「え?!?!」

サミュエル先生が赤い顔で固まった。

「一つに・・。」

耳まで赤くして呟くサミュエル先生を、真っすぐと見つめた。

「サミュエル先生。今後は私にサミュエル先生のお手伝いをさせて下さい。」
「・・・え?」

サミュエル先生が驚いて、大きな目を見開いた。

「あの、王妃の仕事はよろしいのですか?」

その問いかけに私は息を吐いて答えた。

「はい。実はつい先日、私とクリストフ殿下の婚約は解消されました。
ですので私はこれからは学院のお手伝いをさせて頂きたいと思います。
父もすぐに婚姻などは考えなくてもいいと言ってくれましたし・・。」

「え?婚約を解消?」

サミュエル先生には珍しくポカンとした顔をしている。

「はい。」

サミュエル先生がさらに目を見開いた。

「本当に?」
「はい。」
「ベルナデット様はクリストフ殿下とご結婚されないのですか?」
「はい。」

その瞬間、サミュエル先生に抱きしめられた。

「サミュエル先生?!」
「これは現実なのか?!」

サミュエル先生が聞いたこともないような無邪気な声をだした。

「夢みたいだ。あなたを誰にも奪われないなんて!!」

そして、私をさらにきつく抱きしめた。

「もう諦めてたんです。
でも、どうしても諦められなくて、苦しくて、苦しくて、心が枯れてしまうかと思っていました。」

私はサミュエル先生の様子に戸惑ったが、私もそんな先生の姿が嬉しくて、思わずサミュエル先生の背中に腕を回していた。

「他人の婚約解消をここまで喜ぶなど、私は地獄に落ちるかもしれない。
それでも、あなたが私以外の誰かの手を取らずにすむことがこんなにも嬉しい。」

そして、サミュエル先生は私の手を取ると、私の手の甲を自分の頬に付けた。
そのまま切なそうな顔で私の手の甲にキスをした。

(うっ!!!サミュエル先生!!
それは、それは・・色気が溢れて・・もう、倒れそうです・・・。)

そして、色気を含んだ眼差しで甘く見つめられた。

「これからも私の側にいて下さい。ベルナデット様。」

私の頭はサミュエル先生の大人の色気で今にも沸騰しそうだったが、なんとか答えた。

「はい。よろしくお願い致します。」
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