我儘令嬢なんて無理だったので小心者令嬢になったらみんなに甘やかされました。

たぬきち25番

文字の大きさ
上 下
72 / 145
【サミュエル】(学院発展ルート)

1 選んだ人

しおりを挟む



「ふふふ。お父様、父上。ご相談に乗って頂き、ありがとうございます。
今は、目の前の卒業公演のことだけを考えたいと思います。
しかし、可能ならこれからも学院に尽力したいです。」
「そうか。学院に・・。」
「わかった。王立音楽芸術学院の一期生として頑張りなさい。」
「はい。」

私は部屋に戻った。

(そうだ。)

私は今するべきことは、卒業公演を素晴らしいものにすることだ。
学院の最高責任者であるサミュエル先生のためにも私は絶対に失敗するわけにはいかなかった。


そして私たちは卒業公演に全てを注いだ。

「クリス様。今のテンポどうでしょう?」
「うん。問題ない。そっちはどう?」

クリスが兄を見た。

「私も問題ない。だが・・。ヴァイオリンのパートはつらいのではないか?」
「いえ。皆様がいいなら今のテンポで。」
「ああ。確かに今のテンポなら終盤の変調部分を充分に聴かせられる。」
「じゃあ、もう一度やってみるか。」
「はい。お願いします。」







そして卒業公演が数日と迫った頃、最終的な卒業順位が発表された。

ヴァイオリン科の主席は私だった。
ちなみに、クリスはピアノ科の3位。
兄はチェロ科の次席。

私は全ての科を通しての実技・学科試験共に満点だったらしく、卒業式の代表演奏奏者に選ばれた。
そのために昼食休憩中の職員室に呼ばれた私は、先生方に囲まれていた。

「ベルナデット様。主席卒業おめでとうございます。」
「ありがとうございます。先生方のご指導のおかげです。」

私がお礼を言うと、ヴァイオリン科の先生が質問してきた。

「卒業式の代表演奏者は、自らが指名して、2人で弾くことになります。」
「え?」

卒業式で演奏することは聞いていたが、誰かと一緒に演奏するとは聞いていなかった。

「ヴァイオリン科の生徒に関わらず、学院内の人物から指名することが出来ます。」
「学院内の・・」

私は奥に座っている人物に視線を移した。

「誰と演奏しますか?」

先生に聞かれたので、私は勇気を出して、先生方に尋ねた。

「相手の方はこの学院の生徒でないとダメなのでしょうか?」

私の質問にザワザワとしだした。

「ちなみにどなたと一緒に弾きたいのですかな?」

私はしっかりと前を向いて、奥に座っている人物を見据えた。

「もし、願いが叶うのならば、学長であるサミュエル先生と弾きたいです。」

周りの喧騒を気にせず、私はずっとサミュエル先生に視線を向けていた。
サミュエル先生は、驚いた後、とても嬉しそうに笑った。

「いかがですか?」

ヴァイオリン科の先生がサミュエル先生に尋ねた。
サミュエル先生が凛とした表情を見せた。

「最初に『主席卒業の生徒が指名した人物』と決めました。
生徒と限定したわけではない。」
「確かに・・。」
「はい。資料にもそう明記してあります。」

他の先生方が頷いた。

「よって今回は、『主席卒業の生徒が指名した人物』である私が、彼女のパートナーを務めます。」
「学長自ら演奏を。」
「ベルナデット様と学長の演奏・・。
それは話題になりますな。」

すると、ピアノ科の先生が皆に号令をかけた。

「それでは代表演奏者も決まったので、各自ご自分の仕事にお戻り下さい。」

そしてサミュエル先生の方を向いた。

「卒業代表演奏の件は学長にお任せしてもよろしいでしょうか?」
「はい。他はお願いします。」
「わかりました。それでは、私はこれで。」

ヴァイオリン科の先生に、小声で「いい機会だ。しっかりと学んできなさい。」と言われた。
私は笑顔で「はい。」と言った。


するとサミュエル先生が近づいて来て、「ベルナデット様。放課後に学長室に来てくれませんか?」と聞かれたので、「はい」と答えた。

それから午後は卒業公演までアンサンブル練習だった。
今日は兄もクリスも用があるため、授業が終わったらすぐに帰るそうだ。

私は帰り支度をすると、サミュエル先生が待つ学長室に向かった。







「ああ。ベルナデット様。お待ちしてました。」

学長室に入ると、笑顔のサミュエル先生が迎えてくれた。
私は職員室でのことを思い出して、頭を下げた。

「こんにちは。先程は失礼しました。
あの・・今さらですが、卒業演奏のこと、ご迷惑ではありませんでしたか?」

すると、サミュエル先生が小さく笑った。

「5年前、この規定を作った時、私はもしかしたらこうなることを期待していたのかもしれません。」

「え?」

サミュエル先生が懐かしむように私に微笑んでくれた。
そして、苦しそうな顔をした。

「あの時の私は、あなたの音と離されて、寂しくて寂しくてしょうがなかった。
自分で決めたこととはいえ、あなたと離れたことを後悔してました。」

「サミュエル先生・・。」
「だから、願いを込めてこの規定を作ったのです。
あなたは私の課題曲を期限内に完璧に仕上げました。
そのあなたならもしかして、この卒業演奏奏者に選ばれるのではないかと・・。」

先生がじっと私を見つめた。

「そして、そのパートナーに私を選んでもらえないかと・・。」

そしてサミュエル先生が真っ赤な顔をして、手を口元に当てた。

「まさか願いが叶うとは・・。」

そうして先生はとても嬉しそうに笑った。
その顔を見た私も自然と笑っていた。
しおりを挟む
感想 13

あなたにおすすめの小説

【完結】転生地味悪役令嬢は婚約者と男好きヒロイン諸共無視しまくる。

なーさ
恋愛
アイドルオタクの地味女子 水上羽月はある日推しが轢かれそうになるのを助けて死んでしまう。そのことを不憫に思った女神が「あなた、可哀想だから転生!」「え?」なんの因果か異世界に転生してしまう!転生したのは地味な公爵令嬢レフカ・エミリーだった。目が覚めると私の周りを大人が囲っていた。婚約者の第一王子も男好きヒロインも無視します!今世はうーん小説にでも生きようかな〜と思ったらあれ?あの人は前世の推しでは!?地味令嬢のエミリーが知らず知らずのうちに戦ったり溺愛されたりするお話。 本当に駄文です。そんなものでも読んでお気に入り登録していただけたら嬉しいです!

王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」 「正直なところ、不安を感じている」 久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー 激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。 アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。 第2幕、連載開始しました! お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。 以下、1章のあらすじです。 アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。 表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。 常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。 それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。 サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。 しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。 盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。 アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

記憶を失くして転生しました…転生先は悪役令嬢?

ねこママ
恋愛
「いいかげんにしないかっ!」 バシッ!! わたくしは咄嗟に、フリード様の腕に抱き付くメリンダ様を引き離さなければと手を伸ばしてしまい…頬を叩かれてバランスを崩し倒れこみ、壁に頭を強く打ち付け意識を失いました。 目が覚めると知らない部屋、豪華な寝台に…近付いてくるのはメイド? 何故髪が緑なの? 最後の記憶は私に向かって来る車のライト…交通事故? ここは何処? 家族? 友人? 誰も思い出せない…… 前世を思い出したセレンディアだが、事故の衝撃で記憶を失くしていた…… 前世の自分を含む人物の記憶だけが消えているようです。 転生した先の記憶すら全く無く、頭に浮かぶものと違い過ぎる世界観に戸惑っていると……?

身代わりの公爵家の花嫁は翌日から溺愛される。~初日を挽回し、溺愛させてくれ!~

湯川仁美
恋愛
姉の身代わりに公爵夫人になった。 「貴様と寝食を共にする気はない!俺に呼ばれるまでは、俺の前に姿を見せるな。声を聞かせるな」 夫と初対面の日、家族から男癖の悪い醜悪女と流され。 公爵である夫とから啖呵を切られたが。 翌日には誤解だと気づいた公爵は花嫁に好意を持ち、挽回活動を開始。 地獄の番人こと閻魔大王(善悪を判断する審判)と異名をもつ公爵は、影でプレゼントを贈り。話しかけるが、謝れない。 「愛しの妻。大切な妻。可愛い妻」とは言えない。 一度、言った言葉を撤回するのは難しい。 そして妻は普通の令嬢とは違い、媚びず、ビクビク怯えもせず普通に接してくれる。 徐々に距離を詰めていきましょう。 全力で真摯に接し、謝罪を行い、ラブラブに到着するコメディ。 第二章から口説きまくり。 第四章で完結です。 第五章に番外編を追加しました。

公爵家の隠し子だと判明した私は、いびられる所か溺愛されています。

木山楽斗
恋愛
実は、公爵家の隠し子だったルネリア・ラーデインは困惑していた。 なぜなら、ラーデイン公爵家の人々から溺愛されているからである。 普通に考えて、妾の子は疎まれる存在であるはずだ。それなのに、公爵家の人々は、ルネリアを受け入れて愛してくれている。 それに、彼女は疑問符を浮かべるしかなかった。一体、どうして彼らは自分を溺愛しているのか。もしかして、何か裏があるのではないだろうか。 そう思ったルネリアは、ラーデイン公爵家の人々のことを調べることにした。そこで、彼女は衝撃の真実を知ることになる。

乙女ゲームで唯一悲惨な過去を持つモブ令嬢に転生しました

雨夜 零
恋愛
ある日...スファルニア公爵家で大事件が起きた スファルニア公爵家長女のシエル・スファルニア(0歳)が何者かに誘拐されたのだ この事は、王都でも話題となり公爵家が賞金を賭け大捜索が行われたが一向に見つからなかった... その12年後彼女は......転生した記憶を取り戻しゆったりスローライフをしていた!? たまたまその光景を見た兄に連れていかれ学園に入ったことで気づく ここが... 乙女ゲームの世界だと これは、乙女ゲームに転生したモブ令嬢と彼女に恋した攻略対象の話

【完結】勤労令嬢、街へ行く〜令嬢なのに下働きさせられていた私を養女にしてくれた侯爵様が溺愛してくれるので、国いちばんのレディを目指します〜

鈴木 桜
恋愛
貧乏男爵の妾の子である8歳のジリアンは、使用人ゼロの家で勤労の日々を送っていた。 誰よりも早く起きて畑を耕し、家族の食事を準備し、屋敷を隅々まで掃除し……。 幸いジリアンは【魔法】が使えたので、一人でも仕事をこなすことができていた。 ある夏の日、彼女の運命を大きく変える出来事が起こる。 一人の客人をもてなしたのだ。 その客人は戦争の英雄クリフォード・マクリーン侯爵の使いであり、ジリアンが【魔法の天才】であることに気づくのだった。 【魔法】が『武器』ではなく『生活』のために使われるようになる時代の転換期に、ジリアンは戦争の英雄の養女として迎えられることになる。 彼女は「働かせてください」と訴え続けた。そうしなければ、追い出されると思ったから。 そんな彼女に、周囲の大人たちは目一杯の愛情を注ぎ続けた。 そして、ジリアンは少しずつ子供らしさを取り戻していく。 やがてジリアンは17歳に成長し、新しく設立された王立魔法学院に入学することに。 ところが、マクリーン侯爵は渋い顔で、 「男子生徒と目を合わせるな。微笑みかけるな」と言うのだった。 学院には幼馴染の謎の少年アレンや、かつてジリアンをこき使っていた腹違いの姉もいて──。 ☆第2部完結しました☆

処理中です...