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幕間 ハンス SIDE
46 ハンスSIDE 2
しおりを挟む「婚約者を探す?」
私はおじい様の言葉に思わず首を傾けた。お父様やお母様と離れて、寂しくてたまらなかった時だった。
「そうだ。ずっとお前と一緒に勉強したり、お前と遊んだり、お前とこの先ずっと一緒にいてくれる令嬢を探すのだ」
「ずっと一緒に?」
おじい様は、毎日忙しいそうで、ずっと一緒にいてくれたわけではなかった。寂しかった私は、嬉しくなって頷いた。
「どうだ?」
「うん!! 探す!!」
そうして、私は6歳から、婚約者を探すためのパーティーが行われたが、現実はそれほど甘くはなかった。
ホフマン伯爵家の財力はこの国でもトップクラスというのは、多くの貴族が知っていることだ。だから、なんとかホフマン伯爵家と繋がりを持ちたいと、どの家も令嬢をホフマン伯爵家に行かせたようだった。だが、どの家も幼い娘を婚約者にしたいというわけではなく、招待状を貰ったから、義理で参加させたり、顔を繋ぐために参加していた。義理で参加している令嬢はどこか、つまらなそうで、打算的な令嬢は怖いほど積極的だった。必然的に私は打算的な令嬢に囲まれていた。
「ハンス様、一緒に遊んで差し上げてよ」
「ハンス様、こちらのドレス、素敵ですが、私、もう一着ほしいドレスがありましたの」
「ハンス様。私、お菓子が好きですの、毎日このお茶会のようなお菓子が食べたいわ」
ずっとハフマン伯爵領でのんびりと育った私にとって、打算的なご令嬢のアピールは、怖くて、心を凍らせていった。
(お母様のような優しい笑顔を向けてくれる令嬢がいい)
毎日寂しくて、早く一緒に過ごしてくれる令嬢が現れることを望みながらも、相手は見つからずに、1年が過ぎた。その頃には、私はすっかりあきらめていた。
――そして、7歳になってしばらく経った時だった。
「ふふふふ。もう、シャルロッテったら!!」
「そんなに笑わなくても……」
いつも静かな会場に楽し気な笑い声が聞こえてきた。視線を向けると、その中にまるで、お母様のような優しい笑顔の令嬢がいた。
(あの子の笑顔……可愛い)
令嬢の含みある笑顔に疲れていた私は、笑顔の可愛い令嬢の元に行きたかったが、周りにいた令嬢に阻まれて近づくことさえ出来なかった。
(あの子に、会いたい。笑いかけてほしい、せめて名前だけでも聞きたい)
そう思って令嬢たちから逃げ出そうとしたが、逃げられなかった。
そんなことをしていると、お茶会が終わってしまった。
(ああ、もう会えないのかな……)
私が、部屋で、先程までお茶会が行われていた庭を見ていると、おじい様が部屋に入ってきた。
「ハンス、どうかな? 気になる令嬢はいたか?」
「うん……でも、名前がわからなくて……話が……出来なかった」
そういうと、おじい様が「ふむ」と言った後、楽し気な視線を向けた。
「その子のドレスの色わかるか?」
「わかるよ!! キレイな菫色!! 会場にあの子しかいなかった!!」
「そうか! 実は、私もお前にぴったりの令嬢を見つけたのだ。その令嬢に会ってみるかな?」
「え?」
私は、菫色のドレスを来た令嬢がいいと言ったのに、おじい様は、何を言っているのだろう?
おじい様の言葉に悲しくなったが、毎日寂しいので、誰かと話がしたかった私は「うん」と頷いたのだった。
その後、私の目の前に現れたのは、まさに、あの笑顔の可愛い令嬢だった。
(嬉しい!! 嬉しい!! 嬉しい!! この子とこれから、毎日一緒に居られるなんて!!)
令嬢の名前はシャルロッテ。私たちはすぐに打ち解け、その日のうちに名前で呼び合うようになり、婚約者になったのだった。
シャルは、いつでもお母様のように優しく、私はシャルと一緒にいる時間が大好きだった。
その気持ちに、影が差したのは、宝石を勉強を初めて半年が経った頃だった。
「ん~~ハンスはわからんか……では、ハンスは、この石とこの石をよく見て見分けられるようになりなさい。シャルロッテ嬢は、新しい宝石について説明しよう」
「はい」
私は、宝石の違いなど全くわからずに困っているのに、隣で、シャルロッテは信じられない早さで、宝石の知識を身に着けていった。
シャルの優秀さは宝石の勉強だけではなかった。
「ハンス様、この答えはなんですか?」
「ん~~待って……」
「ハンス様、計算する時に指を使わないように致しましょう」
「え~でも、指がなきゃ、わからないよ」
「そんなこと言っていると、指が足りなくなったら計算できなくなりますよ」
「は~~~い」
家庭教師は、私の手元を見た後に溜息をつくと、今度はシャルの手元を見て笑顔になった。
「シャルロッテさんは素晴らしいですね!! 全問正解です。では、少し難しいかもしれませんが、こちらをやってみましょう」
「はい。先生」
シャルは、いつも先生に褒められていた。
(僕だって頑張っているのに……)
そう思って、悔しくなることはあったが、勉強が終わるとシャルはいつも「ハンス!!」と、笑顔で私の手をとって、一緒にいてくれた。
風邪を引いた時も、「うつるから部屋に入らないように」と言われて、扉の向こうで絵本を読んでくれた。それに、怖い夢を見て寝れなかった日は、「ハンスの手を握っているわ」と手を繋いで一緒に昼寝をしてくれた。
私は、シャルと比較される毎日の中、少しでもシャルに近づこうと、シャルが帰った後も、必死で勉強した。
シャルばかりが褒められることは、つらい。
だが、それと同じくらいシャルの笑顔に救われている。
シャルばかりが褒められる、つらい!
シャルがいてくれて、嬉しい。
つらい!!
嬉しい!!
つらい!!
嬉しい!!
「ゼェ、ゼェ、うっ……」
胸が苦しい。呼吸ができない。
僕はどうやって呼吸をしていた?
わからない。思い出せない。
苦しい、苦しい!!
バタン!!
「ハンス様~~~~」
そんな毎日を過ごす、9歳の時に、私は倒れてしまった。
シャルはその日はもう、家に帰った後で、シャルに追いつくために必死で勉強をしていた時だった。
「精神的なものでしょうな」
「精神的なもの」
私のベットの横で、心配そうな顔のおじい様に、お医者様が告げた。
「ご両親と離れて、毎日勉強。何か、ハンス様の好きなことをして気分転換をしてみるのはどうですか? ハンス様の好きなことはなんですか?」
好きなこと、そう言われて真っ先に乗馬が浮かんだ。だが、おじい様から止められていた剣をしたいと思った。
「剣を習いたいです」
「剣? 伯爵いかがでしょうか?」
お医者様に聞かれて、おじい様も小さく溜息をついた。
「わかった……手配する」
まさか、ずっと剣を習うことを反対していたおじい様が、許して下さるとは思わなかった。
「本当ですか?」
「本当だ」
「ありがとうございます」
それから、私は剣を習い始めたが、それが私の人生を大きく代えるきっかけになるとは、その時の私には想像もできなかったのだった。
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