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第一章 幸せが約束された未来
14 ハンスの婚約者としての日常(1)
しおりを挟む「お嬢様、そろそろ、ホフマン伯爵家の馬車が到着されますよ~~」
エマが、父の執務室で、書類整理のお手伝いをしていた私を呼びに来てくれた。
「ああ、もうそんな時間か。シャル、ありがとう。助かったよ」
お父様が、積み重なった書類を片手に笑った。
私は持っていた書類を、お父様に手渡すと、頭を下げた。
「いえ、ではお父様いって参ります!!」
「いっておいで~~」
私はお父様の執務室を出て扉を閉めた。本来なら書類の整理のお手伝いは、お母様の仕事だが、最近、お母様は朝に起きられないことが多い。
「お母様……何かの御病気じゃなければいいのだけど……」
私の言葉に、エマが困った顔をした後に少し考えて、にっこりと笑った。
「お嬢様、大丈夫です。奥様は決して御病気ではございません!! そんなことより、そろそろ馬車が到着してしまいますよ」
「大変!! お待たせするのは申し訳ないわ。急ぎましょう」
「ええ」
私は、急いでエントランスに向かったのだった。
☆==☆==
玄関を開けた途端に、伯爵家の馬車が到着した。
伯爵家の御者のピエールが私の前にやってきた。
「おはようございます」
「おはようございます。今日もよろしくお願いします」
私があいさつをすると、ピエールが微笑んでくれた。
「ふふふ、今日も素敵な笑顔ですね」
ピエールがそう言うと、突然馬車の扉が開いた。
「シャル!! おはよう!!」
すると、中からハンスが出てきた。
いつも馬車で送ってくれるが、乗馬や剣術の訓練を重なるので、朝は迎えには来ない。
今日は一体どうしたのだろうか?
「おはよう、ハンス。どうしたの??」
私がハンスに尋ねると、ハンスが私に抱きついてきた。
「シャル!! 聞いて!! 今度行われる乗馬大会に出られることになったんだ!!
先生が『これなら子供乗馬大会で入賞も有り得る』と言って下さったんだ~~!!」
私は思わず、抱きついているハンスから少し離れて、ハンスの顔を見ながら言った。
「本当に?! 凄いわ!! おめでとう、ハンス!!」
ハンスはまた私を抱きしめた。
「ありがとう!! シャル~~絶対に大会を見に来てね!!」
「もちろんよ、ハンス!!」
私たちがはしゃいでいると、御者のピエールが嬉しそうに笑った。
「本当にハンス様は、シャルロッテ嬢が大好きですね~~。実は、昨日、シャルロッテ嬢に報告に行こうとおっしゃっていたのを、なだめて、今日一緒に迎えに来ることで、納得してもらったんですよ」
私は思わず、ハンスの顔を覗き込んだ。
「そうなの?」
するとハンスは顔を真っ赤にしながら言った。
「だって……乗馬は危ないから、シャルが僕の乗っている姿を見学するのはダメだって言われているだろう? でも大会なら、安全な場所で見れるだろ? シャルが、僕の乗っているところが見たいって言ってくれたからさ……早くシャルに見せたくて、練習頑張ったんだ」
確かに、ハンスとそんな話をした。
ハンスは、それを覚えていてくれたらしい。
私は嬉しくて、思わずハンスに抱きついた。
「嬉しい!! こんなに早く見れるなんて、ハンスありがとう」
「……えへへ。どういたしまして……」
ハンスと抱き合っていると、ピエールが嬉しそうに笑った。
「いや~。お2人がこれほど仲がよろしいだなんて、伯爵家の将来は安泰ですね。さて、後は馬車の中でお話して下さい。歴史の先生がお待ちですよ」
すると、ハンスがぱっと私から、離れると私の手を取った。
「そうだったね。行こう、シャル」
「うん!!」
こうして、私たちは馬車で伯爵家に向かった。
馬車の中でも私たちの話題は尽きなくて、ずっと話をしていたのだった。
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