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第一章 幸せが約束された未来

11 ホフマン伯爵家での生活

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 ハンスの婚約者になった翌日から、私はホフマン伯爵家に通うことになった。ハンスと一緒に勉強をするようになって、もうすぐ半年が経とうとしていた。

 なんと私とハンスは、王族の方を教育したという凄腕の家庭教師の元、基礎教育を受けることになった。
 毎日のように勉強の予定が組まれていたが、つらいとは思わなかった。
 きっと、ハンスと一緒に勉強できたからだろう。

 ハンスはいつでも私に優しくしてるので、私はハンスのためなら勉強もつらくないと思えた。

 教育にかなり力を入れている、ホフマン伯爵家だが、中でも、一番力を入れている教育が、『宝石』に関する教育だったのだ。
 なぜなら、ホフマン伯爵家は、宝石の目利きで財を成した家なのだ。
 だから宝石に関してだけは、毎日必ず伯爵自ら時間を取って、私たちに宝石についてを教えてくれていた。

 つまり、私たちがしっかりと、ホフマン伯爵から宝石に関する知識を継承できるかどうかに、今後のホフマン伯爵領の未来がかかっているのだ。

 そんなわけで、今日も午前の基礎教育が終わると、お昼休憩を挟んだ後に、宝石の勉強が始まった。


 
「さぁ、2人共これがわかるかな? 君たちから向かって右から順番に宝石の名前を書いてごらん」

 ホフマン伯爵が、数日前に教えてくれた宝石をテーブルに並べた。
 私とハンスは並んで座って、石を見たり触ったりした。

(少しだけ青みがかった赤い宝石、これはツヴァイタイトね、そしてこれが、ルージュに見えるけどそれはフェイクで、アインタイトね………そしてこれはガラス玉ね、この綺麗な紅。これは間違えようもないわ、ドライタイトの特徴ね)

 私は右から順番に、宝石の名前を書いていった。
 
「うわ~~全然わかんない」

 隣でハンスが頭を抱えていた。
 ハンスは宝石の微妙な違いがわからないと言って、いつも手触りを優先している。
 私は、逆に手触りだとあまりわからないのだ。

 私が紙を書き終えると、ホフマン伯爵が微笑んだ。
 出会った頃の伯爵より、口調も少しだけ柔らかくなった。さらに最近では『シャルロッテ』と私のことを名前で呼んでくれる。

「おや? シャロッテはもう書けたかな?」

「はい」

「貸してごらん」

「どうぞ」

 私は緊張しながら、伯爵に答えの書いた紙を渡した。いつもこの瞬間は緊張する。

 伯爵はとても厳しいが、それと同じだけ優しい。
 最近では、丁寧に教えてくれる伯爵の期待に答えたいと思っていた。
 そうこうしているうちに、私はいつの間にか、伯爵から受ける宝石の勉強が、一番楽しみな時間になっていたのだ。
 
「ふふふ。さすがだね。全部正解だ。ハンス。もう書かなくていい、正解を口で言ってごらん」

 伯爵の言葉に、ハンスが自信がなさそうに答えた。

「これがドライタイト…? そしてルージュ、アインタイトに、ツヴァイタイトかな?」

 するとホフマン伯爵が大きな溜息をついた。
 
「ルージュは入っていないし、どれも不正解だよ。ハンス。お前はもう一度、やり直しだね」

「え~~~難し過ぎますよ。おじい様」

 ハンスが宝石を見ながら泣きそうな顔をして言った。

「難しくても、学ばなければいけない。これは我が伯爵家の大切な生業だからね」

「わかっていますよ」

 伯爵に諭されて、ハンスは少し、いじけたように言った。

(ハンス大丈夫かな?)

 私が心配していると、ホフマン伯爵が次の石を取り出した。

「では、今日はこの石を学ぼう」

「もう、次の石?!」

 ハンスは新たな石の登場にげんなりしていたが、私はというと、新たな石の登場に心を躍らせたのだった。


☆==☆==

 勉強が終わると、ハンスと2人で庭で、お茶を飲む時間だ。

「はぁ~~。シャルは凄いな~。マナーだって歴史だって、宝石だってすぐに覚えちゃうし」

 ハンスが少しだけ口を尖らせながら言った。

「ハンスだって、ダンスを褒められていたでしょ? 私はステップもまだ覚えられないから羨ましいわ」

 するとハンスが、私に顔を近づけて、にっこりと笑った。

「ごめん、そうだよね。僕とシャル、得意なことと、苦手なことがあって当然だよね。
 2人で少しずつできるようになろうね。」

「うん!! 私、ハンスに相応しい女性になるために頑張るわ」

「ありがとう、シャル。本当に大好きだよ!! 僕の婚約者がシャルでよかった!! ねぇ、シャルこれからも、2人で頑張ろうね!!」

「もちろんよ。それに……私もハンスのこと……大好きだよ」

「シャル~~~~」

 そう言って、ハンスは私を抱きしめた。私はハンスの腕の中で顔を見合わせて笑い合ったのだった。

 ☆==☆==

 お茶の時間が終わり、マナーの勉強を終えて、2人で少しの間かくれんぼをして遊ぶと、私は家に戻ることになった。毎日、勉強の後に私たちは2人で遊ぶ時間があるのだ。

 私もハンスもその時間を楽しみにしていた。
 そして、行きはそうではないが、帰りはハンスが一緒に馬車に乗って、屋敷まで送ってくれるのだ。
 今日ももちろん、ハンスは家まで送ってくれた。馬車の中で、私は念のために明日の予定を確認することにした。

「ハンス。明日はエカテリーナに会いに行ってくるね」

 私が明日エカテリーナの家に遊びに行くことは、数日前から、伯爵とハンスに伝えて許可を貰ってあったのだ。

「そうだったね……明日は、シャルに会えないのか……寂しいな~~。乗馬と剣術の訓練が始まって、シャルと一緒に過ごす時間が減ってるのに……。
 ああ、そうだ!!
 これからは、エカテリーナに伯爵家に来てもらったらどうかな?」

「ええ? そんな、悪いわ……」

 ハンスの提案に私は驚いてしまった。

「僕は、シャルに会えないのは寂しいし、エカテリーナが僕の屋敷に来てくれれば、エカテリーナとお茶の時間だけ、会うのを我慢すればいいしね。いい考えでしょ? 僕からおじい様に伝えるよ」

「ええ、あの、ハンス。エカテリーナにも聞いてみないと……」

「じゃあ、明日聞いてみて。もし、エカテリーナが了承すれば、こちらから侯爵家に文書を送るよ」

「……うん」

 ハンスのキラキラした瞳を見ると、何も言えなくて私は静かに頷いたのだった。


 




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