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第一章 幸せが約束された未来
5 侯爵家へのお呼ばれ(1)
しおりを挟む「すごい!! 屋根付きの馬車だわ」
次の日、侯爵家からの迎えの馬車が到着して、余りにも豪華な馬車で驚いてしまった。
「いってらっしゃい!! 気をつけてね」
「お嬢様、お気をつけて」
「いってきます」
お母様とエマに見送られて、私は侯爵家の馬車に乗り込んだ。
家の馬車より、随分と静かだし、まるで動く部屋の中にいるようなので、風で髪が乱れなかった。
この馬車ならば、髪を結衣上げても崩れないかもしれない。
(馬車なのに、髪が乱れないなんてすごいわ~~~)
私は感心しながら、馬車を楽しんだのだった。
☆==☆==
「シャルロッテ!! 待っていたわ!!」
「エカテリーナ!! 早速、招いてくれて、ありがとう!!」
侯爵家に着くと、エカテリーナが待っていてくれた。
よく見ると、エカテリーナの隣に、私と同じくらいの男の子が立っていた。
(誰かしら?)
私の視線に気づいたエカテリーナが、男の子を紹介してくれた。
「シャルロッテ、紹介するわ。弟のゲオルグよ」
そう言われれば、アッシュグレーの髪にネイビーの瞳は、エカテリーナと、よく似ている。
「はじめまして、シャルロッテ・ウェーバーです」
握手をしようと手を差し出だしたが、ゲオルグは、真っ赤になって私の手をじっと見ていて、動かない。
(どうしよう。高位貴族の方には握手の習慣がないのかしら?)
もしかしたら、作法が違うのかもしれない。
不安に思って、手をひっこめようか、どうしようかと考えていると、エカテリーナの声が響いた。
「ちょっと、ゲオルグどうしたの? 早く握手しなさい!! 手を差し出した令嬢を待たせるなんて、何を考えているの?!」
隣で、エカテリーナが注意してくれたが、ゲオルグは全く動かなかった。
仕方なく私は手を引き戻した、するとゲオルグが小さく呟いた。
「あ……」
真っ赤な顔で、泣きそうになっているゲオルグに私は、笑顔を作った。
「突然、握手は困りますよね。ごめんなさい」
「もう!! シャルロッテは全く悪くないわ!! ゲオルグは本当に子供なんだから!!
どうせ、シャルロッテが可愛くて、恥ずかしくなったんでしょ? あなた……もしかして、一目惚れとか??」
エカテリーナ言葉に、ゲオルグが声を上げた。
「な、違う!! 誰がこんな変な令嬢!! こんなヤツ、大嫌いだ!!」
変な令嬢。
大嫌い……。
初対面で、私はどれだけの悪い印象を与えてしまったのだろうか?
一目見て、なかなか『大嫌い』になることは少ないのではないだろうか?
やはり、つぎはぎのあるワンピースではなく、昨日のドレスで来た方がよかったのだろうか?
侯爵家で育った男の子にとって、私のような庶民の格好をした女の子を見る機会は、ほとんどないのだろう。
自分の知らない令嬢がいたら、確かに『変な令嬢』と感じるかもしれない。
(このワンピースが一番、状態がよかったんだけどな……)
私の服装が侯爵家に遊びに来るのに相応しい格好ではないことは、自覚していたが、やはり落ち込んでしまった。
「ゲオルグ!! なんてことを!! シャルロッテにあやまりなさい!!」
エカテリーナがゲオルグを怒った後に、私の方を見た。
「ごめんね。シャルロッテ。ゲオルグもあなたと、同じ7歳だから、仲良くなれるかと思ったんだけど……」
どうやら、ゲオルグも7歳らしい。
いつも私のまわりには年上ばかりだったので、同じ年の子に会ったのは初めてだった。
そう言えば、エマとエイドも小さい時は、ケンカをすると『嫌い』とか『大嫌い』と言い合っていた。
2人共、私には絶対に言わないので、自分が誰かに『大嫌い』と言われたことが、なんだか不思議な感覚だった。
(本当に、大嫌いってつらい言葉だわ……)
「いえ。初めて『大嫌い』と言われて驚いただけです」
「あ……。ご……め」
私の言葉に、ゲオルグの方が傷ついたような顔をしてこちらを見た。
エマとエイドがケンカをすると、お母様がいつも『いい、言葉っていうのは全て自分に返ってくるのよ? 嫌いなんて、相手が悲しむ言葉を遣ったら、自分に返って来ちゃうんだから!!』
お母様がそう言うと、エマとエイドは泣きながら『ごめんなさい』を言い合っていた。
(本当だ。『大嫌い』って言ったゲオルグの方が傷ついてる)
お母様の言葉が真実だったことを実感していると、エカテリーナが私の顔を覗き込みながら言った。
「シャルロッテ。ごめんなさいね。弟がいつも1人だから、今日は3人で遊ぼうと思ってたのに!! 行きましょう。シャルロッテ。やっぱり2人で遊びましょう」
エカテリーナは、私と手を繋ぐと、ずんずんと歩き出した。
私は、エカテリーナについて行きながら、チラリとゲオルグの方を見たが、ゲオルグは下を向いたまま、片手を顔に当てていた。
(泣いてるのかな?)
私は、歩いているエカテリーナに向かって言った。
「あの…泣いてるみたいだけど、いいの?」
「いいのよ!! 全く。あの子、シャルロッテより先にお茶会デビューを済ませているのよ。
それなのに、あの態度!! 信じられない!! 王子殿下や、公爵子息様もいらっしゃるのに、大丈夫なのかしら? もう一度、きっちり教育するように、ゲオルグの教師に伝えなきゃ!! シャルロッテ、イヤな思いをさせて本当にごめんね」
「それはいいんだけど……握手をするのがイヤな人がいることを知れたし」
「握手は普通のことよ!! むしろ、異性と会ったら握手は基本中の基本なんだけど……。はぁ、シャルロッテはこんなに賢くて、可愛いのに、弟ときたら……少し、成長したかと思って会わせたんだけど、恥ずかしいわ」
「どうしても嫌いな人っていると思うし……」
「はぁ~~。シャルロッテは大人ね~~! 本当に弟と同じ年なの?? そうだ、今日は、私の小さい頃来ていた服をシャルロッテにあげようと思って呼んだの。もう着れないし、いらないかしら?」
「貰ってもいいなら、欲しい!!」
「ふふふ。もう、準備してあるの。行きましょう!」
「うん!!」
その後、私はエカテリーナからたくさんの服を貰った。
そして、昨日のようにエカテリーナとたくさん話をした。
エカテリーナはとても物知りで、頭がよくて、話がとても面白い。
私は、長くエカテリーナと話をしてしまって、帰るのが遅くなってしまったのだった。
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