上 下
246 / 285
第六章 お飾りの王太子妃、未知の地へ

252 プライド

しおりを挟む





 食事が終わると私たちはそのまま食堂で今後のことを話し合った。

「図書館の地下に研究室?」

 私はジーニアスたちから話を聞いていた。
 そして私の問いかけにはジーニアスが答えてくれた。

「はい。詳しい資料などは処分されたのか、ほとんど残されていなかったのですが……ダラパイス国の噴水に描かれた植物の絵や情報の書かれた紙が数枚見つかりました……」

 え? あの噴水の絵が?

 私は、なぜかとても気になってしまった。

「私もその場所に行きたいです……」

 正直に声を上げると、フィルガルド殿下が慌てて声を上げた。

「危険です!! ジーニアスとヒューゴ殿は水賊に襲われたのでしょう? 何があるかわかりません。船の留守を守るのも大切な役目です。調査は別の者に任せて私と共にの船に残りましょう」

 私はそう言われてがっかりと肩を落とした。
 王族が外に出るというのはかなり危険だというのはわかっている。
 だが……それでも気になってしまったのだ。

 フィルガルド殿下が心配してくれるのは嬉しいでも……気になる……

「ですが……どうしても気になって……」

 どうしてもあきらめきれない私と、フィルガルド殿下の不許可の声。
 誰も何も言えない空気が流れた。
 重苦しい空気の中意外にも、ロウエル殿が声を上げた。

「彼女が気になると言っているのです。行かせるべきでは?」

「な、ロウエル殿……何を……」

 驚くフィルガルド殿下に向かってロウエル殿が口を開いた。

「危険だというが、船にいることが安全だと言い切れないのは昨日の一件で身に染みたはずです。それに彼女のこれまでの功績を考えれば、彼女が気になるというのなら彼女自身が自分の手で調べる価値は十分にある。フィルガルド殿下、周りをよく見ろ。彼女を守る者たちの顔を……何も戦場に送り出すわけではない……彼らを信じ、そして……彼女の可能性を信じてみなさい」

 ロウエル殿の声でフィルガルド殿下が周りを見渡した。

・元ハイマ最強で、諸外国からも死神だと恐れられているガルド。
・最強だと言われたガルドから教えを受けたブラッド
・そして現役副団長、実質ハイマの騎士団のトップのラウル
・現役副団長と互角に渡り合えるクローディアの側近アドラー
・イドレ国の刺客の攻撃を鉄扇一つで防いでみせた侍女リリア
・元スカーピリナ国諜報員で暗器を得意とするアリス
・そして鬼神と呼ばれたスカーピリナ国の軍総司令官レオン
・レオンの右腕と言われる参謀レイヴィン
・イドレ国の凄腕刺客と互角に渡り合い退けた王太子側近レガード

 皆がフィルガルド殿下を真剣な顔で見つめていた。
 そしてブラッドがゆっくりと口を開いた。

「彼女のことは――必ず守ると約束しよう」

 するとその場にいる全員が頷いた。
 そして再びロウエル殿がフィルガルド殿下を見ながら言った。

「本来なら、長らく円卓の座についていた私たちあなたに信頼を伝えるはずだった……それを伝えることが出来なかったことを心から詫びるしかありません。ですが、まだ遅くはない……フィルガルド殿下。どうかあなたの治世が良きものにあることを願い、この者たちを信じてみて下さい。あなたのような方を信を知らぬ王になどするわけにはいかない。どうか……」

 そしてロウエル殿が深々と頭を下げた。
 フィルガルド殿下は呆然としながらロウエル殿を見ていた。

 そしてフィルガルド殿下は、凛々しい顔になりロウエル殿に向かって言った。

「ロウエル殿……助言、感謝する」

 そして、今度は私を見ながら言った。

「クローディア、私はこの船の留守を守ります。図書館の地下の捜索をお願いできますか?」

 私は真っすぐにフィルガルド殿下を見ながら言った。

「かしこまりました」

 そして、ブラッドを見据えながら言った。

「ブラッド、彼女を守るための布陣を……」

「御意」

 ブラッドはすぐに頭を下げたのだった。

 こうして、私たちは図書館に捜索にいくために作戦を立てることにしたのだった。






「クローディア、全員が中に入れば何かあった時に対応できない。俺たちが周辺の賊の討伐と、外の見張りをしよう」

 レオンが声を上げた。

「皆様、姉も同行してもいいでしょうか? 見張りの私も船からいなくなりますし……水賊相手なら邪魔にはならないと思います」

 レイヴィンの言葉に、ブラッドは少し考えた後にレオンを見た。レオンは「何かあったら責任は俺が取る」と言ったので、ブラッドは「いいだろう」と答えた。

「あの辺りは賊が多いでしょからね。スカーピリナ兵も同行させましょう」

 レイヴィンがさらに声を上げた。

「ブラッド様、私も外の見回りでもよろしいでしょうか?」

 ガルドの提案に、ブラッドは「ああ」と頷いた。

「では、クローディア殿と共に図書館内部に潜入する者は、私とラウル、アドラー、リリア嬢、アリス嬢、ジーニアス、ヒューゴ」

 ブラッドに名前を呼ばれたラウルたちは力強く頷いた。
 
「図書館の周辺、及び外の見張りはレオン、レイヴィン、ヒルマ殿、ガルド、スカーピリナ兵」

 レオンたちも静かに頷いた。
 すると今度はフィルガルド殿下が口を開いた。

「では、船には私と、ロウエル殿と、レガード、ハイマ騎士団が残ろう。それでは各自準備を!!」

「はっ!!」

 各自が準備のために席を離れると、レオンがレイヴィンを連れてロウエル殿に近づいた。

「あなたのような方がいて……クローディアたちの結婚を止めることが出来なかったのか?」

 レイヴィンが通訳をしようとすると、ロウエル殿がスカーピリナ国の言葉で答えた。

「円卓の場に座していた頃の私は、自分の守るべきもの、山積する問題に日々忙殺され……大局が見えなくなっていた」

 レオンは切なそうに言った。

「……そうか、どの国も……同じか……」

「耳が痛いな……」

「責めたわけじゃない……誤解しないでくれ。ただ……知りたかった、それだけだ。だが、自分であやまちを認め、自国の王太子に提言するのはさすがだ」

「過去は消せない。しかし、これからは少しでも殿下と妃殿下のために尽力したい。それが私の公爵だったという誇りプライドだ」

「そうか……誇りプライドか……」

 そして、食堂の外に歩いて行った。
 私がそんなレオンを見つめていると、フィルガルド殿下に名前を呼ばれた。

「クローディア!!」

 私が「はい」と言ってフィルガルド殿下の方を見ると、フィルガルド殿下が近くまで来ていた。
 そして心配そうな顔で「抱きしめてもいいですか?」と聞いた。

 抱きしめてもいいか?
 まさかそんなことを聞かれると思っていなくて、驚きながらも頷くとフィルガルド殿下に抱きしめられた。

「いってらっっしゃい、クローディア。どうか無事で」

「はい……いってきます」


 こうして私は、船を出たのだった。






――――――――――――――――






次回更新は10月26日(土)です☆





しおりを挟む
感想 809

あなたにおすすめの小説

【短編】復讐すればいいのに〜婚約破棄のその後のお話〜

真辺わ人
恋愛
平民の女性との間に真実の愛を見つけた王太子は、公爵令嬢に婚約破棄を告げる。 しかし、公爵家と国王の不興を買い、彼は廃太子とされてしまった。 これはその後の彼(元王太子)と彼女(平民少女)のお話です。 数年後に彼女が語る真実とは……? 前中後編の三部構成です。 ❇︎ざまぁはありません。 ❇︎設定は緩いですので、頭のネジを緩めながらお読みください。

婚約を破棄したら

豆狸
恋愛
「ロセッティ伯爵令嬢アリーチェ、僕は君との婚約を破棄する」 婚約者のエルネスト様、モレッティ公爵令息に言われた途端、前世の記憶が蘇りました。 両目から涙が溢れて止まりません。 なろう様でも公開中です。

【完結】家族にサヨナラ。皆様ゴキゲンヨウ。

くま
恋愛
「すまない、アデライトを愛してしまった」 「ソフィア、私の事許してくれるわよね?」 いきなり婚約破棄をする婚約者と、それが当たり前だと言い張る姉。そしてその事を家族は姉達を責めない。 「病弱なアデライトに譲ってあげなさい」と…… 私は昔から家族からは二番目扱いをされていた。いや、二番目どころでもなかった。私だって、兄や姉、妹達のように愛されたかった……だけど、いつも優先されるのは他のキョウダイばかり……我慢ばかりの毎日。 「マカロン家の長男であり次期当主のジェイコブをきちんと、敬い立てなさい」 「はい、お父様、お母様」 「長女のアデライトは体が弱いのですよ。ソフィア、貴女がきちんと長女の代わりに動くのですよ」 「……はい」 「妹のアメリーはまだ幼い。お前は我慢しなさい。下の子を面倒見るのは当然なのだから」 「はい、わかりました」 パーティー、私の誕生日、どれも私だけのなんてなかった。親はいつも私以外のキョウダイばかり、 兄も姉や妹ばかり構ってばかり。姉は病弱だからと言い私に八つ当たりするばかり。妹は我儘放題。 誰も私の言葉を聞いてくれない。 誰も私を見てくれない。 そして婚約者だったオスカー様もその一人だ。病弱な姉を守ってあげたいと婚約破棄してすぐに姉と婚約をした。家族は姉を祝福していた。私に一言も…慰めもせず。 ある日、熱にうなされ誰もお見舞いにきてくれなかった時、前世を思い出す。前世の私は家族と仲良くもしており、色々と明るい性格の持ち主さん。 「……なんか、馬鹿みたいだわ!」 もう、我慢もやめよう!家族の前で良い子になるのはもうやめる! ふるゆわ設定です。 ※家族という呪縛から解き放たれ自分自身を見つめ、好きな事を見つけだすソフィアを応援して下さい! ※ざまあ話とか読むのは好きだけど書くとなると難しいので…読者様が望むような結末に納得いかないかもしれません。🙇‍♀️でも頑張るます。それでもよければ、どうぞ! 追加文 番外編も現在進行中です。こちらはまた別な主人公です。

【 完結 】「平民上がりの庶子」と言っただなんて誰が言ったんですか?悪い冗談はやめて下さい!

しずもり
恋愛
 ここはチェン王国の貴族子息子女が通う王立学園の食堂だ。確かにこの時期は夜会や学園行事など無い。でもだからってこの国の第二王子が側近候補たちと男爵令嬢を右腕にぶら下げていきなり婚約破棄を宣言しちゃいますか。そうですか。 お昼休憩って案外と短いのですけど、私、まだお昼食べていませんのよ?  突然、婚約破棄を宣言されたのはチェン王国第二王子ヴィンセントの婚約者マリア・べルージュ公爵令嬢だ。彼女はいつも一緒に行動をしているカミラ・ワトソン伯爵令嬢、グレイシー・テネート子爵令嬢、エリザベス・トルーヤ伯爵令嬢たちと昼食を取る為食堂の席に座った所だった。 そこへ現れたのが側近候補と男爵令嬢を連れた第二王子ヴィンセントでマリアを見つけるなり書類のような物をテーブルに叩きつけたのだった。 よくある婚約破棄モノになりますが「ざまぁ」は微ざまぁ程度です。 *なんちゃって異世界モノの緩い設定です。 *登場人物の言葉遣い等(特に心の中での言葉)は現代風になっている事が多いです。 *ざまぁ、は微ざまぁ、になるかなぁ?ぐらいの要素しかありません。

婚約破棄にも寝過ごした

シアノ
恋愛
 悪役令嬢なんて面倒くさい。  とにかくひたすら寝ていたい。  三度の飯より睡眠が好きな私、エルミーヌ・バタンテールはある朝不意に、この世界が前世にあったドキラブ夢なんちゃらという乙女ゲームによく似ているなーと気が付いたのだった。  そして私は、悪役令嬢と呼ばれるライバルポジションで、最終的に断罪されて塔に幽閉されて一生を送ることになるらしい。  それって──最高じゃない?  ひたすら寝て過ごすためなら努力も惜しまない!まずは寝るけど!おやすみなさい! 10/25 続きました。3はライオール視点、4はエルミーヌ視点です。 これで完結となります。ありがとうございました!

いくら何でも、遅過ぎません?

碧水 遥
恋愛
「本当にキミと結婚してもいいのか、よく考えたいんだ」  ある日突然、婚約者はそう仰いました。  ……え?あと3ヶ月で結婚式ですけど⁉︎もう諸々の手配も終わってるんですけど⁉︎  何故、今になってーっ!!  わたくしたち、6歳の頃から9年間、婚約してましたよね⁉︎

隣国へ留学中だった婚約者が真実の愛の君を連れて帰ってきました

れもん・檸檬・レモン?
恋愛
隣国へ留学中だった王太子殿下が帰ってきた 留学中に出会った『真実の愛』で結ばれた恋人を連れて なんでも隣国の王太子に婚約破棄された可哀想な公爵令嬢なんだそうだ

公爵令嬢の白銀の指輪

夜桜
恋愛
 公爵令嬢エリザは幸せな日々を送っていたはずだった。  婚約者の伯爵ヘイズは婚約指輪をエリザに渡した。けれど、その指輪には猛毒が塗布されていたのだ。  違和感を感じたエリザ。  彼女には貴金属の目利きスキルがあった。  直ちに猛毒のことを訴えると、伯爵は全てを失うことになった。しかし、これは始まりに過ぎなかった……。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。