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第六章 お飾りの王太子妃、未知の地へ

237 防衛戦線(1)

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「左舷――後方に弓兵、前方に数十名の賊、中央に……十数名の賊を確認!!」

 見張りの兵が通信管から一斉に情報を流した。

「左舷後方に弓兵!? もしかしたら、火計かもしれないわ!!」

 私は弓兵と聞いてすぐにシーズルでの火計を思いついた。
 フィルガルド殿下が頷きながら言った。

「ああ、消火の準備をしよう。この船には多くの者の想いが詰まっているのだ」

 私はフィルガルド殿下の言葉に、はっと足を止めた。

「……想いが詰まっている?」

 そして私は船を見上げた。

 この船には白くて大きなマストが3本かかっている。
 本来なら接岸したらマストは閉じるが、まだ中央のマストは閉じていない。
 なぜなら、何かあった時に船で沖合に逃げることが出来るようにと町の様子を確認するまでは閉じないと決めていたのだ。



 私は白いマストを見て、ここ数日、イドレ国のことを学んだ時に気になる一文を見つけたことを思い出した。
 旧ザウル国では、『空にかかる鮮やかな橋』を信仰していたとの記述があった。

 それって……もしかして……

「クローディア様、恐らくここまでは到達しないとは思いますが、矢に備えるためにも中央に移動を!!」

 私の今日の護衛騎士のロニが真剣な顔で言った。
 私はロニに急いで尋ねた。

「ロニ、あの位置から矢射かけた場合どこまで飛ぶかしら?」

 ロニは眉を寄せると、甲板から1メートルほど下を差した。

「そうですね……結構距離がありますので……あのロープの切れ目あたりでしょうか?」
「範囲は?」
「おそらく、後ろのマストの手前までくらいかと……連中は船の側面に火を射かけるつもりだと思います。矢では船に大きな損傷を与えることはできませんが、火は違います。全力で消火に当たります」
「全力で消火か……」

 私は近くにある物を見てロニに言った。

「ロニ、この管を最後尾の簡易見張り場に柱にらせん状に巻きつけて!!」
「え? はい!!」

 簡易見張り場とは何かあった時に人が一人か、二人だけ立って後方を確認できる場所だ。
 私はロニに頼むと、管の端を持って後方のマストのすぐ近くに置いてある雨水を貯めた樽の場所まで行った。
 この位置からじゃ、少しだけ管が届かない!!

 三メートルほど移動させたいと思っていると、フィルガルド殿下とロウエル元公爵が走って来た。

「クローディア、何をするのです?」
「どうしたのだ?」

 焦って近づいてきたフィルガルド殿下とロウエル元公爵を見て私は二人に頼んだ。

「この樽をメートルほど、今、ロニが管を巻き付けている管の先に届くように動かしたいたのです」

 するとロウエル元公爵が口を開いた。

「よくわからないが、任せておけ」

 ロウエル元公爵は意外にも樽をすんなりと抱えて移動させてくれた。

「ありがとうございます!!」

 私がお礼を言うと、フィルガルド殿下が「私も移動させよう」と言って樽を移動させてくれた。

「これでいいわ」

 ロニを見上げると、ロニが「巻き終わりました~~」と声を上げた。

「ロニ~~ありがとう」

 そう言うと、次に着岸用のロープを入れる容器の私の身体ほどある円盤状のフタを持ってきた。
 そして管の場所を確認して木箱を運ぼうとした。

「今度は何をしているんだ? それを運びたいのか?」

 フィルガルド殿下が駆け寄ってきたので、私は「ええ」というと、フィルガルド殿下は一気に木箱を一気に4つも運んでくれた。

「では、これを船の手すりと木箱の上に乗せて下さい」

 私が大きなフタを渡すと、フィルガルド殿下が「ああ」と言って受け取って木箱と手すりの上に乗せてくれた。
 木箱の方が少し高いので、少しだけ海側に飛び出す形で飛ぼ出していた。
 見張りの兵の一人が、「殿下はお下がり下さい。ここは私が」と言ってフィルガルド殿下と円盤を支える役を代わってくれた。

 そして甲板から下を見ると、アドラーとリリアはすでに弓兵の元に向かったのかいなかった。
 私は丁度円盤の真下にいた兵に声をかけた。

「そこ危ないから少し中央に寄って~~」

 すると兵が「はい」と言って円盤の下からずれてくれた。

 これで大丈夫だ。

 私は目を細めて外を見た後に、雨水の入った樽の近くに戻り、指で先を押さえながら水の中に入れて手を離した。

「水が上に昇って行く」

 フィルガルド殿下が呟くように言った。

「ロニ、水が出るわ!!」

 私は水が上がっていくのを確認したら、ロニに向かって言った。

「ロニ!! 円盤の海側の端に管から出た水を当てて!!」
「え? はい!!」

 水が上がり、ロニが円盤の上に水を放った。
 
「なんだこれは!!」

 すると広範囲に水が滝のようの広がった。
 ホースの先を摘まむと水が広範囲に広がる仕組みを円盤で再現したのだ。
 これで恐らく火計には対応できるはずだ。


 私が広範囲に滝を出現させるとほとんど同時に見張り台からの声が通信管に響いた。

「左舷後方、火の矢が飛んできます!! 消火の準備!!」

 見張り兵が声を上げるとすぐに火の矢が飛んで来たが、先ほどの滝が火を消していった。
 矢は数本打ち込まれてしまったが、ケガはないし滝のおかげで火は消えている。
 さらにこの効果はこれだけではなかった。

「なんだ、矢が止まったぞ……」

 ロウエル元公爵が眉を寄せながら言った。

「そうか、虹か……まさか……旧国の信仰を……」

 フィルガルド殿下がまたしても唖然と呟くように言った。

 そう、フィルガルド殿下が言う通り、左舷後方には大きな滝の出現によって、虹が出来ていたのだ。

「よし、次ね」



 今度は中央に移動すると、ポケットに入れていたサフィールに貰った三角のガラスの入れ物からアメを取り出して口に中に入れた。すると、口の中に甘さが広がった。

 あと一つあるわ……

 するとすぐにフィルガルド殿下が走って来た。
 私はフィルガルド殿下に「アメ、貰ってくれませんか?」と聞くと、フィルガルド殿下は困惑したように「あ、ああ」と言ったので、フィルガルド殿下にアメを摘まんで差し出した。
 すると殿下は迷わずに、私の手に持っていたアメを口の中に入れた。

 しまった、容器ごと渡せばよかった!!

 指にフィルガルド殿下の口が触れて、反省したが今はそれどころではない。
 私は中が空っぽになったアメの容器を持って数歩後ろに下がってマストを見上げた。

「この辺りかしら?」

 私は角度を決めると木箱を運ぼうとした。

「今度は何をするのですか?」

 フィルガルド殿下が木箱を持ってくれた。

「ここに置いて下さい。何をするかは……見ていて下さい」

 そして私はガラスの入れ物を木箱に置くと、これまた持っていた手鏡に光を集めて、ガラスの入れ物に光を当てた。

「またしても……虹……?」

 するとマスト一面に大きな虹が浮かびあがった。
 マストをスクリーンにしてプリズム効果を利用して虹を映し出しているが、この角度がつらく手がプルプルと震え出した。
 すると背中に体温を感じたと思うと、手が楽になった。
 そして気が付くとフィルガルド殿下が私を抱き込むように手を支えてくれていた。

「手を貸します」

 フィルガルド殿下の心臓の音が聞こえる。
 緊張しながらも光を当て続けていると、フィルガルド殿下が耳元で囁いた。

「声が止まった……? クローディア、辺りが静かになったようですよ」

 声が響いて心臓が早くなった時、見張り台から通信管に声が響いた。

「賊が動きを止めました!! 後方、捕縛完了の合図確認!! 前方、捕縛完了の合図確認……そして中央も捕縛完了の合図確認!! ブラッド様からの合図が出ました!!」

 私は肩から力を抜くと「よかったぁ~~」と呟いたのだった。





――――――――――――――――





次回更新は9月21日(土)です☆






次回は数回戦闘シーンとなります。
残忍表現は一切ないですが、戦闘シーンが苦手な方はお控え下さい。
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みんなの感想(696件)

みなわなみ
2024.09.19 みなわなみ

クローディア様、かっけー

たぬきち25番
2024.09.19 たぬきち25番

みなわなみ様

かっけーですか!!
嬉しいです。
感想ありがとうございます。
( ᴗ̤ .̮ ᴗ̤人)
今後ともよろしくお願いいたします!!

解除
zoozoo2929
2024.09.19 zoozoo2929

本 予約しましたー
届くの楽しみです

たぬきち25番
2024.09.19 たぬきち25番

zoozoo2929様

教えて頂いてありがとうございます!
また、ご予約ありがとうございます~~~!!
(>᎑<`๑)♡
帰りに本屋さんに寄って予約しようと思います♪♪

解除
風張さん
2024.09.18 風張さん

1話から数日掛けて一気に最新話まで読破してしまいました。
面白いです。
続きが気になります。
楽しみにしています。

たぬきち25番
2024.09.18 たぬきち25番

風張さん様

1話から読破!!
ありがとうございます!!
大変有難いです。
また、楽しみにしているとのお言葉も嬉しいです。
今後ともよろしくお願いいたします☆

解除

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