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第五章 チームお飾りの王太子妃集結、因縁の地にて

223 お披露目式(3)

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 裏の山の不審な広場という言葉の意味がわからずに混乱していると、ノアールが説明してくれた。

「庭師の話では、『城のエントランス前の花壇ほどの土地をまっさらに整備し、周りの木々の枝を切り落とすように』と指示を受けたとのこと」

 私は、この城に入った時に目にした花壇を思い出した。
 大体店舗型のコンビニエンスストアほどの広さの花壇だったように記憶している。
 そして、周りの木の枝を切り落とす?

 あれ?
 そういば、私、最近それに近いことしたよね?

 ある程度広い何もない土地を探して……周りの枝を剪定して……。

「……もしかして、気球のため?」

 小さな声で呟くとブラッドが私の耳に口を寄せながら言った。

「恐らくな。裏の山というと……どうやらレオン救出の際に、レイヴィンたちが見つけたようだな」

 ブラッドの言葉に私は頷いた。
 成り行きを見守っていると、レオンが声を上げた。

「陛下、それに伴い我々は執事や侍女に話を聞き、非常に恐ろしい証言を入手いたしました」

 そしてレオンがジーニアスとリリアを見ながら言った。

「証人団、前へ」
「はっ」

 ジーニアス、リリア、アリス、ディノの誘導で多くの侍女や執事、そして貴族が前に出て来た。

 うわ~~アリス……こんな短期間に証人団を作れるくらい人を集めたんだ……

 私がアリスの凄さを実感していると、アリスと目が合った。
 アリスは私に小さく頭を下げた。
 やはりアリスも優秀だった。

 証人団が陛下の前に並ぶと、レオンが声を上げた。

「順番に発言を」

 レオンの号令で侍女数人、執事数名が震えながら声を上げた。

「何度か、不審な女性をゼノビア様の待つお部屋にご案内したことがございます」
「空飛ぶ大きな球体が裏の山に下りるのを見ましたが、誰にも言わないようにと厳命されておりました」
「球体から現れた者たちをゼノビア様の命で迎えに行き、案内したことがあります」
「私は、不審な男性2組をゼノビア様の元へ案内いたしました」

 次々に証言が溢れて、ゼノビアと公卿第一位ゼノビアの父はすでに顔色をなくていた。
 そして、最後の侍女がとんでもないことを言い放った。

「ゼノビア様からの命で、ルーカス殿下に栄養剤だという甘い香りの液体を就寝前に飲ませるようにと命を受けました」

 あれ? ちょっと待って?
 甘い香りの液体を王族に飲ませるって……聞いたことあるよね?
 ベルンのアンドリュー殿下は元婚約者に。
 そして、今回、スカーピリナ国ではルーカス陛下にゼノビアが。

 私が眉を寄せていると、ガタンとイスの倒れる音がしてアンドリュー殿下が声を上げた。

「甘い香りの液体だって!? いつからだ?」

 アンドリュー殿下のあまりの剣幕に侍女は恐る恐る答えた。

「レオン閣下が、スカーピリナ国を発たれてしばらくすぐです」

 アンドリュー殿下がそれを聞いて大声を上げた。

「ルーカス陛下、体調はいかがですか? 大体服用して半月で身体が重く疲れやすく感じた」

 ルーカス陛下が怒りと混乱が混じった顔でゼノビアを見た。

「どういうことだ? ゼノビア……私に毒を盛ったのか?」

 ゼノビアは髪を振り乱しながら否定した。

「毒だなんて、あれは媚薬だと聞きました。私はルーカス陛下との間に御子を授かる必要がありますので」
「……媚薬だと?」

 ルーカス陛下の言葉に重なるように、アンドリュー殿下が立ったまま眉を寄せて「媚薬……?」と呟いた。
 私も唖然としながらゼノビアの言葉を聞いていた。

 媚薬は、ラノベでクローディアがフィルガルド殿下に使った。
 どうやって入手したかのかなど、ラノベには詳しい経緯は書かれていなかったが……。

 もしかして……ラノベのクローディアはイドレ国の人間と通じていた?
 私は隣に座るブラッドを見た。
 もしも、クローディアがイドレ国と通じていて媚薬を手に入れたとして、ハイマの番人と呼ばれるブラッドにバレずに済むなどということが有り得るだろうか?
 
 そう考えて私は、新たな可能性を感じた。

 ――ブラッドはもしかして、イドレ国の人間と私を接触させないように指導係になったの?
 ラノベのクローディアは、ブラッドと共にいることを拒否した?
 
 よく考えてみれば、私は王妃になる前から常に護衛騎士が付いていた。
 しかも結婚してからは、部屋とブラッドの執務室の往復以外は、常にガルドが、そしてアドラーが側近になってからはアドラーが付いてくれている。
 この二人を目を盗んでイドレ国の人間が私に接触するタイミングなどはない。

 一度だけ、ガルドもアドラーも側に居ない時……ブラッドと共にロウエル公爵の汚職の証拠をつかむために潜入した夜会で一人になって襲われた。あの時はリリアが鉄扇で撃退してくれた。
 リリアが相手をした彼女はイドレ国の者だった。
 そうだとしたら、彼女の目的は私との接触……。

 そんなことを考えているとゼノビアが大きな声を上げた。

「お世継ぎを確実に授かるために、媚薬を使う必要があると思いました。数ヶ月服用することでゆっくりと効果が表れるというので……」

 は?
 私は再び首を傾けた。
 媚薬って即刻性があるのではないのだろうか?
 ゆっくりと効果の現れる媚薬?

 ――それって、本当に媚薬なの?

 ゼノビアの話では媚薬の効果などないように思えた。

「あれは媚薬ではありませんよ……」

 アンドリュー殿下も苦しそうに言った。
 うん、そうだよね。アンドリュー殿下はゆっくりと元婚約者に甘い香りのする液体を毎晩飲まされ、身体をむしばまれていった。
 媚薬なんかじゃなかった。

 あれ?
 待って?
 でもラノベのクローディアは、フィルガルド殿下に対して媚薬を使って……上手くいってたよね?
 どういこと?
 ラノベの媚薬はルーカス陛下とアンドリュー殿下の服用した媚薬とは違うもの??

 それとも……。
 媚薬とは関係なく、フィルガルド殿下はクローディアを受け入れた?
 いや、そんなはずはない。
 媚薬のせいで、フィルガルド殿下はクローディアと関係を持ったはずだ。
 そう考えて私は、結婚式の後に部屋に来たフィルガルド殿下や、イドレ国行きが決まった時のフィルガルド殿下を思い出した。

 ラノベは全てで書かれていた。
 エリスが彼女の視点で、フィルガルド殿下がつらそうだと思い、クローディアと関係を持ったのは媚薬で仕方がなかったのだと納得したのだとしたら?

 もしも、ラノベの中でクローディアを受け入れたのがフィルガルド殿下の意思だったとしたら?
 ラノベでもフィルガルド殿下はクローディアにスカーピリナ国に行かせたくないと思い私にしたことと同じようなことをしたのだとしたら?

 私はずっとラノベが正しいと思っていた。
 ラノベにそう書いてあるのだからそうだ、と単純に思い込んでいた。
 でも、あのラノベは殿の話ではなく、あくまでの話だ。

 じゃあ、本当のフィルガルド殿下はどう思っていたのだろうか?
 そういえば、私はフィルガルド殿下と正面から話をしたことなど……ない――

 ――私……これまでラノベを通してしか彼のことを見ていなかった?

 そんな疑問を持った時だった。
 レオンが大きな声を上げた。

「陛下。ゼノビア殿、また公卿第一位であるゼノビア殿の生家、並びにその関係者に軍部による審議を要求いたします」
 
 ルーカスはレオンや、証人団を見ながら言った。

「皆の要求を受け入れる」
「軍による審議ではなく、議会での審議を!!」

 ゼノビアの父が声高らかに叫んでいた。
 ルーカス陛下は、眉を寄せゼノビアの父を見ながら言った。

「議会も一度軍に調べさせる。発言は審議の場で存分にされよ」

 その瞬間、広間の前の方にいた貴族の一部がざわついた。
 もしかしたら、これはとんでもない事態なのではないだろうか?
 着飾った人々の中には青い顔をしたり、震えている者もいる。
 ルーカス陛下はノアールを見た。

「ノアール。この者たちの拘束を。近衛兵は一度、私の預かりとし全ての幹部を解任する」

 近衛兵の幹部まで解任するというかなり大掛かりな処断だ。
 私の背中に冷や汗が流れた。

「あなたはこの国でも……貴族の腐敗を是正するのだな……」

 ブラッドがゼノビアたちを見ながら呟いた。
 すぐにブラッドを見たかったが、広間から大きな声がして私はそちらに意識を向けた。

「私は陛下を愛しております!! 全ては、陛下のために!! 陛下のことだけを考えて動いていたのです!!」

 ゼノビアは兵に捕えながらも大きな声で叫んでいた。

 スカーピリナ国の『愛する』とは唯一のという意味がある。
 愛するとは何だろうか?
 もし本当にルーカス陛下を愛していたのなら、彼の決定した人事を自分本位に荒らし、弟を殺そうとするものなのだろうか?
 まるで、『愛する』という言葉が自分の我儘を正当化する盾のように使われている気がする。

 ああ、そうか――彼女が愛していたのは、なのかもしれない。
 
 ルーカス陛下は無表情のまま何も言わなかった。
 
「陛下、誤解です!! 陛下~~ルーカス様ぁ~~!!」

 ルーカスは低い声で言った。

「連れて行け」
「ルーカス様、話を聞いて!! ルーカス様~~~~!!」
 
 広間にはゼノビアの悲痛な叫び声だけが響いていたのだった。











――――――――――――――――





次回更新は8月6日(火)です♪





今月の
☆キャラクタープロフィール☆

名前:リリア・ルラック
爵位:子爵
年齢:19歳
所属:宮廷上級侍女
家族:父・母・兄・兄(アドラー)
趣味:武器鑑賞
イメージ植物:グラジオラス
花言葉:勝利(剣)
誕生日:8月17日

9月はアドラーの予定です♪




 




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