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第五章 チームお飾りの王太子妃集結、因縁の地にて
215 多国籍チームミッションスタート!(3)
しおりを挟む「クローディア様、お仕度できました。本当によくお似合いですわ」
私はリリアに手伝ってもらい、お披露目式の準備を終えた。
「ありがとう、リリア。……アドラーへの連絡お願いできる?」
「はい。では、兄に伝えて参ります」
「ええ」
鏡の中の私はまるでおとぎ話に出て来るお姫様のように美しく飾られている。胸元には、結婚式につけていた豪華なネックレスが光っていた。
もっとシンプルなものでもよかったのだが、兄が『これが我が家にある最高の物だ』とこれを渡してくれた。
私は元々、スカーピリナ国王のお披露目式に出る時の衣装は全て自分で用意しようと決めていた。
理由は――有事に際に全て売却できるように……。
ハイマの王太子妃として用意された衣装は全て、ハイマ国の王家のものだ。つまり、ゆくゆくはエリスのものになるのだ。
だから国内の行事なら仕方なく王家に保管されている宝石や、ドレスを身に着けたが、私は旅に出る時は全面的にイゼレル侯爵家、つまり実家に全ての持ち物を依頼した。
王宮から持ってきたものも全て私がイゼレル侯爵にいたときに使っていた私物だ。
私はこの旅に出る時、ハイマにはもう戻らない可能性もあることを覚悟して荷造りをした。
いくらブラッドが守ると、危険な目になど合わせないと言ったところで、何が起こるのかわからない。
私は鏡を見ながら呟いた。
「確かに……似合っているわ」
そう――私はこの衣装を選ぶ時、『死装束』を選ぶようにドレスを手に取った。
何かあった時に路銀にもなるし……自分を着飾ってパーティーに出るのは、最後かもしれない。
だからこそ、自分に彩る最高のものを用意しよう、と思った。
だが、それも過去の話だ。
みんな私を一番に考えて守ってくれる。今では、旅に出る前の不安など消し飛んでいる。だからこの姿は完全に私の好みだ。
以前のクローディアが選んでいたドレスは、フィルガルド殿下の気を引くための豪華絢爛な衣装。
そしてハイマで着ていたドレスは王族としての理想を体現する衣装……。
今のドレスは……私が最期になるかもしれないと覚悟して選んだドレス。
本当に貴族令嬢のドレスというのは……背負っているものが重くて大変だ。
「失礼いたします」
リリアの声がして、扉が開くとリリアと、アドラーだけではなく、ブラッドが部屋に入って来た。
「ブラッド?! どうしたの?」
まさかブラッドが来るとは思わなかったので、私は驚いてしまった。
ブラッドは、ゆっくりと私の前まで歩いてくると、私の顔を真っすぐに見て言った。
「……今日は随分と……美しいな」
いつもドレス姿なんて褒めないくせに!!
結婚式だって、夜会だって……褒めなかったくせに……!!
円卓会議の時も私に言われて褒めたくせに!!
どうして……私が自分で、最期を覚悟して選んだこの姿を……褒めるの?
そしてブラッドは私の手を取って、小さく微笑みながら言った。
「よく、似合っている」
私は思わず、奥歯を噛み締めると、ブラッドの手をぎゅっと握った。
「クローディア殿?」
私の様子がおかしいことに気付いたのか、ブラッドが私の顔を見て心配そうに尋ねた。私はブラッドを睨みつけながら言った。
「この姿を褒められるのは……凄く……嬉しいわ。ありがとう」
ブラッドは驚いた顔をした後に、困ったように笑いながら言った。
「あなたは私に、表情と言葉が合っていないと言うが……人のことは言えないと思うぞ?」
確かにそうだ。
でも……。
「仕方ないでしょう? こうでもして表情を保たないと……気持ちが溢れて……嬉しくて泣いてしまいそうになるんだから……折角リリアがキレイにしてくれたのに、化粧が落ちちゃうじゃない」
私の言葉を聞いたブラッドが、少しだけ口角を上げながら言った。
「では、私の感情も理解できたはずだ」
「……え?」
私がブラッドを見つめるとブラッドが困ったように言った。
ブラッドが今の私と同じ?
つまり……感情が溢れるを止めてるってこと?
「そろそろ時間ではないのか?」
ブラッドに言われて時計を見ると、確かにそろそろ時間だ。
「じゃあ、行ってくるわ」
「ああ」
私は部屋から出て、廊下でブラッドにあいさつをすると、アドラーが私に手を差し出してくれた。私はその手を取ると、リリアと共に歩き出した。
少し歩くと、アドラーが少しだけ顔を私に向けながら言った。
「今日のクローディア様は、いつもと様子が違いますね。いつもよりとても輝いていて本当にお美しいです。よく似合っている。本当にその言葉い尽きます」
私は、アドラーを見上げて口角を上げた。
「ありがとう、この姿を褒められるのは、とても嬉しいわ。だってこれ……」
そこまで言って言葉に詰まった。
どう伝えたらいいのか言葉にできない。
戸惑う私にリリアがそっと手に触れながら言った。
「このお衣装は……クローディア様の覚悟の詰まったドレスなのでしょう?」
私は嬉しくてリリア口角を上げてリリアを見ながら言った。
「さすがね……気づいていたんだ」
リリアが大きく頷いた。
「はい。アリスと二人でクローディアの旅立ちの荷造りをしている時……話をしました」
私が興味深く話を聞いていると、リリアが懐かしむように言った。
「アリスはクローディア様が珍しく全ての衣装を御自分の手をお選びになった時、『クローディア様はここにはもう、戻られないつもりかもしれない』と言っていました」
そこまで言って、リリアは私に視線を戻して言った。
「そしてこのドレスを見た時……『クローディア様は全てを終わらせるつもりなのかもしれない』と……私は慌てて『縁起でもない』と止めましたが……心の中ではアリスと同じことを思っていました」
「そう……気づいていたのに、黙っていてくれて……ありがとう、リリア」
リリアとアリスが私の胸の内を知りながらも、黙って荷造りをしてくれていたことに私は心から感謝した。
そして私は前を向いた。
大丈夫、私には意図を汲み取り、助けてくれる人たちがいてくれる。
胸を張って、背筋を伸ばして堂々と、いざ――女の戦場へ……。
◇
「ようこそ、お待ちしておりましたわ」
私は、ダラパイス国の王太子妃ヴェロニカ様と合流して、ゼノビアの待つ応接間に入った。
応接室にはすでに、お披露目式の支度を終えたゼノビアが優雅に私たちを迎えてくれた。
可愛い~~可憐~~!! え? この女性が女狐!?
ゼノビアは清純そうに見えあどけなく、とても悪女のようには見えない姿だった。むしろ私や、ヴェロニカ様の方が悪役のような出で立ちだった。
『ゼノビアの見た目に騙されて、皆痛めに合うのよ!!』
昨日、ヴェロニカ様の口にした言葉を思い出した。
確かにこの姿を見て、悪女だとは夢にも思わない。むしろ、パーティーで一人で立っていたら、誰かに連れ去られてしまったり、悪い人に騙されてしまうのではないかと、庇護欲をかき立たれる。
とにかく零れ落ちそうな大きな瞳に小さな口に鼻、ふわふわの髪……どれを取っても可愛い!! 可憐だ!!
私が思わずゼノビアに見とれていると、ゼノビアが伏し目がちに言った。
「こんなに素晴らしい方々と一緒にお茶を頂けるなんて、緊張いたしますが大変光栄ですわ」
そして最後に光輝くような笑顔を見せた。
あざとい~~!! でも壮絶に可愛い~~~!!
どうしよう……ゼノビア……可愛い……落ちてしまいそう……!!
私がゼノビアのかわいらしさにクラクラしていると、ヴェロニカ様がこれまた上品で優雅な大人の女性の色気を振りまきながら言った。
「ふふ、今日は無理を言って、夫にお願いしましたの。このような機会は滅多にございませんもの……皆様と有意義な時間を過ごせることを楽しみにしていましたのよ」
うわ~~、うわ~~!!
ヴェロニカ様、優美~~~!! 女神みたい……!! 素敵~~!!
昨日とは別人……とかじゃないよね? 同一人物だよね!?
私は、この場がどんな場なのか忘れそうになったので、心の中で一度冷静になった。
あれ……これって……美の頂上決戦とかいう企画じゃなかったよね?
時間稼ぎのお茶会だったよね?
私たちの役目は、ゼノビアに近衛騎士や彼女の配下などを動かされないように、レオン救出についての情報を一切入れないように彼女と外部の情報を完全に絶つこと。そのためには私はこれから数時間、彼女が外部と接触するのを阻止しなければならない。
そして、大事なことに気付いた。
あれ……もしかして……私もこれを……するの?
私は想像以上に過酷な戦いに巻き込まれてしまったことを今さらながらに気付いたのだった。
――――――――――――――――
次回更新は7月18日(木)です♪
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