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第五章 チームお飾りの王太子妃集結、因縁の地にて

192 死神の刃(1)

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 賊に襲われたと聞いて、私はブラッドに抱き寄せられて静かに息をひそめていた。すると、レオンが外を見ながらつらそうに眉を寄せ呟いた。

「スカーピリナ国に入った途端に……これか……」

 そして、私とブラッドを見ながら眉を寄せて苦悶の表情を見せながら言った。

「悪いな……国境付近の争いに軍を動かしていたからな……こちらがどうやら抑えきれなくなったようだ」

 そしてレオンは自分の座っていた座席の後ろの小窓を開けた。小窓を開けると、御者席に座っていたアドラーが「どうされました?」とレオンに声をかけた。

「おい、側近。俺は賊の様子を見て来る。御者はすぐに呼び戻すので、お前はクローディアの護衛に戻れ」

 そういうとレオンは私に「クローディア、不安にさせてすまないな」と言い、今度はブラッドを見ながら「すぐに片付ける」と言うと馬車を降りた。
 しばらくすると、馬に乗っていたはずのジーニアスと、リリアが馬車に戻り、馬に乗ったアドラーの姿が馬車の窓から見えた。
 馬車に乗り込んで来たジーニアスに、ブラッドが低い声で尋ねた。

「……規模は?」

 恐らくブラッドは今回襲ってきた賊の数を知りたいのだろう。

 ジーニアスは真剣な顔で「定かではありませんが……小隊くらいの規模はあるかと……私の目視で三十近くは確認しました」と答えた。
 ブラッドは「多いな……」と呟いた。
 そんなブラッドに、ジーニアスは言葉を選ぶようにゆっくりと口を開いた。

「数もですが……目的がわかりません。一般的な賊のように略奪行為が目的ではないように思えます」

 ジーニアスの言葉にブラッドが尋ねた。

「なぜそう思う?」

 ジーニアスはさらに言葉を詰まらせた後に、ブラッドをじっと見ながら答えた。

「ガルド殿とレイヴィン殿がそれぞれ応戦していますが……盗賊団の一人が……ガルド殿や、レイヴィン殿をようでした」

 ガルドやレイヴィンを知っている?

 私は思わず眉を寄せた。
 なぜ盗賊団を二人を知っているのか……と一瞬思ったが、よく考えてみるとガルドは、元々盗賊団を壊滅させていたのだし、レイヴィンに至っては元盗賊団だ。二人とも盗賊に知り合いというか、顔見知りが居ても不思議ではない。
 私は納得してどこか力を抜いていたが、ブラッドは緊張した様子で私を抱き寄せる腕に少しだけ力を入れ、静かに口を開いた。

「そうか……」

 そして長い長い沈黙の後、ブラッドは再び口を開いた。

「……今はとにかく、ガルドたちを信じて待つしかないな」

 私たちはその言葉に、大きく頷いたのだった。






 時間は少し遡り、クローディアたちが馬車の中で話をしていた頃。
 ガルドは突然、馬の歩みを止めた。

「どうしたのですか?」

 突然止まったガルドを不思議に思ってラウルが尋ねると、ガルドが遠くを見ながら答えた。

「鳥の鳴き声が止みました。それに先程まで多く見かけていた動物もいません……この先に何かあるのかもしれない」

 ガルドの言葉でラウルが辺りを見回した。そう言われて見るとやけに森が静かだった。

「確かに、これはおかしい……ガルド殿、私は先頭にいる兵に伝え……」

 ラウルがそう言った時、前方で大きな声が聞こえた。

「賊が出たぞ~~~!!」

 ガルドは馬の手綱を取ると、ラウルに向かって声を上げた。

「ラウル殿、私は前方に応援に向かいます。クローディア様をお願いします」

 ラウルはガルドの守護神を体現するかの如く威厳に満ちた横顔に思わず「はい。必ずお守りします」と答えた。ラウルの返事を聞くと、ガルドは先頭の刃音が聞こえる方に向かった。するとすぐにレイヴィンが「副団長殿、陛下とクローディア様をお願いいたします」と声を上げ、レイヴィンの馬がラウルのすぐ側を駆け抜けて行った。
 ラウルは胸騒ぎがして、二人の向かった先を見つめたのだった。




 
 ガルドたちが先頭に到着すると、すでに半分のスカーピリナ国の兵が倒れていた。ハイマの兵も健闘しているがかなり押されていた。
 両軍ともガルドとレイヴィンの姿を見ると「ガルド殿!!」「レイヴィン殿!!」とそれぞれ歓喜の声を上げた。
 ガルドとレイヴィンが剣を抜くと、盗賊団の後ろからこの賊を率いていると思われる男が出て来た。
 男はガルドとレイヴィンを見ると、鋭い目で睨みながら声を上げた。

「ようやくお会い出来ましたね。シュトラール卿。そして……アイロネ卿」

 レイヴィンが男の話を聞いて、目を大きく開けながらガルドを見ながら叫んだ。

「シュト……ラールだと?! まさか……死神……お前が旧ドラン国最強の剣聖シュトラール卿なのか?!」

 ガルドは小さく息を吐くとレイヴィンに向かって言った。

「詳しい話はあとで」

 そして、目の前の盗賊団の男を見ながら言った。

「どなたか存じませんが……引く気がないのでしたら、お相手いたします」

 男はニヤリと笑いながら声を上げた。

「シュトラール卿の腕、見せてもらう。リズ、お前はアイロネ卿のお相手をしろ!!」

 盗賊団の男の言葉に、後ろから十歳くらいに見える少年が男の後ろから馬に乗って現れた。

「は? 俺が相手? まぁ……いいけど……何かあっても、あとで文句言うなよ?」
 
 リズと呼ばれた少年がレイヴィンに槍を向けたことで、戦闘が始まったのだった。







――――――――――――






次回更新は5月21日(火)です♪
 

今回は進行の都合上、本編は短めです。
しかも……
次回戦闘シーン挟みます。

苦手な方は5月23日(木)からお楽しみ下さいませ。





 

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