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第四章 お飾りの王太子妃、郷愁の地にて
153 山深い別荘地へ(2)
しおりを挟むクローディアたちが、ガラマ領に着いた頃。
ガラマ領の隣、リーリア領邸では苛立った様子の貴族男性の姿があった。
「なんだって?! ディアたちが東ルートを選んだだと?! どういうことだ?! 随分と前にスカーピリナ国の国王と王都に向かっていると報告を受けた時は北ルートだったろ?! なぜ、ディアは呪われた地を通るルートを!!」
不機嫌に声を上げる男性に対して、秘書の男性は静かに声を上げた。
「近いからではないですか? それに、前回は陽動だと報告を受けました」
秘書の言葉に、貴族男性は更なる苛立ちを見せた。
「ヒューゴは一体、何を考えているんだ?!」
秘書は特に感情を表すこともなく淡々と答えた。
「ヒューゴ殿は数ヶ月前から、ハイマに派遣されていますし、ガラマ領が呪われた地だと言われ始めたのは最近ですし、単純に知らなかったのでは?」
貴族男性は大袈裟に頭を抱えながら言った。
「知らないだと?! それでもし、ディアにもしものことがあったらどうするのだ?! 火龍の呪いを受けてディアに何かあったら!! ディアに呪いなど!! 想像しただけで胃が痛い!!」
青い顔をしたり、赤い顔をしたり顔色を変えながら、部屋を落ち着きなく動く貴族男性を見て、秘書は男性の次の言葉を想像して、溜息をついた。
「もうすぐ日暮れですよ。しかも、恐らくガラマ領の方面は雨です。雨雲が見えます」
貴族男性は、足を止めると秘書を見ながら大きな声を上げた。
「雨だと?! ディアが濡れてしまうではないか?!」
「いや、馬車に屋根はありますよ……。何言ってるんですか?」
秘書の言葉に、貴族男性は声を上げた。
「大雨なら何があるかわからないだろう? ハイマを出てからもう半月も経っているのだぞ?! もしかしたら、ディアに何かあったのかもしれない」
「そうですね……。ベルン国奪還をされていたようですから、お忙しかったでしょうね~~~ですが、お怪我はなくお元気だとのご報告でしたよ」
貴族男性は鋭い目で秘書を睨みつけながら言った。
「そもそも、それが大問題だ!! 可愛くて可憐で生意気で我儘なディアにベルン奪還など!! スカーピリナ国の国王は何を考えているのだ?!」
「後半、悪口になっていますよ……閣下は普段は冷静なのに、ディア様のことになると本当に残念ですよね……」
貴族男性は、秘書を睨みながら言った。
「気安くディアと呼ぶなと言っているだろ?! ウィルファンも、いつも『ディア』と……まるで自分の妹かのようにふるまい不快極まりない!!」
「実際、クローディア様は、ウィルファン様とヒューゴ様が大好きでしたよね~~『ウル~、お花のお兄ちゃん』と呼ばれて、よく一緒にいらっしゃいましたよね~~。まぁ、その頃閣下は、恥ずかしくて、遠くからクローディア様を睨みつけていたので、怖がられてましたが……そのせいで隣国の王子に横からかすめ取られて……」
貴族男性は、額に青筋を立てながら言った。
「ほう、私にケンカを売るのか?! 言い値以上で買ってやる!! 表に出ろ!!」
「ご冗談を……ケガをしますよ?」
秘書の言葉に貴族男性は、口の端を上げながら言った。
「ほう、誰がケガをするって?」
「私が」
「お前か!!」
秘書は、溜息を付きながら言った。
「それで、どうされるのですか? お迎えに行くのですか? 呪われた地に」
貴族男性は、外套を羽織ると大きな声で答えた。
「当たり前だ!! ディアをあの呪われた地から救い出す!!」
秘書の男性も重い腰を上げると外套に袖を通した。
「御意」
貴族男性と秘書は、リーリア領邸を後にしたのだった。
◆
私が、ガラマ領邸で窓の外を見ていると、突然背中に悪寒を感じて思わず「くしゅん」とくしゃみをしてしまった。リリアが「クローディア様、もう少しあたたかいお召し物を」と言って上着をかけてくれたので、私は「ありがとう」と答えてそれを羽織ったのだった。
その後、みんなで夕食を摂ってゆっくりと休んだのだった。
ベッドに入ってからも、外は大雨で私はブラッドに貰ったアイピローに頼りながら眠りについたのだった。
◆
「クローディア、今日はこの屋敷に留まって、様子を見ようと思う」
朝起きて、朝食に向かうとレオンが口を開いた。外は小雨だったが、また夕方から大雨になるかもしれないとのことだった。今日の移動距離は長いので、無理をせずに雨が上がるのを待つことにした。
早くハイマを出たので、かなり余裕がある。
「わかったわ。それでは今日は何をしようかしら?」
外は雨なので、外には出ることができない。
私が今日一日このお屋敷で何をするか考えていると、ヒューゴが話しかけてくれた。
「クローディア様、ガラマ領邸には大きな図書館や、観劇施設、遊技場もございますよ」
ヒューゴが私を見ながら説明してくれた。
ちなみにこの国で遊技場と言うと、トランプのようなカードゲームを楽しむ場所だ。
「どれも楽しそうね」
私が声を上げると、レオンが私に尋ねた。
「クローディアは、カードは出来るのか?」
私は首を振った。
「いえ、全くしたことがないわ……」
トランプならしたことはあるが、この世界のカードゲームはしたことがない。これまで、王妃教育や結婚式そんな時間はなかったのだが……。
「そうか、では教えてやる!!」
レオンが楽しそうに言った。
「ありがとう」
時間もあるし、カードゲームも嫌いではないので、私はレオンにカードゲームを教わることになったのだった。
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