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第三章 チームお飾りの王太子妃、隣国奪還

148 チームお飾りの正妃の休息

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 ベルン奪還直後、ロニはハイマ国騎士団団長カイルの元へ、ベルン奪還を伝えるためにハイマ国に戻って行った。
 私たちも、自分たちのできることでベルン国の復興の手伝いをした。

 そして、ベルン奪還から三日後。私たちはアンドリューに招かれて、ベルン国の王宮にいた。
 今日は、国王と王妃、そして、アンドリューとローザとジルベルトやネイが、私たちを招いてくれた。
 ウィルファンやエルファンや、ハイマの騎士、スカーピリナ国の兵も呼ばれたので、かなりの人数だった。

「ベルン奪還にご尽力下さり本当に感謝致します、どうぞ今宵は心ゆくまでお楽しみ下さい」

 国王の言葉で、豪華な料理の並ぶ宴が始まった。
 きっと今の状況でこれだけの料理を用意するのは大変だっただろう。
 御馳走とは、本来、お客様をもてなすために方々を走り回って用意するという意味もある。この大変な状況の中、たった三日間で、これだけの料理を準備をしてくれたのかと胸が熱くなった。
 私は感謝して食事をしたのだった。

 そして和やかに食事を終えると、中央のテーブルにお酒やデザートが並び、自然と立食形式になった。
 私は、リリアとジーニアスと一緒に美味しそうなスイーツを前にして悩んでいた。

「クローディア様、これは、カンミという果物をふんだんに使った物で酸味があるのに甘くてとても美味しいですよ。そしてこちらは、ウドブと言って上品な甘さと香りを楽しむことが出来ます」

 ジーニアスが、スイーツを前にして私とリリアに説明してくれた。

「ん~~ジーニアスさんの説明を聞いていると、どれも食べたくなりますね」

 リリアが真剣な顔で言った。

「ええ。そうね。でも……お食事をたくさん頂いたから、全部は食べられないのよ、全部は!!」

 スイーツはどれも美味しそうだが、手のひらのサイズほどの大きさだ。恐らく一つしか食べられない。それなのにどれも美味しそうだし、初めて見るスイーツもあって食べてみたい。
 これはかなり難問だ。
 私が腕を組んで真剣に悩んでいるとリリアが声を上げた。

「クローディア様、それでは私と半分こにしませんか? それなら、二種類食べられます!!」
「……リリア、それはいいわ!!」

 私が声を上げると、ジーニアスも言った。

「では、私も入れて三人で分けるというのはいかかでしょうか? それなら三種類食べることができます!!」

 このスイーツは一つが大きいので、三人で分けてもスイーツバイキングに並んでいるケーキくらいの大きさだ。小さいということはないし、何より三種類も食べられるのは嬉しい。

「いいわね!!」

 私が喜んでいると、ジーニアスが嬉しそうに言った。

「では、サーブして貰いますので少々お待ちください」
「わかったわ」

 私とリリアが近くの席に座ろうとすると、アンドリューに話しかけられた。

「クローディア様、少々お時間よろしいでしょうか?」

 私がリリアを見ると、「もうしばらく時間がかかると思います」と言った。私はリリアに「では、行ってくるわ」と言ってアンドリューにエスコイートされて、ベランダに出た。
 アンドリューは、ベランダに出ると、私を見つめながら話をしてくれた。

「ここならゆっくり話が出来そうですね。あらためてクローディア様、ベルン奪還にご尽力頂き、誠にありがとうございました」
 
 アンドリューはゆっくりと頭を下げた。私は慌てて声を上げた。

「顔を上げて下さい。アンドリュー様」

 アンドリューは顔を上げると、真っすぐに私を見ながら言った。

「この先、あなたが困ったら、なんでも言って下さい。今度は私が必ずあなたをお助けいたします。困ったことがなくても頼って下さると嬉しいですが……」

 アンドリューが少しはにかむように微笑みながら言った。
 私は笑顔で「感謝いたします」と答えた。すると、アンドリューは少し複雑そうな顔をして、私の瞳を見つめると「私は……本気ですよ。本気であなたに頼られたいと思っています」と言った。
 私は返答に困っていると、アンドリューが私の手を取って、手の甲にキスをした。じっと見つめられて、無意識に一歩下がろうとした時、中からローザの声が聞こえた。

「お兄様~~そろそろピアノのご準備を~~お兄様~~~」

 今日はこの後、アンドリュー王子がピアノを披露してくれることになっているのだ。実は食事中に、私がアンドリュー王子に、ピアノを聴かせてほしいと頼んだら、私との祈りの曲を即興で連弾にすることを思いついたらしい。私は自分の練習したままを弾けばいいそうだ。連弾なんて子供の時以来なので、楽しみだった。
 アンドリューはその準備があるのだろう。私はどこかほっとしながら言った。

「ローザ様が探しておいでですよ、行ってあげて下さい。……演奏、楽しみにしています」

 私がアンドリューにそう言うと、アンドリューが困ったように笑いながら言った。

「はい。では、私は先に行って、用意してきます。クローディア様との連弾も楽しみにしてます。では」

 アンドリューはそう言うと、部屋に入って行った。

「はぁ~王子様の社交辞令は……心臓に悪い」

 フィルガルド殿下も、アンドリューも……私は、王子様という人種の笑顔は……心にまとっている鎧を剥ぎ取られてしまいそうで……苦手かもしれない。
 私がそんなことを思いながら、大きな溜息をつくと柱の影から長身の男がゆらりと出て来た。

「ベルン国の王太子の協力を取り付けたのか……さすがだな」

 私は、完全に無防備だったので身体が跳ね上がりそうなくらい驚いた。

「ブラッド?! いたの?! もう、驚かさないでよ!!」

 ベランダにはすでに先客、レナン公爵家のブラッドがいた。
 この男もある意味、心臓に悪い。

 ブラッドの黒い髪を風になびかせ、月の光を浴びて佇む姿は、悔しいがとても絵になる。
 そういえば、ブラッドはこういう場でよくベランダにいるように思えた。
 私が声を上げるとブラッドが不機嫌そうに言った。

「先にここにいたのは私なのだが……」
「……確かに、そうね……」

 私は、なんとなくベランダに手すりに手を乗せると、丸く大きな月を見上げた。
 少し風があるのか、私は顔にかかった髪を耳にかけた。
 私は、ブラッドと二人で並んで、ただ月を見ていた。

 中の喧騒が聞こえてくるが、ここはとても静かだ。

 きっと私から話かけなければ、ブラッドから言葉を紡ぐことはないだろう。
 このまま黙ったまま「風が冷たくなる」とか「皆が待っている」と言って、中に戻ることになるだろう。
 だが、それはなんとなく嫌だった。

「ねぇ……ブラッド、どうしてそんなに不機嫌なの?」

 私は遠慮することもなく、ブラッドに尋ねた。
 ブラッドの言う通り、私がアンドリューに協力の約束を取り付けたのなら、不機嫌になる必要はない。
 今は、いつもの無表情ですらなく、明らかに機嫌が悪そうだ。

 ブラッドは、眉を寄せると益々不機嫌そうな顔をしたかと思うと私に顔を近付けてきた。
 月明かりに照らされたキレイな顔が近付いてきた。

 ――何……?

 私が動けないでいると、ブラッドが私の耳に顔を近付けながら、甘い低音で囁いた。

「その理由を知る覚悟があるのか?」
「え……」

 私が唖然として立ち尽くしているとブラッドは私から顔を離して小さく笑った。

「……こんなことを言うと、またあなたに質問に質問で返すなと、言われてしまうな」

 私は、ブラッドに囁かれた耳を押さえて、すぐにブラッドから距離を取った。
 顔に熱が集まる感覚もある。私はそれを隠すように大きな声を上げた。

「そんなの……言うに……決まってるじゃない!!」

 私が思わずそんな返事をしてブラッドを見つめていると、ブラッドが満足そうに手を差し出した。

「あなたのその反応で十分だ。冷えるぞ。戻ろう」
「え? ええ」

 私はどこかぼんやりとしながら、ブラッドの手を取って部屋に戻ったのだった。







 クローディアたちが、話をしていた頃。
 ハイマ国王宮では、フィルガルドが苦悶の表情を浮かべていたのだった。




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