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第三章 チームお飾りの王太子妃、隣国奪還
132 チームお飾りの正妃の戦略会議(1)
しおりを挟む朝の光を感じて目を覚ました。
私はベッドから出ると窓の前に立って一日の始まりを感じた。
――朝が来た。
私はそれからすぐにベルを鳴らして、辺境伯邸で働く侍女に身支度を手伝ってもらった。髪は念入りに編み込んでもらうようにお願いした。「いかがでしょう?」と言われて鏡を見ると、髪をきっちりと編み込まれて凛々しく見える自分がいた。私は「ありがとう」と侍女にお礼を言って、微笑んだ。
少し前の私だったら、こんな日は眠れなかったかもしれない。
でも、今日は眠れた。
羊も数えなかった。
もう十分に悩んで、決断した。
後は、自分の決めた道を進むだけだ。
私は目を閉じて、アドラーやリリアが迎えに来てくれるのを待っていた。
「クローディア様、お迎えの方がお見えです」
私は目を開けて椅子から立ち上がると、迎えに来てくれたアドラーとリリアの元に向かったのだった。
廊下に出ると、アドラーとリリアだけではなく、ブラッドも待っていた。お互いに「おはよう」と朝のあいさつをした。あいさつを終えるとブラッドが私の前まで歩いて来て、無表情のままに口を開いた。
「眠れたようだな……」
私はブラッドに向かって挑むように笑って見せた。
「ええ。おかげ様で……さぁ、行きましょうか……」
アドラーやリリアが「はい」と返事をすると、ブラッドも少し口角を上げながら言った。
「ああ、行こう。朝食を終えたら……戦略会議だ」
私たちは朝食を済ませると、戦略会議のために会議室に向かったのだった。
◆
クローディアたちが戦略会議のために会議室に入った頃。
旧ベルン国の王都の小さな通りを黒いマントを羽織った男が歩いていた。かつて活気に溢れていた旧ベルン王都内は随分と荒れ果てて閑散としていた。たった半年でかつてのベルン国の王都は、随分と衰退していた。
黒いマントの男は人が居なくなった無人の家の前で、子供が遊んでいたと思われる手のひらに乗るほどの木馬が落ちているのを見つけた。男は木馬を拾い上げると、小さな声で呟いた。
「愚かだな……」
そして男は、木馬を近くの家の窓辺に置くと、再び歩き始めたのだった。
◆
私が辺境伯邸にある会議室に入ると、すでにみんなが集まっていた。
学校の教室、二つ分ほどの広い部屋の中央には、二十人は座れる細長いテーブルが置いてある。
そのテーブルの奥には、レオン、レイヴィン、ガルド、ラウル、レガード、ロニが座っていた。そして、手前にジルベルト、ウィルファン、ジーニアス。そして、私と一緒に部屋に入って来たブラッド、リリア、アドラーが手前に座った。
私はレオンの前で、ブラッドの隣に座った。
ヒューゴは、朝一でアンドリュー王子の容態を確認するために隠された洋館に行くと行ったので、姿が見えなかった。
私は、皆の顔を見渡しながら「今日は集まってくれてありがとう」言った後に、少し深呼吸をして身体に新鮮な空気を取り込んでから言った。
「これから私は、旧ベルン国奪還に手を貸そうと思っているわ」
私の言葉に驚いたように声を上げたのは、昨日辺境伯の屋敷に着いたばかりのロニだった。レオンは隣のレイヴィンが通訳をしてくれている。
「え?! 旧ベルン国を奪還?!」
ロニは驚いていたが、他の皆は、あまり驚いているように見えなかった。
私はロニに説明するように言った。
「ええ。奪還と言っても、私たちが兵を率いて攻め込むというわけではないの」
「え?」
ロニは、目を大きく開けて私を見ていた。私はロニだけではなく皆を見ながら言った。
「私たちがするのはあくまで奪還のお手伝い。ベルン国を実際に奪還するのは、旧ベルン国の民に任せるつもりよ。ジルベルト様もそれでよろしいかしら?」
ジルベルトは怖いほどに真剣な顔で言った。
「充分です。感謝いたします」
――そう、ベルン国奪還と言っても、私たちがするのは旧ベルン国の民が動けるようにきっかけを作ること。
イドレ国の統治に不満を持って、地下組織まで作って奪還の機会をうかがっている旧ベルン国の人々が、動けるように影から手助けしようと考えている。
私はジルベルトの言葉を聞くと口を開いた。
「ベルン国を手助けしようとする一番の理由は、イドレ国に価値を気付かれる前に――バイオレットアッシュを守るため」
偶然にも私の動く理由は、以前領主代理の人々が、領主代理という仕事の誇りを守ろうとして残した暗号と同じ理由になっていた。
フィルガルド殿下のためにも、イドレ国にバイオレットアッシュを奪われるわけにはいかないのだ。
「他にも、旧ベルン国を奪還できれば、スカーピリナ国とハイマ国の移動距離が短縮になって何かあった時にすぐに連携出来るわ。それに、旧ベルン国が同盟国に入れば、これまで国を奪われて泣き寝入りしている国々への起爆剤にもなるわ」
現在スカーピリナ国に行くには、このダラパイス国王都を南下して、山脈を避けて大きく迂回して行くしか手段がない。だがベルン国がイドレ国から独立して同盟国に入れば、ダラパイス王都を南下せずにそのまま真っすぐにスカーピリナ国まで行ける。
ロニは、唖然としながら私を見ながら言った。
「そんな夢みたいなことが……本当に……可能なのですか?」
私は、ロニを見ながら言った。
「私は、出来ると思っているわ。だから、皆。力を貸してほしいの」
私の言葉に初めに反応してくれたのは、レオンだった。
『私も共に旧ベルン国を奪還したいと思っている』
そしてラウルも声を上げた。
「私個人としてもクローディア様の手助けができるのであれば、望むところです。しかも今回は、ハイマ国騎士団としても防衛の観点から見ても、またイドレ国の戦力を割けるという点からも、お手伝いさせて頂きます」
ラウルの言葉に、レガードも大きく頷いた。そんなレガードを見てロニも頷いた。
ハイマ国は、隣のベルン国をイドレ国に奪われて、まさに目前まで脅威が迫っている状況だった。現在ハイマ国の北部のイドレ国、つまり旧ベルン国との国境付近には、多くの騎士を派遣して警戒している。そのことを考えても今回、ベルン国が奪還できれば、騎士団の負担もかなり減るのだ。
ジーニアスやリリアも大きく頷いてくれた。
「ありがとう……」
私はみんなにお礼を言った後に、再び口を開いた。
「では、早速、戦略会議を始めましょう」
こうして、旧ベルン国奪還に向けての戦略会議が始まったのだった。
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