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第三章 チームお飾りの王太子妃、隣国奪還
123 森の中の隠された洋館(1)
しおりを挟む昨夜の話合いで、私と一緒にローザに会いに行くのは、ブラッド、レオン、ガルド、ラウル、アドラー、ヒューゴ。そして、エルファンとウィルファンに決まった。
屋敷の前に用意されていた馬を見て、私は唖然としてしまった。
もしかして、今日って馬での移動……?
『クローディアは馬には乗れるのか?』
レオンの問いかけに私は、またしても頭を抱えてしまった。ハイマ国では、王族はいざという時にために、乗馬の訓練をするように義務付けられている。もちろん、王妃教育にも乗馬は含まれている。
ところが!!
クローディアは不真面目で乗馬の訓練は一切受けていないので、馬には乗れないのだ。こんな時、なぜ乗馬の訓練を受けなかったのかと嘆きそうになるが、今更どうにもならない。まさにあとの祭りだ。エルファンさえ一人で馬に乗っているが、私は誰かに乗せてもらう必要がある。
私が過去を悔やんでいると、レオンが声をかけてくれた。
『クローディア、俺が乗せてやろうか?』
途方に暮れていたので、レオンに乗せて貰えるなら助かる。私が頷こうとすると、ブラッドが私の肩を抱き寄せながら口を開いた。最近のブラッドは、突然膝の上に乗せたり、抱き寄せたりするので心臓に悪い。
『レオン陛下。悪いが、クローディア殿は私か、ガルドか、アドラー、もしくはラウルが連れて行く』
レオンは片方の眉を上げると、『そうか、遅れを取るなよ』と言って自分の馬に乗った。
どうやら、馬に乗るのも警備の都合や制約があるようだ。私は今後、馬に乗る時はガルドか、アドラーか、ラウルに頼むようにしようと思ったのだった。
そして、ガルドに頼もうかと辺りを見渡していると、ラウルは、レオンとブラッドの会話がわからなかったようで、ヒューゴにブラッドの会話を訳してもらっていた。その間にアドラーが私に声をかけてくれた。
『クローディア様、私が……』
親切に声をかけてくれたので、私はアドラーに乗せてもらえるようにお願いしようと思っていた時、ブラッドが私を急に抱き上げた。
「ええぇ?!」
突然抱き上げられたので、驚いていると、ブラッドが不機嫌そうに眉を寄せながら言った。
「行くぞ、クローディア殿」
私はブラッドの謎の威圧に思わず頷き、そのままブラッドに背中から抱きしめられるように馬に乗った。私は背中にブラッドの体温や、ブラッドの息づかいを耳のすぐ横で感じて大混乱だったので、何も考えないように頭の中で素数を数えようとしたが、いきなり1が素数に含まれるのかどうか、わからなくなってしまったので、素数を数えるのは止めて、元素記号を思い浮かべた。
「クローディア様、お気をつけて!!」
「どうか無理はされないで下さいね!」
エントランス前で、ジーニアスとリリアとレイヴィンが見送ってくれた。
私は、意識を三人に向けて大きな声で答えた。
「いってきます。そちらも無理しないでね!!」
こうして私は三人に見送られて、森の中の洋館に向かったのだった。
◆
私たちは、想像以上に深い森の中をしばらく馬で走っていた。馬が揺れる度に振動が伝わって来るが、ブラッドがしっかりと抱きしめてくれているので、痛みや酷い揺れを感じることはなかった。もしかしたら、ブラッドの乗馬の技術はかなりのものなのかもしれない。
私も最初よりは、混乱も落ち着き、少しずつ冷静になって来た。
この道では、馬車は無理ね……。
そんなことを考えていると、ブラッドが口を開いた。
「クローディア殿、悪路が続いているが、気分は悪くないか?」
「悪くないわ」
私は短く答えた。するとブラッドは少し安心したように「そうか」と言ったのだった。
それからすぐに、目の前に石造りの洋館が見えて来た。ツタなどで覆われて歴史を感じる外観は、シャトーと呼びたくなるような趣きがあった。
私の目に先に馬を降りて、屋敷の前に立っていたレオンの姿が見えた。
そしてレオンの前には、見知らぬ男性が一人で立って、まるで私たちが来るのを知っていたかのように出迎えてくれたのだった。
◆
またしてもブラッドに抱かれながら馬を降りると、ブラッドが馬を繋いでいた間にラウルとアドラーが側に来てくれてた。ガルドは周囲を確認した後にやってきて、ブラッドや、ヒューゴも馬を繋ぎ終わって、私たちも見知らぬ男性の元に向かったのだった。
「お手をどうぞ」
アドラーが手を差し伸べてくれたので、私は「ありがとう」と言って答え、手を取った。
ブラッドが私の半歩前を歩き、アドラーが私の隣に立ち、ラウルが後ろについて私たちを迎えてくれていた男性の前に立った。
「クローディア様!! この人がジルです」
エルファンが扉の前に立っていた男性を嬉しそうに紹介してくれた。
この人が、旧ベルン国の宰相ジルベルト。
私が昨日のウィルファンとの話を思い出していると、ジルは、完璧な作り笑顔でスカーピリナ国の言葉であいさつをした。
『はじめまして、王太子妃殿下。私はジルベルトと申します。本日はようこそお越しくださいました』
私はアドラーから手を離し、ジルベルトをじっと見つめながら、エルファンを不安にさせないように答えた。
『お出迎え感謝いたします。クローディアと申します。本日は、エルファンのお友達にお会いできることを嬉しく思います。ジルベルト様もエルファンのお友達とのことですので、あとでぜひお話をお伺いしてもよろしいでしょうか?』
私の言葉に、ジルベルトは笑みを崩すことなく答えた。
『ええ、もちろんです。それではお茶の用意をして応接室でお待ちしております』
ふとジルベルトの手を見ると、随分と荒れていた。
ジルベルトの答えを聞いたエルファンが、私の手を取りながら言った。
「クローディア様、行こう!! ローザはこっちだよ!!」
「え、ええ」
私がエルファンに手を引かれて移動しようとすると、ウィルファンがエルファンの前に立った。
「エル。そんなに引っ張るとクローディア様が歩きにくいだろ? エルは先に歩いて、案内しなさい。わかったね?」
エルは、意外にも素直に手を離した。
「わかった。でもすぐに来てね!!」
エルファンが手を離すとすぐに、アドラーがやってきて、手を差し出してくれた。もう屋敷の中なので、一人で歩けると思ったが、アドラーの表情が怖いほど真剣だったので、私は大人しくアドラーの手を取ったのだった。
洋館は外から見ると、怖いほど不気味な雰囲気だったが、中はとてもきれいだったので意外だった。さらに屋敷の中には人の気配はほとんどなかった。
ウィルファンの話だとここには王族がいるはずだが、やはり隠れているからだろう。必要最低限の人数しかいないのかもしれない。
そういえば、先ほど見たジルベルトの手は随分と荒れていた。
「クローディア様、ここです!!」
私がそんなことを考えているうちに、エルファンが一際重厚な扉の前に立って、声を上げた。
そして、扉をノックすると大きな声を上げた。
「ローザ!! ローザのお兄様~~ネイ~~~入ってもいい?」
エルファンの声に、ゆっくりと扉が開いて、中から顔の数か所に傷のある少年が出て来て「どうぞ」と言って、私たちを部屋の中に招き入れてくれたのだった。
部屋の中に入るとベッドの上に、青い瞳が印象的で、大樹の幹のような落ち着いた茶色の髪の青年が横たわっていた身体を起こそうとしていた。青年の唇は色を失い、顔色は酷く悪い。
そして、ベッドの近くには顔色はそれほど悪くはないが、私たちにあいさつをするために杖を使って不安定に歩いていこちらに向かっている青年と同じ瞳と髪色の少女がいたのだった。
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